ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョ(DE&I)
─多様な人材を獲得するために、質の高いDE&Iの実践へ─
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョ(DE&I)とは
DE&Iとは、Diversity(ダイバーシティ/多様性)、 Equity(エクイティ/公平性)、Inclusion(インクルージョン/受容性)の頭文字をを組み合わせた言葉です。これは、多様な背景や個性を尊重し、それぞれの違いを受け入れるだけでなく、公平な機会を提供することで、すべての人が互いに支え合いながら成長できる環境を目指す考え方を表しています。DE&Iは単なる理念ではなく、多様性を力に変え、より豊かで調和のとれた社会や組織を築くための土台となる重要な取り組みです。
DE&Iの概念が普及する前は「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」という考え方がありましたが、差別をなくして平等な環境を与えても、スタート地点が異なるため、すべての人が活躍できるとは限らないという問題点が指摘されました。そこで、D&Iのアプローチに「Equity(公平性)」という考えが加わってDE&Iの概念が生まれました。
経済産業省は、ダイバーシティ経営を「多様な人材の力を最大限に引き出し、その能力が存分に発揮できる環境を整えることで、革新的なアイデアを生み出し、新たな価値を創造する経営スタイル」としています。DE&Iへの取り組みは、優秀な人材の確保だけでなく、企業価値の向上やイノベーションの加速、さらには社員の心理的安全性の向上など、多岐にわたるメリットをもたらします。これにより、持続可能で魅力的な組織づくりが実現できるのです。
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョ(DE&I)を取り巻く7つの課題・悩み
数年前から、職場における「DE&I」ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)&インクルージョン(受容性)のあり方が世間で激しく議論される中、多くの組織がDE&Iの推進を強く宣言してきました。しかし、数年にわたるパンデミックと不透明な経済の逆風を受け、多くの組織で進展してきたDEIの流れは、現在後退の危機を迎えています。そして、それは将来の自社のビジネスの成功と引き換えに行われていることを意味します。
女性や人種・文化的なマイノリティグループのリーダーは、他のリーダーよりも退職を考える可能性が高いという事実が存在します。しかし、退職を考える原因として昇進の機会が欠如しているわけではなく、実際には組織への信頼感の不足が大きな要因であることが分かりました。
MSC/DDIのグローバル・リーダーシップ・フォーキャスト調査結果では、数年前に比べて、組織はDE&Iを重視しない傾向が見受けられます。労働環境の問題や経済的な困難を理由にDE&Iへの取り組みを後回しにしている組織がありますが、その結果ビジネスに大きなダメージが出ています。こうした組織では、業績の悪化、人材の供給体制の低下、従業員のエンゲージメントの低下、顧客ニーズへの対応力の低下といった問題が起きているのです。
ダイバーシティが揺らぐ今、優秀な女性リーダーが辞めてしまう不安
優秀な女性やマイノリティのリーダーを失うリスクは、組織が想定する以上に深刻です。急激な経営環境の変化下で、公平や尊重が十分でない職場では、こうした人材が他社へ流出しやすくなります。組織文化が偏ったままでは、多面的な視点が失われ、革新的アイデアの枯渇を招く恐れがあります。特に女性リーダーが不足する業界では、離職の連鎖が深刻な打撃につながりかねません。ダイバーシティへの取り組みが後回しになると、組織全体の活力が損なわれるリスクも見逃せません。
DE&Iを後回しにして、業績や組織パフォーマンスまで落ちかねないリスク
