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株式会社日立製作所 様

株式会社日立製作所 様

Grow or Die――
グローバルでの社会イノベーション事業の成長に向けてダイバーシティを推進

人財統括本部 人事勤労本部長 兼 ダイバーシティ推進センタ長
三輪高嶺(みわ たかね)様


ダイバーシティを経営戦略に位置付ける

伊東:たまたまなのですが、今回のシリーズで男性にインタビューをさせていただく機会は大変少なく、ダイバーシティ関連の責任者の方たちは、女性の方が中心でした。

三輪:2009年にダイバーシティ推進センタができ、

私は3代目のセンタ長ですが、たまたま先代も先々代も男性でした。
日本では、ダイバーシティというと女性がテーマになることが多く、担当部署の責任者も女性が多いですね。でも、そうすると、女性のための施策と取られやすい。当社の場合、そもそもダイバーシティは経営戦略の一環であり、女性だけがテーマではありません。
ですので、トップ主導の下で経営上のストラテジーに組み込んでいます。もちろん、このポジションに女性が就けば、女性がセンタ長になります。当社が世界で戦っていくために必要な施策ですので、本社の人財部門でしっかりとドライブしていきます。

伊東:ダイバーシティは本来、女性活躍推進だけに注力するものではなく、経営戦略の一環であると認識しています。最近は、大手企業はどこも、女性のための施策という意識はありません。ダイバーシティ推進の責任者が女性である場合も、たまたまできる人が就いたら自分だったとおっしゃいます。御社の場合は、そこが組織的にもはっきりしていますね。
御社は、フェーズ1「女性活躍推進」、フェーズ2「『女性』から『ダイバーシティ』へ」、フェーズ3「経営戦略としてのダイバーシティ推進へ」とステップを踏みながら、ダイバーシティの推進に取り組んでいらっしゃいます。ダイバーシティを経営戦略の一環として取り組まれる背景には、海外売上比率を伸ばし、グローバルで戦っていく方針であることがあるのでしょうか。

三輪:そのとおりです。日本のマーケットは縮小傾向にありますので、グローバルに出て行くしかありません。グローバルビジネスを展開するとなると、日本人男性だけの組織では難しい。また、当社は現在、社会イノベーション事業に力を入れています。お客さまを通じて、その国・地域の課題を捉え、多様なステークホルダーとともに解決していくビジネスです。その実現には、その国・地域に詳しい人たちと一緒に働く必要があり、ダイバーシティ推進は不可欠です。
われわれのスピード感からすると、今一気に推進しないと間に合わないと思っています。経営陣は、“Grow or Die”――成長か死かというほどの危機感を持っています。

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ダイバーシティはトップから

伊東:御社において、ダイバーシティ経営は、プライオリティの高い課題なのですね。変革のスピードを上げていくために、どのような取り組みをされていますか。

三輪:トップから変えることが重要と捉え、取締役の構成を見直しました。今は、13人いるうち5人が外国人で、そのうち2人は女性です。
その下の役員(理事)クラスも、外国人や女性を増やしています。2013年に、「2015年までに女性役員を少なくとも1人出す」という目標を掲げ、実現しました。2017年にはさらにもう1人輩出しました。今後さらに加速させ2020年度までに女性比率10%、外国人比率10%をめざします。また、同時に管理職への登用も進めています。2013年当時、女性の管理職は400人程度でしたが、「2020年度までに2倍の800人にする」を目標に、アサイメントや研修による育成を進めています。社会イノベーション事業に軸足を移す構造改革の影響もあって、2017年現在で580 人ですが、まだあと3年ありますので、目標達成に向けて取り組んでいきます。

女性リーダー輩出に向け、研修を拡充

伊東:イノベーションは、異質が入ることにより推進されていきます。そういう意味では、ジェンダーダイバーシティもその一つと考えますが、女性リーダー輩出のために特別な取り組みはされていますか。

三輪:

各階層にさまざまな研修の機会を設けています。また、女性を部下に持つ管理職の研修や、産休前・育休明けに上司と本人、配偶者が参加する研修も行っています。
日本においては、どうしても女性のほうがライフイベントの影響を受けますので、3年ほど前から、若手女性向けのキャリア研修も行っています。ライフイベントの影響を理解したうえで、自分がどうしたいかを考えておかないと、直面してからでは遅い場合があります。当社は8割以上が男性社員ですので、身近に女性の先輩がいない人もいます。「この先、この会社でやっていけるのか」「どういう管理職像を描けばよいか」と漠然とした不安を持っている人も多いので、先輩社員に自分の経験を話してもらいます。 

伊東:リーダークラスにも、女性向けの研修を行っているのですか。

三輪:年1回、部長以上の女性を集めて研修をしています。やはり数が少ないので、若い女性が悩んでいるように、リーダーになった女性も悩みや迷いはあります。リーダーシップに男女は関係ありませんから、研修の内容は、女性特有のものではありません。リーダーシップやマネジメントに関する研修を受けながら、女性リーダー同士のネットワークをつくってもらいます。また、後進育成への期待を示しロールモデルになってほしいと説明する等、社長と直接話す機会も含め、参加者の意欲喚起の場としています 。

