Cases / Surveys / Reports 事例・調査・レポート

スリーエム ジャパン株式会社 様

スリーエム ジャパン株式会社 様

「スポンサーシップ」「異業種交流」「ネットワーク」がリーダーを育てる

執行役員 人事担当
野川 真木子(のがわ まきこ) 様


I’m in!――ダイバーシティを自社のコアバリューに

伊東:御社は、グローバルに、ダイバーシティ経営をなさっていますね。ダイバーシティ経営を重視する背景について聞かせてください。

野川:スリーエム(以下、3M)は115年の歴史の中で、サイエンスを通じて社会や生活を豊かにすることを目標に、イノベーションを繰り返して大きくなってきた会社です。イノベーションの源泉には、価値観の多様性があります。
ただ、ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)を今日のように前面に打ち出して強く推進してきたのは、この5年ほどのことです。2012年にスウェーデン人の現CEOが就任し、彼の強い信念とリーダーシップの下、D&Iを進めてきました。近年は、全社を挙げて「I’m in」という言葉をスローガンに掲げて、「私はチームの一員だ」という安心感をもって活躍していける職場環境づくりを目指してD&Iに取り組んでいます。
D&Iというのは結局、すべての社員にかかわることです。日本では、社員の多くが新卒採用で入社し、定年までこの会社でキャリアを全うするつもりで働いています。30%強はキャリア入社ですが、その中にも、キャリアの早い段階で3Mに入社した社歴の長い方も大勢おり、勤続20年以上の選手も多くいます。ですから、外資系企業といっても、社員の構成は日本企業と変わりません。
そうした中で掲げている「I’m in」というのは、多様性のある組織づくりを奨励するだけにとどまらず、一人ひとりがそれぞれの個性を持ち、自分自身が組織の一員として受け容れられているという安心感をもって個々の能力を発揮できる組織づくりをしていこうということです。
日本では、2012年に「DIIVA(Diversity & Inclusion for Innovative Values)」という自主参加型の組織を立ち上げて活動しています。アメリカでは「ウィメンズ・リーダーシップ・フォーラム」という名称ですが、日本では、女性が女性のためだけにダイバーシティ推進をするのではなく、さまざまな多様性を包含するコミュニティとして立ち上げました。おかげさまで、3Mが世界各地で推進しているこうした数々の活動と努力が認められ、2017年1月、グローバルの3Mとして「カタリストアワード」を受賞しました。

伊東:日本で、「ウィメンズ・リーダーシップ・フォーラム」にせず、「DIIVA」として活動を推進したことは、ダイバーシティの本質を組織の中で推進していくうえで、多くの企業に参考にしていただきたいことです。なぜ、ダイバーシティ、なぜ、ジェンダーダイバーシティかを深く考えず、女性活躍とだけ打ち出しても、なかなか新しい発想やアプローチは生まれにくいと思います。日本での取り組みは、まさしく、組織に新しい化学反応を生み出す「カタリストアワード」につながりますね

スリーエム_0277.jpg

優秀な人材は、国籍や性別を問わず登用

伊東:

現在のCEOのダイバーシティへの取り組みは、グローバル市場における3Mの企業価値創造の取り組みの一環なのだと思いました。新しい風を入れている今のCEOは、ヘッドハンティングされて、今のポジションに就いていらっしゃるのですか。

野川:3Mのスウェーデン法人でキャリアをスタートした生粋の3Mリーダーです。また、アジア地域の前リーダーはベルギー人でした。当社では、その人が強いタレントだと認識されれば、国籍や性別などのバックグラウンドにかかわらず登用されます。日本からも、製造部門の担当役員がラテンアメリカの製造拠点のリーダーに就任したり、とある事業部門担当役員(女性)がシンガポール法人の社長に就任したりと、国境を越えたリーダーの配置が年々加速しています。このように、実力と実績次第でキャリアオポチュニティが広がることをリーダー自身が体現しています。

