従業員エンゲージメント向上におけるリーダーシップの重要性

従業員エンゲージメント向上ためのリーダーシップ研修

従業員エンゲージメント向上とは

企業の成功を支える主な要因の一つとして、従業員エンゲージメントが広く認識されるようになりました。企業の目標や使命を従業員が理解し、仕組みをうまく活用することで、従業員のモチベーションを高め、最終的には生産性や成果を最大化させることが可能だと考えられています。事業の実現と成功のために、エンゲージメントの向上が重要視されています。

エンゲージメントの概要

そもそもエンゲージメントとは

「エンゲージメント(engagement)」とは、「約束」「契約」「婚約」「雇用(契約)」などを表す英語です。用いられる領域によりニュアンスは異なりますが、ある対象についての「関与」や「つながり」、あるいは「愛着」などといった意味で使われています。

人材の流動性が高まる中、従業員エンゲージメント(後述)に代表されるような組織と従業員との関係性は、企業の競争力や潜在的な成長力を左右する要因となってきています。 そのため、世界のビジネスシーンでエンゲージメントを重視した組織運営が求められるようになりました。

エンゲージメント概念の広がり

一口にエンゲージメントと言っても、様々な切り口からアプローチがなされています。学術論文を紐解くと、大別して5領域で盛んに議論が行われている様子がわかります。以下に、主な研究テーマやエンゲージメントの種類を整理してみました。

  • 人事領域: 仕事や会社に対する従業員のエンゲージメント(「従業員(社員)エンゲージメント」「ワーク・エンゲージメント」など)
  • マーケティング領域: 商品やサービスに対する顧客のエンゲージメント(「顧客エンゲージメント」など)
  • 経営領域: 各種ステークホルダーに対する経営陣のエンゲージメント(「ステークホルダー・エンゲージメント」など)
    ※その他、投資家の投資先企業との対話についてもエンゲージメント概念が用いられています。
  • 教育領域: 学習課題や学校に対する学習者のエンゲージメント(「スクール・エンゲージメント」など)
  • その他: ボランティアや社会問題などについてのエンゲージメント(「コミュニティ・エンゲージメント」「ソーシャル・エンゲージメント」など)

それぞれ産業・組織心理学、マーケティングリサーチ、経営学、教育心理学等の理論や手法を用いて日々研究が深められているようです。

従業員エンゲージメントとは

従業員エンゲージメントを一言で表すと、仕事に誇り(やりがい)を感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て活き活きとしている状態といえます。

学術的には、「活力(vigor)」「熱意(dedication)」「没頭(absorption)」の三つの要素に特徴づけられた状態とも定義されています。

イメージを深めていただけるよう、エンゲージメントを測定するための調査項目を例示します。

以下は、ADPリサーチ・インスティテュート(ADPRI)が2019年に世界の勤労者19,000人以上を対象に実施した調査で実際に用いた8項目です。

  • 私は、会社が掲げる使命に対して心から貢献したいと考えている。
  • 仕事上で、自分に期待されていることを明確に理解している。
  • 所属チームのメンバーと価値観が共通している。
  • 仕事で毎日、強みを発揮するチャンスがある。
  • チームメイトが私をサポートしてくれる。
  • 優れた仕事をすれば、認められることがわかっている。
  • 会社の未来は明るいと強く信じている。
  • 仕事では常に、成長が求められている。

出典:マーカス・バッキンガム、アシュリー・グッドール/高橋由香理訳「チームの力が従業員エンゲージメントを高める」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2019年11月号 p.32

これらの設問に対して「同意する」と回答した従業員ほどエンゲージメントが高い状態にあると解釈されます。

従業員エンゲージメント向上における課題・お悩み

近年、メンタルヘルスに対する視点を転換し、エンゲージメントなどのポジティブな側面にも注目することが重要となっています。組織のポジティブな指標や強みをアセスメント(評価)し、従業員のエンゲージメント向上に向けた具体的な活動が期待されています。

コーポレート・ガバナンスにおいては、人的資本の情報開示に向けた体制整備が求められており、2020年9月には「人材版伊藤レポート」が発表されました。従業員エンゲージメントを向上させるには、仕事や人的資源に位置付けられる要因をターゲットにした施策が欠かせません。

ネガティブからポジティブへの視点の転換

まず、従業員のメンタル状況(広義のメンタルヘルス)に対する視点の転換が鍵になります。すでに厚生労働省の働きかけにより、2015年12月から年に一回のストレスチェックが義務化されています(50名未満の事業場は努力義務)。

ストレスに代表されるようなメンタルヘルスのネガティブな側面に注目する視点は、一般に「ネガティブ・メンタルヘルス」と称されます。一方、従業員エンゲージメントのようなポジティブな側面に注目する視点は、「ポジティブ・メンタルヘルス」と呼ばれます。

従業員エンゲージメントは、もともと「バーンアウト(燃え尽き症候群)」の対概念として理論化されたという経緯もあります。組織的パフォーマンスの維持・向上を目指すには、「ネガティブな要素を減らす」だけでなく、「ポジティブな要素を増やす」という視点にシフトすることが重要なのです。

ポジティブ・メンタルヘルスの推進

エンゲージメントを含む組織のポジティブな指標や組織の強みをアセスメントすることと、その向上に向けた具体的な活動が、次なる課題となります。

従業員エンゲージメントを測定する学術的なサーベイ・ツールとしては、「UWES(Utrecht Work Engagement Scale;ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度)」という質問紙が開発されています。

参考:https://hp3.jp/tool/uwes(日本語版は慶応義塾大学の島津明人教授が作成)

