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これからの能力開発をどのようにデザインするか

これからの能力開発をどのようにデザインするか

~多様な職場で働くビジネスパーソンが効果的に能力開発を進めるための具体的な実践方法~

 

 

はじめに

コロナ禍の現在、組織で働く私たちは、自分自身の能力開発にどのように向き合っていけばよいのでしょうか。本稿は、そのような問題意識の下、多様な職場で働いておられる一人ひとりのビジネスパーソンの存在を念頭に置いて書き進めていきます。

「人間が適応できる唯一の方法は生涯を通じて学び続け、繰り返し自己改革することだ」。

『サピエンス全史』1)や『ホモ・デウス』2)などの著者で、イスラエルの歴史学者であるユヴァル・ノア・ハラリは上述のように主張 3)しています。

「学問はただ読書の一科に非ずとのことは、既に人の知るところなれば今これを論弁するに及ばず。学問の要は活用に在るのみ。活用なき学問は無学に等し」。

言うまでもなく、これは福沢諭吉の言葉 4)です。

「学び」や「学問」などは幅や奥行きがある広い概念です。能力開発と同一視することは必ずしも適切ではないでしょう。しかし、能力開発は「学び」や「学問」といった概念と大きく重なり合うものである、と認識しておいてよいのではないかと思います。

能力開発は、時代の潮流にかかわらず不可欠であり、普遍的なものでしょう。それは、コロナ禍である今も同様に求められています。むしろコロナ禍で先の見通しが立ちにくいからこそ、能力開発の重要性は増しています。

思い切った言い方になりますが、能力開発とは新しい行動の獲得と定着のプロセスであると言い得ると思います。今の自分自身を超えていけるように、新たな経験へと足を踏み出すことを止めない覚悟が、私たちに求められるのではないでしょうか。

 

1. 能力開発の全体像とは

それでは、私たちはどのように能力開発を進めていけばよいのでしょうか。その問いにこれから向き合っていきましょう。

最初に、能力開発の全体像をお示しします。次の図をご覧ください。

■図1 能力開発の全体像

能力開発の全体像は、大きく3つの要素で構成されています。

1)自己の能力を診断する
2)将来のありたい姿を描く
3)経験学習のサイクルを回す

経験学習のサイクルは、さらに4つのステップから成り立っています。

ステップ1.新たな経験を積む
ステップ2.経験を振り返る
ステップ3.持論を構築する
ステップ4.新しい状況に適用する

これから、これらの要素について順を追って具体的に見ていきましょう。

 

2. 自己の能力開発を診断する

能力開発の第1フェーズは能力診断です。自分自身の現状を知らずして能力開発を進めることはできません。能力診断の際の重要ポイントは、現在の能力を客観的に棚卸することです。独力で能力を診断できないわけではありませんが、自己診断と他者診断とをすり合わせる作業が伴っていることが望ましいと考えます。

私たちは、自分自身についての認識=自己認識を有しています。同時に、組織で働いている以上、自分についての周りからの認識=他者認識と付き合っていかなくてはなりません。

多くの場合、自己認識と他者認識とはある程度は重なり合っています。しかし、誰もが自己認識と他者認識との間にギャップを抱えています。自分は自己認識として「円」だと思っていても、周りにいる他者は個々に違う「形」をそこに重ね合わせて認識しているかもしれません。自己認識とは異なる側面(=他者認識)をある程度正確に把握しておかないと、能力開発の出発点を間違ってしまう可能性が生じます。

具体的な能力診断の手段としては、弊社が実施しているようなヒューマン・アセスメント(HA)などのサービスを利用することが有力な選択肢となるでしょう。その際に留意が必要な点ですが、能力を行動に分解して理解するということです。行動を機能的類似性に基づいて分類・整理したものを「能力要件」と呼んでいます。例えば、「理解力」や「分析力」といったものが能力要件に相当します。

まず、能力要件を軸に自分自身の能力診断結果を理解します。その上で、能力要件を構成する「主要行動」に着目し、それぞれの行動の発揮度はどうであったのかを把握することが大事になってきます。一例を挙げましょう。

「イニシアティブ」の定義:

  • 現状に甘んじることなく、率先して行動する能力

「イニシアティブ」の主要行動(例):

  • 他者に先んじて動き出す
  • 問題や必要性に気づいて先手を打つ
  • 自分の考え方を積極的に売り込む

イメージとしては、個々の主要行動の発揮度を4段階(高い・やや高い・やや低い・低い)で考えてみる。その上で、それらを総合的に検討して「イニシアティブ」の発揮度を5段階(高い・やや高い・水準・やや低い・低い)で診断してみるとよいでしょう。

このような経路を辿って、自分自身の能力全体を網羅的に棚卸していくことが肝要です。能力診断をすることができて初めて能力開発を具現化していくことができるのです。

■図2 自己の能力を診断する

 

3. 将来のありたい姿を描く

能力開発の第2フェーズは、自分自身の将来のありたい姿を描くことになります。この段階での重要ポイントは、将来像をありありと描くことです。目指したい姿を頭の中でイメージするだけでは不十分です。自分の将来像を言語化してノートに書き出すことに挑戦してみてください。そうすることで、おぼろげだった輪郭が見え始め、自分の言葉として定着していきます。そして、将来像を他者に明確に語ることができるようになります。これは極めて大事なプロセスですので、時間を作って臨んでいただきたいと思います。

