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リーダーに極めて重要な継続的フィードバック – あまり得られていない現状

リーダーが継続的なフィードバックを得られるようにするために

どの階層のリーダーでも、ベストを尽くすにはフィードバックが必要です。MSC/DDIのグローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2021調査では、多くのリーダーが実際に受けているよりも多くのフィードバックを望んでいることが示されています。何がうまくいっているのか、自分は良いリーダーなのか、自分の啓発点はどこにあるのかを知り、改善につなげたいのです。そのためには年1回のフィードバックでは不十分です。しかし、リーダーがフィードバックを受け取る頻度は低く、タイミングも遅く、正直なところ、あまり役に立っていないことがよくあります。

では、リーダーが継続的なフィードバックを得られるようにするために、能力開発担当者はどのような支援をすればよいでしょうか。本コラムでは、組織で継続してフィードバックを実施するためのベストプラクティスをご紹介します。その前に、継続的なフィードバックの定義とそのメリット、リーダーに対する単発のフィードバックとの違いについて、解説します。

 

  

継続的なフィードバックとは

継続的なフィードバックとは、リーダーが自身のパフォーマンスに関する情報を、上司、同僚、チームメンバーから頻繁かつ続けて受け取ることを意味します。継続的なフィードバックは、リーダーの役割が大きく変わるときや、日常業務で対立を解消するスキルを磨いているときなど、リーダーシップを発揮する場面での行動を確認する際に活用することができます。これは、古い習慣を変えたり、新しい習慣を作ったりすることに尽力しているリーダーにとって非常に重要であるにもかかわらず、最も欠落しがちな要素です。

 

  

継続的なフィードバックがもたらすリーダーへのメリット

リーダーが継続的にフィードバックを受ければ、多くのメリットを享受することができます。

 

1. コミュニケーションとコラボレーションの向上

私たちは、リーダーと上司、同僚、チームメンバーとの間のコミュニケーションやコラボレーションがより良くなることを実感しています。それは、フィードバックを提供したり、受け取ったりするときは、誰もが感情的に脆くなるからです。バルネラビリティ(弱さを見せる勇気)は心理的安全性を確保するための鍵であり、誰もが安心してアイデアや意見を発し、本来の自分らしさを発揮できる環境づくりを可能にします。

また、継続的にフィードバックを行う文化は、関係者全員のコーチング・スキルを向上させます。リーダーの上司はチームメンバーとより多くの話し合いをすることができ、その結果、より多くのフィードバックの機会を得て、スキルが向上します。そして、リーダー自身もこのポジティブ・モデル(模範例)を用いて、チームメンバーとコーチングの会話ができるようになります。さらに、チームメンバーも同僚をコーチングするときに活用できる模範例を得られるのです。

 

2. 柔軟性と敏捷性の向上

継続的なフィードバックは適時に提供されるため、リーダーは四半期や年次の業績評価、あるいは数年に一度行われる360度診断の結果を待つことなく、自分がどのような状態にあり、どうすれば向上するのかを認識することができます。これによって、リーダーは柔軟かつリアルタイムで改善に向けた取り組みに注力できます。また、変化の激しい時代だからこそ、継続的なフィードバックを活用することで、ビジネスや組織の優先項目の変化に合わせて、育成の優先順位も柔軟に変えられます。

 

上司が原因で退職.JPG

3. エンゲージメントの向上

リーダーが継続的にフィードバックを受け、自身の成長について上司と頻繁に会話をしていれば、より積極的に自身の役割に従事し、上司との関係も良好になります。上司に対する従業員の感情は、定着率に長期的な影響を及ぼします。DDIのフロントライン・リーダーに関する調査によれば、57%の従業員は上司が原因で退職したことがあると言及されています。

 

4. 継続的な能力開発

リーダーは自身のパフォーマンスに関して多くのフィードバックを受け、自身の能力開発について頻繁に上司と話し合いを行っているため、リーダーシップ開発への取り組みがより効果的になります。また、能力開発計画を見直し、その進捗も上司と頻繁に話し合っています。長期的なフィードバックを受けることで、定期的に軌道修正をすることが可能になります。その結果、リーダーは強い当事者意識を持って自らの能力開発を促進し、迅速にスキルを向上させることができるのです。

 

 

継続的なフィードバックと単発/一回限りのフィードバックとの違い

新しい登山ルートを歩くとき、事前に地図を確認せず、道中に一度も地図を開かないということはないでしょう。山頂にたどり着くために、頻繁に地図を参照するはずです。

一度きりのフィードバックは、スタート時に地図を見てそれっきりと同じ状態です。道に迷ったり、効率の悪いルートを通ったり、先のことを考えなかったりする危険性があります。一方、継続的なフィードバックは、地図を手元に置いて、目的地が合っているか、正しい方向に向かっているかを確認しながら、山頂に到達するようなものです。

