持続的・継続的な「リスキリング」向けての人材アセスメント

リスキリングための人材アセスメント研修

リスキリングとは

後継者とは

今日改めて注目される、「リスキリング」

リスキリングとは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」(経済産業省有識者会議でのリクルートワークス研究所報告資料、2021)と定義されます。主要産業のデジタル化に伴い、仕事を進める際に求められるスキルが根本から変わるケースが多くなってきました。結果、リスキリングが、現在の仕事の質を既存のやり方+αで習熟・改善していくOJT(On the Job Training)や、業務に留まらずに見識や教養を深めるリカレント教育とは異なる次元の取り組みとして位置づけられるようになってきています。

先進事例が注目されるものの、デジタル・リスキリング経験者は20%程度に留まる

今日、リスキリングに関する、海外や国内での先駆的な取り組み企業の事例*が紹介されていますが、主にDX(デジタルトランスフォーメーション)化に対応して、組織全体の業務推進「OS」を入れ替えるといった次元のものが目立ちます。

では、実際に企業人全体として、どの程度リスキリングが求められていて、それを経験しているのでしょうか。企業人を対象にした調査結果(パーソル総合研究所、2022年)からは、デジタル領域のリスキリングを経験した人は企業人全体の20%程度、業界としては情報通信業、職種ではIT技術職・企画職であることが報告されています。また、上司によるキャリア支援が手厚いほど、社内のキャリアパスが明確であるほど「デジタル・リスキルング」が促進されることも併せて報告されています。

さらに同調査は、デジタル・リスキリング以外の、いわゆる「学び直し」を経験した企業人が約30%に留まっていることを指摘しています。

企業サイドのリスキリングの目的は、新規事業拡大と既存事業の維持・拡大の双方

では、「学び直し」を含む広義のリスキリングの企業側のねらいはどのようなところにあるのでしょうか。2022年に実施されたアンケート(HR総研)からは、新規事業と既存事業の維持・拡大のどちらを重視するかにかかわらず、およそ70%超の企業群がリスキリングの必要性を訴えています。前掲の経済産業省の報告書においても、DX(デジタルトランスフォーメーション)化を含めた技術革新、環境変化による求められるスキルの変化、主要産業間の労働移動などが現実のものとなることが提言されています。つまり、今後DX(デジタルトランスフォーメーション)化以外の「学び直し」の必要性はますます高まると言えるでしょう。

本稿では、今後企業人が取り組むことになる、広義の「リスキリング」に向けた課題を整理し、解決に向けた観点やアプローチを提言します。
※先駆的な取り組み企業…AT&T・ウォルマート、日立製作所・富士通や大手商社 など

リスキリング導入・推進における課題・悩み

時間がとれない/何から手をつけてよいかわからない

リスキリングへの関心が高まり、多くの企業人の取り組みが少しずつ増えていくにしたがって「何から始めればよいのか」という悩みが聞かれるようになりました。結果として、「プログラミング基礎」や「AI」講座など、わかりやすいスキル開発メニューに人気が集中する事態にもつながっているのではないでしょうか。

企業人それぞれに必要なスキルや、スキル開発に向けて何を優先すべきかなどは、本人を含めてよくわかっていないのかもしれません。

会社がどこまで面倒を見るのか、線引きが難しい

リスキリングに関連する企業側の取り組みについては、国や企業からの補助や助成事業が企画・検討されている(2022/10/3、岸田首相の所信表明演説)こともあり、リスキリングに向けた推奨eラーニングコースや研修プログラムの企画・整備を進めようとする機運が高まっています。これら施策の検討を自前で行える大企業はともかく、資本・体力が相対的に小さな中小企業については一定の支援が必要でしょう。その際に、インフラやメニュー整備に向けた補助や支援メニューの具体化に向けては、どこまでが会社側からの要請であり、どこからは個人で行うべき領域なのかの線引きを行うことも求められてきます。しかし、業種・業態やカルチャーによってその割合は異なることが想定されますから、一律決定による補助や支援メニューの効果は中途半端なものになっていくかもしれません。これは、広義のリスキリングの取り組みの広がりを阻む可能性を内包していると言えるでしょう。

企業・組織戦略や中期的なキャリア、能力開発計画や仕事機会との接続が求められる

さらに、現在期待される個別スキルの獲得は重要なことですが、日々「生み出される」新たなスキルを「追い立てられるように」獲得していくことが、「何につながるのか」を明らかにする必要があるでしょう。具体的には、短期的な個別スキル獲得と中期的な人材育成・能力開発計画、そのさらに上位にある戦略やビジョンとの接続といった点がポイントとなるでしょう。加えて、それらの第一歩として「どのような仕事機会」を想定してスキル獲得を進めるのかも重要な論点です。仕事機会や場面をイメージし、それらをより具体的なものとしながらスキル獲得を進めていくことが求められます。そのためには、個人・組織の双方が知恵を出し、有効なコミュニケーションをとることも必要不可欠となります。

まとめると、DX(デジタルトランスフォーメーション)領域をはじめとして、広義のリスキリング活動が広がりを見せるに従って、以下のようなことが改めて求められてくると言えるでしょう。

  • 企業や組織のビジョン・戦略と人材育成方針、仕事機会とリスキリングとの接続
  • リスキリングに関する、組織・個人にとっての意義の明確化と線引きの必要性
  • 企業人自らが主体的に取り組み可能な情報開示や指針や支援