自分の将来のありたい姿を具体的に考えてみる手法は多岐にわたります。まずは、エドガー・シャインの『キャリア・アンカー』5)などを手掛かりにして、自分のキャリア(過去~現在~未来)を展望してみることをお勧めします。

将来のありたい姿を検討するに当たって、自問自答していただきたい質問がいくつかあります。

1)自分自身が目指したいリーダー像(マネジャー像、プロフェッショナル像など)はどういったものか
2)X年後に、どのような立場や役割で、どのような仕事をしている自分であれば、私はもっとも充実感(やりがいなど)を味わえるだろうか

この2つの質問に対して、ご自身の思いや考えを文章に書き起こしてみてください。

加えて、3つ目の質問を挙げます。この質問は少し角度が異なります。上記の2つの質問の主語は「私」ですが、次の質問の主語は「組織(上司)」です。

3)組織(上司)からの将来に向けた期待や今後のニーズとしてはどのようなものがあるのだろうか

最終的には、これら3つの質問に答えることで、自分自身の将来像のイメージを固めていっていただきたいと思います。

目指したい姿を明確化することができれば、現状の自分と将来像とを比較してギャップを認識することができます。その上で能力開発の方向性を絞り込んでいく必要があります。

大きな方向性としては2つあります。1つは、自分の強みに焦点を当ててさらに磨きをかけていく方向です。もう1つは、自分の弱みに着目して強化や克服をしていく方向です。どちらを選択しても構いません。重要なことは、現状からではなく、将来のありたい姿を起点にしてこれからの能力開発の方向性を自分自身で決めることです。自分自身で納得して決めてください。そうしないと能力開発の実践段階で長続きしなくなります。

能力開発の方向性が固まったら、最後に能力開発のテーマを設定します。代表的な方法は、能力開発対象とする能力要件を特定することです。2つから3つ程度の能力要件を選択するとよいでしょう。その上で、それぞれの能力要件においてターゲットとする行動をいくつか抽出してください。能力開発のテーマ設定とは「行動目標の設定」のことです。能力開発を本当に意味あるものとして実践するためには、この「行動目標の設定」が鍵となります。

■図3 将来のありたい姿を描く

 

 

4. 経験学習サイクルを回す

次に、能力開発の第3フェーズとして、経験学習のサイクルに話を展開していきましょう。その前に、なぜ経験学習が大切になってくるのかについて説明します。

いわゆる「70:20:10の法則」として、すでに人口に膾炙している内容ですが、米国のロミンガー社の調査 6)によれば、人の成長に大きな影響を与える要素は「仕事経験」であるということがわかっています。ですから、能力開発を考える際に、仕事経験を重要視していくことが望ましいと考えています。

■図4 人の成長を促進する要素

私たちが直接経験=仕事経験を取り扱う際に、有力な検討材料となるのが「経験学習」の考え方です。米国の研究者であるデービッド・コルブは、図5に示すような経験学習サイクル 7)を提唱しています。大胆に要約すれば、具体的な経験を重ねた後、その内容を内省(振り返り)し、 そこから教訓を得て、その教訓を次の状況に適用する、という考え方です。

本稿では、コルブのオリジナルの経験学習モデルや北海道大学の松尾睦教授の著作 8)などを参考にさせていただき、元々の考え方にアレンジを加えて発展させてお示しすることにします。

 

 

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■経験学習サイクルの職場実践にご興味がある方は、経験学習をベースにした人材育プログラムOJE®(オー・ジェー・イー)をご参照ください。


参考/引用文献

  • 1)ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス 上・下』 河出書房新社(2018)
  • 2)ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史 上・下』 河出書房新社(2016)
  • 3)ユヴァル・ノア・ハラリ『日経ビジネスオンライン』(2021.1.1)
  • 4)福沢諭吉『学問のすゝめ』岩波書店〈岩波文庫〉(1942)
  • 5)エドガーH.シャイン(著) 金井壽宏(訳)『キャリア・アンカー』白桃書房(2003)
    同書のシリーズ本として、エドガー H. シャイン(著) 金井壽宏(訳)『キャリア・サバイバル』白桃書房(2003)、
    金井壽宏『キャリア・デザイン・ガイド』白桃書房(2003)がある。
  • Lombardo, M.M. & Eichinger, R.W.(2010)The career architect: Development planner, 5th edition. Lominger International.
  • Kolb, D.A.(1984)Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development. New Jersey: Prentice Hall.
  • 松尾睦『職場が生きる 人が育つ「経験学習」入門』ダイヤモンド社(2011)、
    松尾睦『部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ』ダイヤモンド社(2019)

 

執筆者プロフィール

株式会社マネジメントサービスセンター  シニアコンサルタント
井上 真司
エレクトロニクスメーカー、総合商社、シンクタンクにおける勤務を経て2004 年よりマネジメントサービスセンター。ヒューマン・アセスメント(HA)、エグゼクティブ・アセスメントセンター(EAC)、インタビュー・アセスメント、360 度診断などを活用したタレント・マネジメントのソリューション提供を統括するコンサルタントとして、延べ100 社以上のプロジェクトに従事。イギリス、アメリカ、フランスでの勤務や留学の経験を持ち、海外関連のプロジェクトにも参画している。専門分野は、人材開発。主に、人材アセスメントと能力開発支援を活動の軸にしている。Hogan Assessment 認定資格者。