人的資本経営の実現、ISO30414に基づく人的資本開示のための人材アセスメント

人的資本経営|人的資本情報開示ガイドライン(ISO30414)向け人材アセスメント研修

人的資本経営とは

人的資本経営とは

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
※出典:経済産業省│人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/

今日のビジネスでは、売上やマーケットシェア、利益などの明白な成長を目指すだけでなく、人的資本を中心とした経営が必須となっています。さらに、投資家からの視点も考慮する必要があります。人的資本をいかに可視化していくかは、その企業がより成長するための資金を得られるかどうかの明暗を分けることになります。事業戦略に整合した後継者計画、採用、リーダーのスキル、育成計画を投資家に示すことが最重要なのです。

外部環境の変化に対応し企業価値を高めるには、人材を「コスト」や「資源」ではなく「投資対象の資本」として捉え、価値を引き出す経営スタイルが不可欠です。また、人的資本に関する情報は「企業の将来性を判断する指標」として、投資家などのステークホルダーが強く開示を求めています。

人的資本情報開示ガイドライン(ISO30414)に基づく人的資本情報の開示が求められる背景

環境変化が激しい現代社会において、企業を経営する上では、財務情報のみならず人的資本が重要性を増してきています。ESGやSDGsへの関心の高まりから、特に近年はこの傾向が加速しており、投資家からの人的資本情報の開示に対する圧力が強まっています。

2018年12月に国際標準化機構(ISO)が、人的資本情報の開示に関する国際標準ガイドラインである人的資本情報開示ガイドライン(ISO30414)を公表しました。米国においては、2020年8月に米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して人的資本情報の開示を義務づけました。

人的資本情報の開示については日本でも議論が活発化してきており、2023年3月期決算以降、有価証券報告書提出を行う大手企業約4,000社を対象に、複数の項目の人的資本情報の開示が義務化されるとの報道がありました。今まさに企業経営における人材戦略の質的な変革が求められているのです。

投資家は国境を越えて活動するため、日本企業も早めに対応を進めておくのが得策だと考えます。

下記は人的資本情報開示ガイドライン(ISO30414)の11の人的資本領域です。

①ワークフォース(労働力)可用性、②ダイバーシティ、③リーダーシップ、④後継者計画、⑤採用、異動、離職​、⑥スキル、ケイパビリティ、⑦コスト、⑧生産性、⑨組織文化​、⑩組織の健康、安全、ウェルビーイング、⑪コンプライアンス、倫理

人的資本情報開示ガイドライン(ISO30414)におけるジョブ型を前提とした11項目58指標

倫理とコンプライアンス

◇提起された苦情の種類と件数
◇懲戒処分の種類と件数
◆倫理とコンプライアンス研修を受けた従業員の割合
・第三者に解決を委ねられた紛争
・外部監査で指摘された事項の数と種類

コスト

◆総労働力コスト
・外部労働力コスト
・総給与に対する特定職の報酬割合
・総雇用コスト
・一人当たり採用コスト
・採用コスト
・離職に伴うコスト

ダイバーシティ(多様性)

◇労働力のダイバーシティ(年齢)
◇労働力のダイバーシティ(性別)
◇労働力のダイバーシティ(障害者)
◇労働力のダイバーシティ(その他)
◇労働力のダイバーシティ(経営陣)

リーダーシップ

◇リーダーシップに対する信頼
・管理職一人あたりの部下数
・リーダーシップ開発

組織風土

・エンゲージメント/満足度/コミットメント
・従業員の定着率

安全・健康・幸福

◇労災により失われた時間
◆労災の件数(発生率)
◆労災による死亡者数(死亡率)
・健康/安全研修の受講割合

生産性

◆従業員1人当たりの業績(売上/利益)
◆人的資本ROI


スキルと能力

◆人材開発・研修の総費用
・研修への参加率
・従業員1人あたりの研修受講時間
・カテゴリ別の研修受講率
・従業員のコンピテンシーレート

後継者計画

・内部継承率
・後継者候補準備率
・後継者の継承準備度(即時)
・後継者の継承準備度(1-3年,4-5年)

採用・異動・退職

・募集ポスト当たりの書類選考通過者  ・採用社員の質  ◇採用にかかる平均日数
◇重要ポストが埋まる迄の時間  ・将来必要となる人材の能力  ◇内部登用率
◇重要ポストの内部登用率  ・重要ポストの割合 全空席中の重要ポストの空席率
・内部異動数  ・幹部候補の準備度  ・離職率
◆自発的離職率  ・痛手となる自発的離職率  ・離職の理由
  