他の経営課題に押され、DE&Iへの関心が低くなった組織では、多様性がもたらすイノベーションの機会を逃しがちです。多彩なバックグラウンドをもつメンバーは、異なる視点から問題を捉え、新たな戦略を構築できる可能性を秘めています。しかし、DE&Iを軽視すると、潜在力が十分に生かされず、競合に遅れを取る懸念が高まります。実際、多様性を積極的に取り入れている企業ほど、市場シェアや顧客満足度の向上を実現しやすいという報告もあります。それにもかかわらず、経営陣が短期的な収益を優先すると、長期的な組織の飛躍や展望を大きく損ないかねません。
掲げたDE&I目標が形骸化してしまう恐れと、その対処に悩む
多くの組織がDE&Iの推進を掲げていますが、具体的な数値目標に届かないケースが散見されます。特にベテランリーダー層からは、行動計画と実績の乖離が大きく、実効性を疑問視する声も聞かれます。さらに、DE&Iの目標を設定していても、その達成状況を評価指標に反映しない場合、担当者だけが孤立しがちです。意識改革や制度設計は口先だけでは進まず、具体的な行動計画と明確な期限がなければ、組織全体に浸透するのは難しいものです。結果として、DE&I施策が形骸化し、現場の疲弊を招くほか、人材流出のきっかけにもなりかねません。
インクルージョン不足が招くリーダー候補の不足と人材確保の難題
リーダー不足に頭を悩ませる経営者は増えていますが、従来のリーダー像に固執すると、多彩な人材を活かす機会を逃します。特定の学歴や経歴のみを重視する仕組みは、多様性を促す組織文化の醸成を阻害し、最終的に人材プールを狭めてしまいます。一方、包括的なアプローチを導入している組織は、実践的リーダーシップを発揮できる人材を幅広く見いだせます。しかし、インクルージョンが欠ければ、潜在力を評価されないまま離職が続き、将来の幹部候補を取り逃すおそれがあります。
競争とプレッシャーで若手が燃え尽き症候群になってしまう
次世代リーダーの育成は多くの企業にとって優先度の高い課題ですが、若い世代ほど燃え尽き症候群を訴える割合が増加する傾向があります。競争激化や高い生産性要求のもとでは、個人のワークライフバランスが犠牲になりやすく、優秀な若手が組織への失望から退職を選ぶ可能性も否めません。加えて、上司や先輩が示すリーダーシップ文化に対し、この世代は特に敏感です。多様性を尊重しない風土や過重労働が常態化している環境では、若手の意欲が損なわれやすく、将来のリーダー候補が失われてしまうでしょう。
DE&I研修プログラムが期待どおりに動かないジレンマ
経営幹部はDEI研修プログラムへの投資対効果を常に気にかけますが、高品質な研修プログラムによって業績が向上する可能性は各種データが示しています。ただし、短期のワークショップや形だけの研修では、成果を測定しづらく、かえって現場の混乱を招くことがあります。質の高いプログラムは、KPIとフォローアップの仕組みが明確化されており、組織全体で責任を共有できる枠組みが整っています。しかし経営トップがDEIを重視しなければ、こうしたプログラムでも協力を得られず、期待するほどの効果が出ない可能性が高まります。
リモートワークが進む中、インクルージョンの実践に戸惑う現場の課題
リモートワークが広がる中、再びオフィスに従業員を集める意味を疑問視する声が増加しています。しかしながら、本質的な多様性尊重は、業務形態よりもリーダーがオンライン上でどれだけ風通しの良い環境をつくれるかに左右されます。物理的に同じ場にいなくとも、チームがインクルーシブな関係を維持できるよう、評価制度や評価プロセスを整備することが欠かせません。一方、オフィス回帰を無理やり推し進めると、多様な働き方を望むメンバーほど組織方針と折り合わず、退職を検討するリスクが高まります。
DE&Iを成功させるための5つの重要な要素とは
DE&Iを成功させることは、並大抵のことではありません。それを達成するためには、あらゆる階層のリーダーが持続的に最大限の努力を投じ、DE&Iを単なる個別の取り組みとしてではなく、組織運営に意欲的に組み込むことが必要です。
DE&Iを最優先課題と位置づける~DE&Iを日常の仕組みに落とし込む