スリーエム_0115.jpg

数値目標を定めて女性を積極採用

伊東:日本国内でも、D&Iは加速しているのですか。

野川:大変不名誉なことに、社員に占める女性の割合も、部長職以上に占める女性の割合も、日本は、世界の3Mの中で最下位です。D&Iは大事だと過去数年言い続けて様々な取り組みにも挑んできましたが、その効果や成果がなかなか形になって現れていませんでした。2016年10月に前社長(2017年9月離任)が就任してから、毎月の役員会で必ず、女性管理職の割合や昇進率を部門ごとに数値で表し、経営としての取り組みを形にして役員全員が進捗を確認するようにしました。
また、全社員に占める女性の割合は約20%程度ですし、かつてはコース別採用を行っていたこともあり、皆が同じようなキャリア志向を持っているわけではありません。そこで、新卒採用でも中途採用でも、女性の採用比率を50%に引き上げることを目指してまず女性社員の人数を増やすことに注力しました。女性が活躍できる土壌があることをお伝えし、新卒採用においては、今年の入社者も来年入社予定の内定者も、50%の女性比率を達成できました。中途採用については、社会全体で転職を検討する女性人材が男性に比べると少ないこともあり苦労をしていますが、努めて女性候補者を募集するよう心がけたところ、今年入社いただいた中途採用者の48%が女性になりました。もちろん、能力的な面で決して妥協はしていません。B to Bのビジネスではお客様の多くが男性ですから、入社いただく女性にも覚悟と柔軟性が求められます。

伊東:外国人採用も積極的に行っているのですか。

野川:はい。外国人留学生の採用ターゲットを設けているわけではありませんが、優秀な留学生の方々には多く応募いただいており、特に中国、韓国などアジア諸国からの留学生が多いです。

伊東:そうなってくると、ジェンダーだけでなく、多様な人たちがいることが当たり前になり、周囲の人たちのマインドも変わってきますね。

女性の登用に向け、スポンサーシッププログラムを開始

伊東:

グローバル企業の3Mさんであっても、日本の伝統的なカルチャーがある中、採用以外の面では、どのような施策を進めていらっしゃいますか。

野川:部長職以上の女性の割合には、こだわりを持って取り組んでいます。当社は、グローバルで、2025年に向けた「サステナビリティゴール」を設定しています。環境やビジネスなどさまざまな指標がありますが、その中において、「すべての社員に成長の機会を提供する」ということと、「マネジメントのパイプラインに占める多様性のあるタレントの割合を2015年から2倍にする」ことを目指しています。多様性にもさまざまなものがありますが、とりわけアジアではジェンダーダイバーシティを重視しています。現在、マネジメントの一員である部長職以上の女性の割合は6%強程度であり、まだまだ途上にいます。
そこで、2015年12月に「スポンサーシッププログラム」を導入しました。スリーエム ジャパンの将来のマネジメントを担えるポテンシャルのある女性を特定し、担当部門の役員をスポンサーとして、部長への昇進を加速していく2年間のプログラムです。当初は18人の候補者を選定し、その中からは既に4人の部長が誕生しました。残りのメンバーも、プログラム期間中にさらなる成長を目的とした計画的な役割変更を経験しています。

伊東:取り組みが、着実に結果として表れているのですね。

野川:スポンサーというのは、メンターのように単に相談に乗るのではなく、オーナーシップを持って、自分の使命の一つとして候補者を引き上げる努力をしなければなりません。成功事例も複数ある一方、女性人材を部長登用するという経験をしているリーダーもまだ少ないため、本人側もスポンサー側も試行錯誤しているケースがあるのが現状です。まだ双方の交通整理が必要な段階だと考えています。

伊東:2015年から2年間のプログラムということですが、新たな候補者も加えているのですか。

野川:はい、第1期の成功事例も参考にして「新たにうちの○○さんをスポンサーシッププログラムに入れてしっかり育成していきたい」という声も現場から複数挙がってきましたので、2017年10月から新たに6人で第2期をスタートしました。