ワークフォース(労働力)可用性

◆総従業員数
◆総従業員数(フル/パートタイム)
◆フルタイム当量(FTE)
・臨時の労働力(独立事業主)
・臨時の労働力(派遣労働者)
・欠勤

【参考】書籍:戦略的人的資本の開示 運用の実務P108、P117
◆:大企業・中小企業ともに対外開示を推奨される指標
◇:大企業が対外開示を推奨される指標

人的資本経営・人的資本情報開示を取り巻く企業の課題・悩み

人的資本を含む無形資産が企業価値の源泉となる中、人材戦略の重要性はこれまで以上に増しており、国内外の企業トップも経営上主要な人材の確保を重要課題として認識しています。一方、日本企業の多くは、変化に対応することの必要性や危機意識は共有しつつも、経営戦略に紐づいた人材戦略を効果的に実施できていないというのが現実です。

企業においては、改めて、各社が理念や存在意義(パーパス)まで立ち戻り、持続的な価値の向上に向けて競争優位を支え、新たな市場を創造・獲得する上での原動力となる人材を確保・育成し、イノベーションを生み出す環境を整備する方向へと人材戦略を変革させる必要があります。

また、こうした変革を促進する観点から、社会全体の人材の流動化や、多様な働き方を選択できるルールの整備等を図る必要もあります。

人材戦略と経営戦略の紐づけが進まない

あるインターネットの調査データによると、人材マネジメントの課題として「人材戦略と経営戦略が紐づいていない」と回答した人が最も多く、その割合は3割を超えました。

人材戦略と経営戦略が紐づいていない

※(注)従業員人数300名以上の日本企業に勤める人事部門の課長相当以上の役職者300人を対象に、2019年6月にインターネット調査を実施。
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/001_04_00.pdf
出典:パーソル総合研究所「タレント・マネジメントに関する実態調査」(HITO REPORT 2019年10月号)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/hito_R7_201910.pdf

経営環境が急速に変化する中で、持続的に企業価値を向上させるには、経営戦略と表裏一体の人材戦略を策定し、実行することが不可欠です。

自社に適した人材戦略の検討に当たっては、経営陣が主導し、経営戦略とのつながりを意識しながら、重要な人材面の課題について具体的なアクションやKPIを考えることが求められます。

後継者育成は後回しにされてしまう

従来の日本企業における新社長の選任は、現社長による暗黙的な専権事項になりがちで、明確な後継者育成計画(サクセッションプラン)が存在することは少なかったのが実情です。誰を役員候補・社長候補とするのか、どのように自社の役員や社長を育成していくのか、どのような手続きで進めていくのかについて、現任者が活躍している間に議論の俎上に載せるのは憚られる雰囲気があったのは否めないでしょう。

各社の教育体系を眺めてみても、せいぜい部長級までで途絶えており、そこから先の経営幹部の育成は、最重要事項にもかかわらず定常的に取り上げられるテーマではありませんでした。そのような状況の中で、コーポレートガバナンスコードによって後継者育成計画(サクセッションプラン)やCEOの選解任基準等に関する取り組みが求められるようになり、人材版伊藤レポートでもそれらを後押しするような提言がされています。これまでとは違う次元で後継者育成計画(サクセッションプラン)に向き合う必要があるのです。

採用コスト高騰時代において、企業がスピーディに対応できていない

人材情報を開示する上で日本企業が直面する課題としては、終身雇用や年功序列など、欧米のジョブ型を前提とした労働慣行とは異なる中でいかに情報開示を進めていくか、採用活用によって従業員の定着や個人のキャリア・エンゲージメント管理などの仕組みをどう整えていくのかなどがあげられます。人的資本等の非財務情報は各社固有の要素が大きく、自社の採用戦略に合わせたストーリーを考えて開示していくことが必要です。

従業員の定着率・エンゲージメントに影響するものはいくつか考えられます。

  • 人間関係
  • 給与や賞与、昇給などの金銭面
  • 労働時間や福利厚生などの労務環境
  • 仕事へのやりがいやキャリア形成
  • 結婚や出産に伴う環境の変化

上記を踏まえると、採用コストを下げるためにこれからの時代に求められることは、従業員のエンゲージメントと並行してワークライフバランスを向上させることだと言えます。給与のみならず、従業員が働きやすい環境を作り、かつやりがいを感じられる仕事を作っていけるよう、各企業で模索することが必須事項となるでしょう。

人的資本経営の実現・人的資本情報開示に取り組むべき3つのこと

人材版伊藤レポートでは、経営陣が主導して策定・実行する、経営戦略と連動した人材戦略について、産業や企業が異なっても共通する3つの視点(Perspectives)を、以下のとおり示しています。

  • ①経営戦略と連動しているか
  • ②目指すべきビジネスモデルや経営戦略と現時点での人材や人材戦略との間のギャップを把握できているか
  • ③人材戦略が実行されるプロセスの中で、組織や個人の行動変容を促し、企業文化として定着しているか

人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素

出典:「人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素」 経済産業省『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書~人材版伊藤レポート~』基に作成 https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_4.pdf

経営戦略と人材戦略のスムーズな連動

MSC/DDIでは、組織のビジョンや方向性、バリューを確認し、戦略的および文化的優先事項を実現するために乗り越えなければならないリーダーシップの重要な課題(ビジネス・ドライバー)を特定します。