伊東:その方たちは、実力があったからそのポジションに就いたわけですが、次の世代を考えると、女性候補者のプールをつくっていかないと、なかなか後が続きませんね。

三輪:パイプラインをつくることは重要と捉えています。マイノリティー側には、ある程度ポジティブアクションが必要です。

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部課長クラスにコーチングスキルを徹底

伊東:御社はタレントマネジメントをされていらっしゃいますが、ポジティブアクションの一つとして、女性のみを対象としたタレントマネジメントも行っていますか。

三輪:男女一緒です。各階層の上司と部下が定期的に話し合い、組織目標を個人に落とし込みながら、仕事やキャリアを考えていく「パフォーマンスマネジメント」という仕組みを導入しました。ただし、男女比率はチェックしています。

伊東:リーダー人財を輩出するために、どんな取り組みをされていますか。

三輪:パフォーマンスマネジメントで大事なのは、直接上司と部下が密なコミュニケーションを取り、自身の組織で付加価値を生み出していくことです。そのために、全社の部長・課長クラスに、徹底的にコーチングの研修を行いました。部長クラス2500人、課長クラス5000人に、2年かけて部下とのコーチングのスキルを身につけてもらいました。ただ、これですぐに効果が出るとは考えていません。繰り返しやっていく必要があると考えています。

伊東:パフォーマンスマネジメントを組織に定着させていくには、おっしゃるように、リーダーのメンバーとの日々の対話がとても重要になります。組織のリーダーのコミュニケーションの質が少しずつでも変わっていくことが、組織の風土を変えていくことにもつながりますね。継続することが重要だと思います。

無意識のバイアスがないか、止まって考える 

伊東:若いうちからの仕事の与え方も大切ですね。

本来は男女関係なく成長の機会を与えるべきですが、その点について、どのように管理職を指導していらっしゃいますか。

三輪:「女性部下を持つ管理職マネジメントセミナー」という研修を行っています。日立グループ全体でまだ女性の人数が少ないため、初めて女性の部下をもつ管理職も多くいます。どこの会社も管理職を対象としたセクハラ・パワハラの研修を実施していると思いますが、初めて女性の部下を持つ管理職にセクハラ・パワハラの研修をすると、女性に対してどう接していいか、どう育成すればよいかと余計に悩んでしまうことがあります。そこで、部下の意識付けや育成には性別は関係無いことを改めて認識してもらう研修を開始しました。その研修には女性管理職が参加することもありますが、管理職側も性別に関係なく部下の育成には迷っていることが多いです。

伊東:仕事を与えるうえで男女は関係ないと頭では理解していても、実際にフェアなアサインメントができるかは別です。慣れていないと、女性にタフ・アサインメントを与えることを躊躇してしまいがちです。

三輪:特に子育て期の女性には、成長のために必要と理解していてもタフ・アサインメントを与えることを躊躇します。

伊東:この点はどこの会社も悩んでいて、“アンコンシャス・バイアス”(無意識の偏見)を理解させる必要があります。まず、自分が無意識に差別していることに気づかせる必要があり、気づいたうえで、どうコミュニケーションを取るかを理解させることも大事です。

三輪:産休・育休の前後に上長と本人が一緒に並んで受講してもらいます。上長には、「中長期的な視野で、アサインメントを与えてほしい」、本人には、「メリット・デメリットを十分に理解したうえで、育休や短時間勤務制度を活用してほしい」と伝えています。「会社や上長は皆さんに期待している」ということを理解させたうえで、キャリアを考えてもらう機会としています。
男女に限らず人はだれでも、何らかのバイアスを持っています。上長は重要なアサイメントを行う際には自分にバイアスがある前提に立ち「このアサインメントはフェアと言えるか」「偏った見方をしていないか」と考える習慣をつけてもらう必要があります。 
つい、いつも頼んでいて頼みやすい部下に頼んだり、「ちょっとこれは難しいかな」と思ったら別の人に任せるというように、楽な選択をしがちです。しかし、その部下を育てようと思ったら、「ちょっと難しいかな」と思う仕事も与え、育てていくことが重要です。 

伊東:リーダーの育成スピードを速めるには、ハイポテンシャルの発掘やノミネートを速めていくことも重要です。

三輪:以前と比較するとかなり早めの30代から、タフ・アサインメントを与えるようにしています。当社では、通常、役員になるのは50代後半ですが 、アメリカなどでは、40代半ばのCEOも珍しくありません。そのスピード感には追い付けませんが、育成スピードを上げないと間に合わないと考えています。
気を付けなければならないのは、リーダーを育成する研修等に選ばれる候補者が、日本人男性ばかりにならないようにすることです。これまでのステレオタイプの選び方をしないよう、選ぶ側に事前に依頼し、実際に選ばれた人もチェックするようにしています。