また、ポジティブ・メンタルヘルスの体系的な枠組みとして、「仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)」が提唱されています。JD-Rモデルでは、従業員のエンゲージメントが仕事のパフォーマンス向上などのポジティブな結果につながるプロセスを説明しています。

参考:厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」 https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1.pdf p.192

「仕事の資源」(裁量性やコントロール、フィードバック、コーチング、社会的支援、正当な評価、キャリア開発の機会など)や「個人の資源」(自己効力感、楽観性、レジリエンス、希望など)に位置付けられるような要因をターゲットにした施策は、従業員エンゲージメント向上を通じて組織パフォーマンスの向上にもつながっていくことでしょう。

コーポレート・ガバナンスにおける「人的資本開示」

最近のコーポレート・ガバナンスにおける世界的動向を背景として、日本国内の企業にも人的資本開示に向けた体制の整備が求められています。

2020年9月、経済産業省は、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の成果として「人材版伊藤レポート」を発表しました。

このレポートで述べられているように、人材を「管理」の対象ではなく、その価値が伸び縮みする「資本」と捉える人的資本経営においては、従業員エンゲージメント(レポート内では「社員エンゲージメント」)も重要な人材戦略の指標に位置付けられます。

参考:経済産業省「『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書~人材版伊藤レポート~」』 https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_1.pdf

従業員の健康の維持・向上を投資に位置付ける「健康経営」

現在、経済産業省は「健康経営」という経営スタイルを推進中であり、様々な施策が実施されています。

健康経営とは、従業員の健康管理を経営課題として捉え、従業員の健康の維持・増進を通じて会社の生産性向上を戦略的に実践していくという経営のあり方です。

従業員の健康を保ち促進することは、組織の活力や生産性を高めるだけでなく、業績や企業イメージの向上にもつながります。これは組織方針に合致した人材の確保を可能にするための「投資」として位置付けることができます。

このように、エンゲージメントをはじめとしたポジティブ・メンタルヘルスの向上は、今や人事的課題の域を超えて経営的課題に拡大しつつあります。

従業員エンゲージメント向上のためのポイント

従業員エンゲージメントの向上に向けて、どのような取り組みが有効でしょうか?

チームの一体感とリーダーの存在感を高める

先述したADPRI調査の分析結果によると、エンゲージメントや生産性に個人差が生じる最大の原因は、チームで業務を行っているかどうかだということがわかりました。

「業務の大部分をチームで行っている」と回答したグループは、「一人で仕事をしている」と答えたグループに比べ、エンゲージメントの高い従業員の割合が2倍以上となっていました。

仕事の中でポテンシャルを最大限発揮するためには、チームとしての一体感、とりわけリーダーへの信頼が重要となります。たとえば、従業員が自分の意見やアイデアを話すことができるよう、リーダーが積極的に聞き手になることも大切でしょう。

メンバーへの目配りや対話の頻度など、マネジャークラスのリーダーシップがきちんと機能していることは、従業員エンゲージメントの向上にとって重要な前提条件となります。そのため、マネジャーの選任やトレーニング、昇進には、エンゲージメント向上も見据えた丁寧かつ精緻な手続きが求められます。

診断ツールを精査して具体的施策へ落とし込む

従業員のエンゲージメントを測定することは、組織の生産性と創造性を高め、離職率を下げるのに役立つことが期待されています。一方で従業員エンゲージメントは様々な要因の影響を受けやすく、水準が容易に変動すること、また、一般に自己評定による診断ツールで測定されることもあり、抽象的な指標であることも確かです(ADPRI項目の内容も参照)。

このような限界から、ペンシルバニア大学ウォートン・スクール教授のピーター・キャペリらは、「調査前に何を達成するための調査であるか、他のよりよい方法がないか確認したほうがいい」とも述べています。

もし組織の中で、特定の要因(給料、福利厚生、仕事の配分など)が課題となっていることが明らかなら、そちらからアプローチしたほうが確実な成果につながるかもしれません。また、実際に従業員のエンゲージメントを高めようと思うなら、調査前にある程度明確な仮説を設定するとともに、調査結果に基づいた具体的な施策を行うことが重要となります。

仕事の「インフラ」を整備する

チームの存在をより身近に感じられるようインフラを整備することも、エンゲージメント向上に向けた具体策の一つになるでしょう。オフィスのレイアウトなどだけでなく、人事関連の制度等も整備が必要です。

たとえば、マネジャーが従業員の貢献と成果をきちんと評価することは、チームや組織に対する信頼感の高まりにつながります。仕事に対する貢献と成果を正当に評価し、本人にフィードバックすることは、仕事への自信を促進するために行われます。

また、キャリアアップを組織的にサポートすることも有効でしょう。キャリアアップのサポートがあれば、従業員は長く組織に留まりたいと考えるようになります。従業員がスキルアップを図り、自分自身を向上させることができるよう、トレーニングや研修などを行うこと、そして、日頃からその姿勢を示しておくことが大切です。

従業員エンゲージメント向上にも有効なリーダーシップ開発プログラム

MSC/DDIの大規模調査、グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023では、業界を問わず、日本のビジネスの最優先事項が明らかになりました。この調査結果では、「従業員のエンゲージメントの向上」は、ビジネスの成功における最優先事項の上位にランクインし、リーダーの育成には欠かせない要素となりました。

従業員エンゲージメント向上調査結果

マネジャーが優れたチームのまとめ役として機能するためには、科学的で質の高いリーダーシップスキルのトレーニングが不可欠となります。

株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)では、50年以上の研究と経験を基に開発された初級・中級管理職向けの「インタアクション・マネジメント®(IM)」をはじめ、各種のリーダーシップ開発プログラムをご提供しています。

従業員エンゲージメントの向上にも、是非お役立ていただければ幸いです。