コピー-~-スリーエム_0323.jpg

女性同士のネットワークや、他社との交流の場を提供

野川:また、晴れて部長職以上に昇格した人を放っておくのではなく、彼女たちに対するケアも必要です。
フェイスブック社COOのシェリル・サンドバーグ氏の著書『LEAN IN(リーン・イン)』(日本経済新聞出版社)という本があります。アメリカの女性であっても、キャリアと私生活のバランスを保つのが難しいということを彼女らしく、ユーモアたっぷりに語られていて、女性はもちろん、女性を部下や同僚に持つ男性が読んでも示唆に富む本です。
この本に共感した人たちの「リーンイン・サークル」という集まりがあり、当社は、そのサポーター企業として、社内でリーンイン・サークルを米国はじめ世界各国で展開しています。すでにラテンアメリカ諸国や中国など他の国でも行っており、2017年2月には日本でも、部長職以上の女性を対象に、自由参加のサークルとして立ち上げました。「ここで話したことは、サークル以外の人に口外しない」というルールの下、会社生活上の想いやさまざまなことを語り合い、互いにケアし合っています。最初のキックオフでどんな話をしようかと尋ねたところ、「どうやって男性の意識を変えるかを話し合いたい」という声が多く、大変盛り上がりました(笑)。話をしやすいように、2つのサブサークルに分け、お互いに中間報告会として全員が集まる機会も設けるなど、工夫しながら運営しています。 

伊東:ほかにも女性だけを対象にした施策はありますか。

野川:2013年ごろから、管理職登用前後の人を対象に、異業種の企業5社共同で、「女性のためのビジネスリーダーシップ塾」という9カ月間のプログラムを行っています。参加者が集まってロールモデルとなり得る各社の女性役員などに話をしていただき、そこから学びと気づきを得るセッションをしています。社内にいると、自社のやり方を当たり前と思い込んでしまいますが、社外の同じようなキャリアステージにいる方々と話をすることで視野が広がります。卒業生の6割は、管理職になるか、その直前のステップに来ています。女性管理職の候補者を育成する上でも有効だと感じています。

伊東:視野を広げることを意識させるだけでなく、実際に体感できるいいプログラムですね。ポテンシャルのある人材は、外の世界と切磋琢磨することが大事です。
女性を部下に持つ男性管理職の意識改革にも取り組まれていますか。

野川:新任管理職研修や選抜型のリーダーシップトレーニングなどの場を捉え、いろいろな形でD&Iに関するセッションを設けるよう心がけています。今年は、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をテーマに、まずは役員、事業部長、製造部門・研究開発部門のシニアリーダークラス約100人ほどを対象とし、一般社員からも公募をして実施したところ、大変好評でした。自社のカルチャーの礎となるように、継続してやっていこうと思っています。
難しいのが、性別関係なく同じように成長させようとすると、男性の部下と同じ育て方をしてしまいがちなところです。もちろん、差別をしたり女性を甘やかしてはいけませんが、性別や世代の特性を考慮して、育成のアプローチやコーチングの仕方は個性に応じて変えるべきと考えています。そこをどう教育するか、苦心しています。

ハイパフォーマーこそ戦略的に動かす

伊東:ビジネスが大きく変わる中、

リーダー人材の早期育成が世の中のトレンドになっています。役員がどういう人材を育てていくかというのは、重要なテーマです。
ハイポテンシャル人材の見極めは、定期的にされているのでしょうか。

野川:年1回、①グローバルで活躍するディレクターレベル、②事業部長を目指せるポテンシャルを持つレベル、③部長層を目指せるポテンシャルを持つレベルそれぞれで見極めを行い、集中的に投資しています。

伊東:ハイポテンシャル人材の成長を促すためには、かなりストレッチなジョブアサインをする必要があります。外資系企業は、事業部門ごとのサイロになりがちな傾向がありますが、御社ではいかがですか。