つまり、単発のフィードバックは、継続的なフィードバックを補完するものと捉えるべきです。継続的なフィードバック・モデルを取り入れる際に、360度診断をやめることはありません。むしろ、これらのアプローチはうまく組み合わせて活用できます。

例えば、年間を通じて定期的に行われる正式な人事考課やそれに類するものは引き続き必要であり、育成に向けて調整したり、重点項目を確認したりするのに有用です。

しかし、リーダーの行動変容に必要なデータを提供するためには、継続的なフィードバックが不可欠です。さらに、継続的なフィードバックの文化があれば、リーダーは節目となる正式なレビューをより容易に行うことができるようになります。その理由は、リーダーが正式なレビューを行う前に、自身がどのような行動をしているのかを把握できているからです。最近受けたフィードバックや目標が頭に残っており、(理想的には)個人の能力開発計画にも記載されているはずです。

 

 

継続的なフィードバックを実施するための4つのベストプラクティス

では、どうすればリーダーがより定期的にフィードバックを提供したり、受けたりしやすくなるのでしょうか。ここでは、4つのベストプラクティスをご紹介します。

 

1. 迅速に行う

これは、リーダーが他者からのフィードバックを求める場合と、フィードバックを提供する場合の両方に当てはまります。リーダーは積極的に他者からのフィードバックを求めるべきですが、その際、関連性のある具体的な行動に絞る必要があります。仕事で使っているあらゆるスキルについて尋ねるような漠然としたものではなく、現在重点的に伸ばしている具体的なスキルのみでよいのです。同様に、フィードバック提供者も効果的にフィードバックをするためのスキルと自信を持つ必要があります。

 

2. タイムリーに提供する

リーダーはプレゼンテーションやチームミーティングなど、何かが行われた後、なるべく早い段階でフィードバックを求めなければなりません。そして、リーダーも同様に、チームメンバーや同僚に対して、できるだけ行動が起こった直後にフィードバックをすることが大切です。

 

3. 相手の役に立ち、誠意が伝わるようにする

人は皆、肯定的なフィードバックを好みますが、リーダーが受ける、あるいは提供するフィードバックは、それだけにとどまるべきではありません。誰もが自分の強みと弱みを理解し、さらに成長するためには、バランスの取れたフィードバックが必要です。バランスの取れていないフィードバックは役立つでしょうか?肯定と否定の適切なバランスを探ってフィードバックをするのは厄介かもしれませんが、誠意と共感を示しながら伝えれば、両者が自身の弱みをためらわずに話せるような心理的安全性が担保された環境を作り出すことができます。

 

4. テクノロジーを取り入れる

最後になりますが、組織で容易に導入できる継続的なフィードバック・システム、またはツールの活用をお勧めします。これらは、従来のアンケート形式のプラットフォームではなく、フィードバックを受け、提供し、レビューするプロセスをオンラインで管理できるツールでなければならないことを留意してください。そして、モバイルとの互換性があることが重要です。

このようなフィードバック・システムは、ユーザーが使いやすいプロセスであり、匿名のフィードバックを収集するためにゲームなどを使用するものもあります。これらのシステムの多くは、ユーザーが即座に洞察を得て、どこがうまくいっていて、どこを改善すればよいかを知ることができます。また、ほとんどのシステムは、システムを使用している全リーダーの属性別のデータを集計して、人事部に提供することもできます。


 

 

継続的なフィードバックが組織を変える

これらのベストプラクティスを実践することで、組織はフィードバックの文化への道を順調に進んでいくことが可能となります。フィードバック文化の醸成は簡単ではありません。そこに到達するためには継続的なフィードバックが不可欠となります。

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組織はフィードバック文化の醸成に取り組む過程で、効果が現れるのを実感できるはずです。MSC/DDIのグローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2021によると、リーダーが継続的なフィードバックを実践し、重要なスキルについて上司からフィードバックを受けていると回答した組織は、そうでない組織に比べて、リーダーの質と供給体制が高い確率が4.6倍になることが示されています。

さらに、これが習慣化されると、組織内の誰もがフィードバックを行い、フィードバックを受けることが当たり前のようになります。そして、従業員の能力開発や成長のための機会が増え、誰もが学び、前向きに向上することができる場となります。継続的な改善と成長こそが、成功の鍵となるのです。

 

 

 

執筆者:DDI エンタープライズ・クライアント・サクセス部門長、児童心理学者・産業組織心理学 アダム・テイラー

 

 

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