DE&Iを単なるスローガンに終わらせないためには、組織全体が最優先課題として明確に認識する必要があります。まずはトップマネジメントが積極的に支持を打ち出し、口先だけではなく具体的な施策や制度へと反映させることが欠かせません。たとえば、経営方針やタレント・マネジメント・システムにインクルージョンを組み込み、従業員の日常業務レベルで多様性と公平が実感されるように設計することが挙げられます。こうした取り組みが研修プログラムや評価制度に連動していれば、組織全体に一貫したメッセージが届き、予算やリソースの配分にも優先順位がつけやすくなるでしょう。その結果、従業員は企業が本気で行動していると感じ、相互の信頼感が高まりやすくなります。
リーダーに求められる共感スキルの強化~インクルージョンとエクイティを支える対人能力
インクルージョンとエクイティを現場で具現化する要となるのは、リーダーの対人スキルです。多様なバックグラウンドをもつ人材が安心して意見を述べ、自己の将来を思い描ける環境を整えるには、共感や傾聴といったソフトスキルが欠かせません。リーダーが一人ひとりの価値を認め、対話を重視する姿勢を見せるほど、従業員の帰属意識は深まります。また、こうしたリーダーのもとでは、幅広い視点を活用するチーム文化が育ち、革新的なアイデアが生まれやすくなるでしょう。その結果、離職の抑制だけでなく、組織の競争力向上にも大きく役立ち、DE&Iの取り組みが加速する土台が築かれます。
後継者計画の拡大と多様なハイポテンシャル人材の登用~広義のリーダーシップ・ポテンシャルを見極める
優れたリーダーシップ・パイプラインを構築するには、多様な人材を次世代リーダー候補として積極的に発掘する仕組みが重要です。単に学歴や職歴を重視するだけでなく、多角的な視点や背景をもつ人材を採用・育成することで、組織に新たな発想や変革をもたらす可能性が広がります。また、ハイポテンシャル人材を見極める際には、学習意欲や柔軟性、リーダーシップ行動などを総合的に評価することが望ましいでしょう。これにより、公平な機会提供という観点を社内に根づかせ、従業員は自分の将来像を明確に描きやすくなります。結果として、組織は多様性に強いレジリエンスを獲得し、変化の激しいビジネス環境でも安定した成果を出せる体制を築けるはずです。
経営幹部による信頼構築と一貫性のある行動~DE&Iへのコミットメントを行動で示す
過去に十分な存在感を発揮できなかった従業員ほど、経営幹部の姿勢に懐疑的になるケースがあります。そのため、トップマネジメントはビジネス全般にわたる約束を着実に果たしつつ、DE&Iの推進に対しても具体的な行動を示すことが求められます。たとえば、公正な評価制度の導入や情報開示の徹底によって透明性を高め、従業員が組織の方向性を理解しやすいようにするのは有効です。さらに、社内コミュニケーションを通じて成果事例や改善プロセスを共有することも欠かせません。このように、トップ自らが一貫性のあるメッセージを発信し続けることで、従業員は組織の方針をより信頼し、DE&Iの取り組みを自らの行動に結びつけやすくなります。
キャリア支援とコーチング文化の醸成~次世代リーダーを育てるための組織的サポート
多様な人材を登用しても、準備や指導が不十分だと、当人のパフォーマンスを最大化できない状況に陥りがちです。これを回避するには、コーチング文化を全社的に育むことが要となります。管理職やメンターを中心に、継続的なフィードバックと具体的なアドバイスを与え、従業員が新たなスキルを身につけながら自信を高められる環境を整えるのです。さらに、このコーチング体制を昇進やキャリア開発と連動させることで、誰もが平等にキャリア機会を得られるようになります。こうした組織的な支援が定着すれば、多様な人材が持つ可能性を十全に引き出すことができ、DE&Iの効果が持続的に高まるでしょう。
DE&Iに投資することで、財務的にも、またリーダーシップ・パイプラインのリスクを軽減するうえでも、より優れたビジネス成果をもたらすことがデータ上明らかです。
DE&Iへの取り組みは、単に組織のコミットメントを示すだけでなく、あらゆる背景をもつ人材が最高のパフォーマンスを発揮できるよう、日常的にどのように行うかを示すものです。組織は、自分たちが築いている信頼の文化全体について考える必要があります。そして、インクルージョンはその戦略の一部であり、単独の取り組みではないことを理解しなければなりません。