野川:ご指摘の通り、当社も同じ事業部で同じお客さまに長く添い遂げることも評価される一方で、これだけの規模の多様性のある事業部構成を有する企業において同じ事業部の経験しか持たない社員も散見されます。会社のニーズと本人のキャリア志向とをいかにバランスよく異動に結びつけるか、役員間でも頻繁に議論され、ハイパフォーマーであるからこそ、意識的に複数部門を経験させるよう努めています。目の前のビジネスがありますし、お客様との間で長年築いてきた関係も大切にしたいので、タイミングと異動元・異動先との調整に粘り強く取り組んでいます。

伊東:優秀な人材が部門に囲い込まれるという話はよく耳にします。
一方、海外に目を向けると、アジアの人材は、市場そのものがエマージングマーケットということもあり、短期間で相当な経験を積んでおり、そこで視野も広がり、視座も上がっています。若いうちに塩漬けにしてしまうと、そういう海外の人材と戦う力が身に付きません。そうならないように、人事が強制的に若手の優秀層を動かす会社もあります。

野川:当社では、2013年入社の新入社員から、2年おきにローテーションする仕組みを設けました。入社3年目、5年目になる時に異動して、5年間で2回のローテーションを行います。2年という期間をちょうどよいという声と、短すぎるという声の両方のフィードバックがあり、実際には「なぜ若手だけ定期的に異動させるのか」という声も聞こえます。しかし、若いうちにこそ意識的にローテーションすることを通じてなるべく多くの経験を積んでおかないと、多様な変化に対応できる基礎体力が身に付きません。「ご自分が育ってきたのと同じようにあなたの部下を育てられる時代ではない」ということを上司に理解していただき、この仕組みを支援してもらえるように、引き続き取り組んでいきます。また、若手を動かすことで、副次的にはその上の世代の異動にも作用し、少しずつでも組織全体が変わっていくことを期待しています。

コピー-~-スリーエム_0323.jpg

他社とも連携しながら、社員の成長を図っていく

伊東:先ほど、女性のためのビジネスリーダーシップ塾についてご紹介いただきましたが、男性リーダーには、他流試合的なプログラムはないのですか。

野川:大々的には行っていませんが、2014年から実施している「ジャパン・リーダーシップ・アカデミー」というハイポテンシャル人材を対象にした研修の修了生(男女問わず)の中からさらに選抜されたメンバーと、他社さんからの参加者との他流試合的なプロジェクトワークに臨んでいただく仕組みを2017年に試験的に実施しました。他社の人材とディスカッションを交わして一つの成果物をつくりあげるプロセスから「自分たちとこんなに視点が違うんだ!」と刺激になるはずです。
最近は、外資系企業も日本企業も、他社との連携を意識するようになってきたと感じます。以前は、他社と一緒にトレーニングをするということは少なかったと思いますが、最近ではそうした取り組みをする企業が外資系・日本企業問わずかなり増えてきました。また、他社に「お話をお聞きしたい」とお願いすると快くお受けいただけますし、当社に話を聞きに来られる方もいらっしゃいます。日本社会全体がかつて遭遇したことがないような課題に直面することが増え、一社で取り組むより、他社の事例を勉強しながら、また連携しながら取り組むことが必要な時代なのだと思います。

伊東:ダイバーシティの推進は、組織の人たちの意識改革は勿論重要なことですが、視野を外に向けて、自社だけではなくいろいろな企業、業界の人たちと接する経験こそが、多様性の本当の意味や意義を考えるうえで、大事なことだと、本日のお話を伺いながら、さらに強く思いました。D&Iは、化学反応を生み出し、新しいものが生まれてくる、野川さんがおっしゃった「カタリスト」こそが、ダイバーシティが目指すものだと思いました。
本日はありがとうございました。

スリーエム_0346.jpg

会社名
スリーエム ジャパン株式会社
創業
1960年(昭和35年)2月23日
資本金
9億6,000万円
売上高
284,156百万円(2016年)
従業員数
2,751名(2016年12月末日)(3Mジャパングループ)