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“異質”な人財が加わることで変革が進む

伊東:マイノリティーは、抑圧されている分、場を与えられると、ものすごいパワーを発揮するという話を聞きました。人は、自分の中で溜めていたエネルギーを発揮できる機会があると、高いパフォーマンスを発揮するものです。

三輪:若手の優秀者を集めて社長とランチを取ったり、

社長の前でプレゼンを行う機会を設けていますが、その担当者によると、社長が「この人はいいね」という人には、女性もかなり含まれているそうです。男性よりはっきりものを言う女性も多く、これからの活躍が期待されています。 

伊東:男性がつくり上げてきたビジネスモデルの中に異質が入りますので、いい意味で空気を読まないのですね。これまで、異質が少なかった業界で、空気を読むということを気にせずに新しいやり方を進めていく外国人のやり方を見た若い世代が刺激を受けて、新しいことを学ぼうとする効果が生まれています。ダイバーシティはいろいろな意味で手間暇がかかり、物事を決めるのにも時間がかかりますが、大きなメリットもあります。
職場の中で変革を起こしていくときにも、女性が入るほうが、違う着眼点で意見を言ってくれるので、変革が進みやすいといいます。御社でも、女性リーダーがテコとなって変革を起こす傾向はありますか。

三輪:当社における女性や外国籍の人の育成や活躍は発展途上ですね。特に日本国内の製造業は同じ傾向にあると思いますが、女性の採用は2000年以降から増えてきましたので、まだ30代が中心です。いずれその年代の人がリーダーとなり重要なポジションに就く女性が増えていくはずです。もちろん、ただ待っているのではなく、積極的に育成・登用を進めていきます。

伊東:先ほど、トップから変革を進めているというお話がありましたが、ボードメンバーに女性が入ったり外国人が入ってくると、会議の内容も変化しているのではないですか。

三輪:今までとはかなり違うようです。彼らはまさしく取締役として、しかもグローバルな視点で事業に対して意見を言いますから事業部長は大変です(笑)。

伊東:いい訓練の場ですね。

三輪:おっしゃるとおりです。もっとポジションが上がれば、社外を含めいろいろな場で説明する必要が生じますので、その力を見極めるうえでも有効です。

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個の多様性を活かすマネジメントを目指して

伊東:事業部長・部長クラスにも、ダイバーシティの面で変化は起きていますか。

三輪:部長クラスには女性が増えてきていますし、本部長もいます。ただ、その上にいくと現在は理事二名のみです。社外から採用するなら別ですが、育成は一足飛びにはいきません。外から採用するのもよい面はありますが、そこはバランスですよね。

伊東:外から採用することもダイバーシティの一環ですので、悪いことではありませんが、おっしゃるようにバランスは大事です。どのポストに外から持ってくるかは、各社とも考えていらっしゃいます。世の中の動きとしては、新卒一括採用だけでなく、経験者採用、外国人採用を増やす傾向があります。

三輪:ダイバーシティの対象は、性別や国籍等の外的な側面だけでなく、個人の持つ経験等の内的な側面も含まれます。ご指摘の通り経験者採用はその人の経験や知識を活かしてもらいたくて採用したわけですから、上司はその人の経験が活かせるアサインメントやコーチングをしてもらう必要があります。その点も、管理職への研修で見落としがちな点として注意しています。
私もそうですが、新卒で一つの会社に長く勤めていますと、その会社の暗黙の常識が自然と身に付きます。それがいいこともありますが、他の企業を経験した人からの意見も積極的に取り入れるべきです。今までの慣例を前提としたアサインメントが、必ずしもその部下を伸ばすとは限りません。居心地の悪さを強要している可能性もあります。今、働き方改革なども進めていますが、重要な人財を伸ばすチャンスを潰さず、個人の多様性を活かせるマネジメントをしてほしいです。

伊東:御社は、世界のグローバルメジャープレーヤーになるということを経営戦略として打ち出し、グローバル経営へと大きく舵を切られました。人財のダイバーシティの加速が、御社にとって、これからさらにグローバルを加速化していくうえで重要なポイントになっているということが、お話から伝わってきました。日本人男性が中心となってつくり上げてきたビジネスモデルから、多様な人財が、国や地域を越えてひとつのチームになる「One Hitachi」を目指し、さまざまな施策を着実に実行されている取り組みは、これからグローバルの加速化を検討している企業にとって、参考になることがたくさんあると思います。大きく舵を切っていくうえで、スピードはもちろん重要ですが、変革の推進には多くのエネルギーが必要です。それでも、ビジネスの成長を止めないために、そのスピードを緩めることなく、経営戦略を推進するという御社の強い意志と覚悟が伝わってきました。今日は、貴重なお話をありがとうございました。

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会社名
株式会社日立製作所
設立年月日
大正9年(1920年)2月1日
創業
明治43年(1910年)
資本金
458,790百万円(2017年3月末現在)
従業員数
35,631名(2017年3月末日現在)
連結従業員数
303,887名(2017年3月末日現在)
売上高
1,906,532百万円
連結売上収益
9,162,264百万円