経営戦略とDE&I推進を連動した人事戦略を実現する
現在、市場のグローバル化、顧客ニーズの多様化、少子高齢化が加速する中、多くの組織において、経営戦略としてのDE&Iの重要性を認識し、その推進に取り組んでいるものの、認知度と浸透度は依然として低い水準にあります。その原因として、DE&Iへの取り組みが組織理念や他の人材戦略と切り離されていることが挙げられます。DE&Iの実現には、D&I推進の意義を自社の戦略と紐づけて浸透させることが肝要です。
まず、DE&I推進が企業戦略と連動するためには、その意義がしっかりと理解され、具体的な人事戦略の中に組み込まれる必要があります。企業の人事部門は、単に人材の確保や育成を担当するだけではなく、企業文化の形成や組織の長期的な持続性を支える役割も担っています。したがって、DE&Iが企業全体の価値観や目指す方向性に深く根ざしたものであることを明確に示すことが求められます。そのためには、経営陣から現場まで、全員がDE&Iの意義を正しく理解し、それぞれの役割として受け入れる必要があります。
具体的には、DE&Iを推進するための施策が人事評価制度にどのように組み込まれているかが鍵となります。たとえば、従業員のパフォーマンス評価を行う際、多様なバックグラウンドを持つ社員が公平に評価されるよう、評価基準や評価のプロセスそのものを見直すことが求められます。アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の影響を排除するためのトレーニングや、評価者に対する教育が必要です。人事評価は、従業員がどのように成果を上げたかを測る重要な手段であり、その評価方法に偏りがあると、意図せず特定の人々に不利益を与えてしまうことになります。無意識の偏見が入り込まないよう、評価者が自らのバイアスに気づき、それを意識的に排除することが求められます。これにより、すべての従業員が公平に評価され、その努力や成果が正当に認められることになります。
さらに、DE&Iを推進するために欠かせないのが、人材アセスメントの方法です。従業員のポテンシャルを正確に把握し、適切な人材配置を行うためには、従来の評価基準を見直し、多様な視点を取り入れる必要があります。人材アセスメントは、単に現時点でのスキルや経験を測るだけではなく、従業員が将来的にどのようなリーダーシップを発揮する可能性があるかを評価する重要なツールです。DE&Iが推進される環境では、リーダーシップに求められるスキルや資質も多様であるため、そのためのアセスメント方法も柔軟に変化しなければなりません。これにより、特定の人材に偏らないリーダーシップの育成が可能となり、組織全体のバランスが保たれます。
また、人事部門はDE&Iを推進するために、全従業員に対して意識改革を促進する必要があります。特に、無意識の偏見に対する意識を高めることが組織文化に深く影響します。アンコンシャス・バイアスを意識的に排除するためには、研修やワークショップを通じて、従業員一人ひとりが自分の偏見に気づき、それを克服する方法を学ぶことが求められます。偏見が意識化されることで、無意識のうちに特定の集団に対して差別的な態度を取ることを防げます。また、バイアスの排除は、人材の多様性を尊重する文化を醸成し、誰もが平等に活躍できる環境を作り上げることにつながります。
企業がDE&I推進を単なる施策としてではなく、組織全体の戦略として位置付け、その推進を人事戦略の中心に据えることは、持続可能な競争力を確保するために非常に重要です。市場のグローバル化や顧客ニーズの多様化、少子高齢化の進行といった外部環境の変化に対応するためには、多様な視点を取り入れた柔軟な組織づくりが求められます。従業員が自身の個性を活かし、安心して活躍できる環境を提供することは、組織の持続的な競争力を支えるために欠かせません。そのためには、DE&Iの取り組みを企業戦略と連動させ、すべての人事施策に組み込むことが必要です。
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