リスキリングに向けて取り組むべき3つのポイント

リスキリングの背景や文脈を、戦略と関連づけてコミュニケートする

企業人・企業側の双方が、リスキリングが求められる背景や、その結果実現したい状態を企業レベルもしくは事業・機能戦略と関連づけて共有することが必要です。新規事業を次々と生み出していることで著名な企業においても、経営戦略と人事戦略をつなげてコミュニケートすること、つまり「対話」の重要性を強調しています。デジタル領域のものに比べて、その必要性や緊急度・重要度が理解・共有されづらい広義のリスキリングは、それらが求められる背景や文脈を理解・納得、共有することが大事な出発点となります。そして、それらは結果として、当事者たちの主体的・継続的な取り組みをさらに促すことにもつながっていきます。

参考:サイバーエージェント社事例/リンク:https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/interview/i-202208080001.html/

スキルと能力(コンピテンシー)との関連性を整理しておく

リスキリングは注目を集めていますが、その中核をなす「スキル」とは何を指すのでしょうか。スキルとは、一般的に「実践から習得したある機能を実行する能力」と広範な概念として定義づけられています。米国のリーダーシップ開発機関であるDDI社は、リーダーシップ・コンピテンシーとスキルとの違いについて整理を試みたうえで、コンピテンシーとスキルを連携させる重要性を強調しています。これは、どちらかと言えば短期的な取り組みとなりがちなリスキリング活動を、中期的なコンピテンシー(能力)開発活動とつなげて考えることで、持続・継続可能性を高めていくことを意味します。そして、コンピテンシーに関連するスキルは、もちろん職務遂行能力の向上に資するため、個人・企業双方にそれら活動への責任・コミットメントが発生します。一見すると、地道かつ回り道のような思考のようにも感じられますが、リスキリング活動が何につながるのか、誰がどこまで責任を負うのかをある程度明確にしていくためにも必要なプロセスであると言えるでしょう。

参考:リーダーシップ・コンピテンシーとスキルとの違いを理解する/リンク:https://ddi.msc-net.co.jp/download/Understanding-the-Difference-Between-Leadership-Competencies-and-Skills

変化する環境を認識・反映し、軌道修正が可能な仕組み・風土を醸成する

取り巻く環境の変化や職務・役割自体の変化により、求められる期待やレベルが変わり、結果として企業人が認識する自身の強み・弱みも変化していきます。能力・スキル開発においても、企業や組織側からの提案・提示を待つのではなく、自律的・主体的に能力・スキル開発のプロセスを修正する、または柔軟に対応していくことが期待されます。デジタル・リスキリングの目的を、そのスキル習得のみではなく「学ぶ内容の変化に素早く対応する敏捷性の開発であるとまとめているものもあります。広義のリスキリング活動のプロセスにおいても、学習メニューの提示や変更に留まらず、学習者の実践内容の共有や新たなスキルを用いる仕事機会の創造、実際にスキルを使ってみた際のメリット・デメリットを共有することなどが、変化に対応する俊敏性の開発やそこに向けた仕組みの構築や、新たな環境・風土の醸成につながっていくことでしょう。

参考:ダイヤモンドオンライン/リンク:https://diamond.jp/articles/-/269922?page=4

持続的・継続的な「リスキリング」に向けて

上記の3つの観点を踏まえ、広義のリスキリングを効果的に進めるための、「持続的・継続的な」取り組みに必要な観点とイメージを以下に示します。

まず、経営戦略レベルでの期待を、自領域・自組織において期待される活動へと転換することです。この段階で、企業人一人ひとりが「我が事」として感じられるくらいの粒度になっていることが好ましいと言えます。そのうえで、今期の取り組み(案)として、組織全体の取り組み課題と広義のリスキリングがカバーする領域とを組み合わせて定義していくと良いでしょう。その際に、スキルとコンピテンシー(能力)とを関連づけて提示していくことがポイントとなります。最後に、変化に対する個人や組織の俊敏性の開発に向けて、ナレッジ共有・還流の観点も付記しておくと良いかもしれません。そして、この仕組みを運用し、アップデートする取り組みを愚直に繰り返していくことが大切になります。

リスキリングサイクル

少子高齢化や産業構造の変化、デジタルを中心とした技術変化など、私たちは「リスキリング待ったなし」という状況に生きています。DX(デジタルトランスフォーメーション)化はもちろん必要不可欠ですが、きっかけに過ぎないとも言えます。本稿を出発点に、多くの人・組織のサステナビリティの向上と変化対応能力の開発という、リスキリングが本来的に目指していく状態に少しでも近づいていくための何らかのヒントとなれば幸いです。

<参照資料・URL>
・2,800人に聞く「リスキリング」調査(エン・ジャパン株式会社):https://corp.en-japan.com/newsrelease/2022/30556.html
・ミドル1700人に聞く「リスキリング」実態調査(エン・ジャパン株式会社):https://corp.en-japan.com/newsrelease/2022/30662.html
・リスキリングに関する調査レポート(株式会社ビズリーチ):https://www.bizreach.co.jp/pressroom/pressrelease/2021/1129.html
・「リスキリング」の実態に関する調査(マンパワーグループ株式会社):https://www.manpowergroup.jp/client/jinji/surveydata/20220307.html
・従業員のリスキリングを支える「3つの学び」とは(パーソル総合研究所):https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/column/202209010001.html
・リスキリングをめぐる内外の状況について(リクルートワークス研究所):https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000940979.pdf
・Works Report 2021リスキリングする組織(リクルートワークス研究所):https://www.works-i.com/research/works-report/item/reskillingtext2021.pdf
・DX時代のリスキリング(リクルートワークス研究所):https://www.works-i.com/project/dx.html
・リスキリングは(学び直し)ではない(一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ)https://comemo.nikkei.com/n/n97bab434bbc8