MSC/DDI独自の、ビジネス成果を生み出すためのリーダーシップ戦略フレームワークを用いて、お客様の状況に合致したビジネス・ドライバーを特定することで、適切な人材開発や組織の戦略的優先事項を実現させるための人材戦略の立案を支援します。

▶【MSCソリューション】事業戦略と人材戦略を整合させるコンサルテーション~ビジネス・ドライバー®

リーダーシップ戦略フレームワーク

後継者育成には「アクセラレーション・プール(AP:Acceleration pool)方式」が有効

事業や組織の継続的成長に向けては、経営リーダーが次々と輩出される必要があり、後継者育成(サクセッション・プランニング)に注目が集まっています。しかし、経営リーダーとしての成長や経験を、ビジネス環境の変化に合わせてデザインするのは至難の業です。

多くのグローバル企業や国内優良企業で用いられているアクセラレーション・プール(AP)方式を活用すれば、ビジネス戦略と連動させた求める人材を、CEO以下経営幹部と人事部門が連携しながら育成していくことができます。そのためには、どのポジションにどのような人材が求められるのかという要件設定と、候補者のアセスメントが鍵となります。

日本的ジョブ型雇用を定着させるには戦略実行に求められる人材の採用が必要

人的資本情報開示ガイドライン(ISO30414)で採用コストの開示が定められる中、採用コストが高騰している現状において、企業は母集団形成に尽力し、採用の質を向上させることが二の次になっている傾向があります。

本来的には、企業戦略とアラインした人材の定義を明確にし、採用プロセスにおいて正しく見極めることの方が、重要性が高いと言えます。採用という人材の入り口を適正化・標準化することで、その後の人的投資のレバレッジが高まり、企業の組織力の強化につながっていくと考えます。

MSC/DDIでは、企業戦略における重点課題から能力要件(コンピテンシー)を特定し、それを面接の中で詳らかにするための面接スキルトレーニングや、評価スケールモデル、質問リスト一覧をパッケージ化したライセンスサービス『タレント・セレクション・エコシステムズ』を提供しています。これを活用することで効率よく採用を標準化し、面接スキルの向上も実現できます。

人的資本経営の実現、人的資本情報開示における人材アセスメントの重要性・関係性

人的資本開示に求められるのは、投資家をはじめとするステークホルダーに自社の情報を可視化してわかりやすく伝えることです。そのためには自社を客観的に捉える必要がありますが、その有効な手段の一つが人材アセスメントです。可視化の手段はいろいろとありますが、人材アセスメントは、組織を集合体として捉えるだけでなく、一人ひとりを個別具体的に可視化することもできる点が特徴です。今後の事業構想を踏まえた人材ポートフォリオを構築していくには必須と言えるでしょう。

経営戦略の実現に向けた人材の充足

経営戦略と人材戦略の連動は不可欠ですが、実現性という点では、その戦略を実行するに足る人材が揃っているかが非常に重要です。素晴らしい戦略を掲げても、それを実現できる人材がいなければ、絵にかいた餅になりかねません。戦略をどう実現するのかと同様、誰がそれをやるのかという視点は極めて重要です。人選においては、まずこれまでの経験・実績に基づく適材適所の配置を検討していきます。一方で、社内の他のリソースに目を向けたり、外部から新たに調達したりすることも選択肢としてありえます。

いずれの場合でも、客観的な情報をもとに人材の能力を可視化し、議論できるようにすることが必要です。人材の充足度は、戦略の実現可能性や実現に向けたスピード感に影響します。戦略を実現するために人材を選び、組み合わせるには、共通の指標によって可視化された人材アセスメントを活用することが有効です。しかし残念ながら、戦略の実現可能性を高めるためにアセスメントを利用する事例は、日本ではまだ多くはありません。

サステナブルな企業経営に向けて

良質な経営リーダーを輩出し続けることは困難です。変化の乏しい時代ならまだしも、急激な環境変化に対応できる人材を確保するのは難しいことです。

経営リーダーは一朝一夕には育ちません。そして、現在の経営リーダーがカリスマ的であればあるほど、後継者選びは難易度が高まります。経営リーダーを持続的に育成するには、意図して育てていく必要がありますが、そこで求められるのが「後継者育成計画(サクセッションプラン)」です。

後継者を選任するあたり、誰がいいのか、どのように育てればよいのかについては客観的に検討していく必要がありますが、そこに有益な情報を提供するのがアセスメントです。

経営リーダーとしての強みと弱み、期待される能力とのギャップなどを明らかにし、サクセッションプランに従って必要な経験を積み、能力開発を行うことで準備をしていく必要があります。

また、候補者は若手・ミドルクラスのうちから幅広く検討しておきたいものです。そのためには、ある一定の段階で広く行われる人材アセスメントの結果が有益な情報となるでしょう。多くの社員の中から最終的に少数の経営リーダーとなる人材を見極めることは容易ではありませんが、会社を永続させていくには必要不可欠なプロセスなのです。

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