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日本アイ・ビー・エム株式会社 様

日本アイ・ビー・エム株式会社 様

日本のダイバーシティのフロントランナーによる
女性リーダー創出の取り組み

人事 エンゲージメント
部長 花田尚美(はなだ なおみ)様


ダイバーシティを経営戦略に

伊東:御社は、ジェンダーダイバーシティが進んでいる先鋭的な企業として有名ですが、これまでにどんな変遷があり、どんなチャレンジをしてこられたのでしょうか。

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伊東:御社は、ジェンダーダイバーシティが進んでいる先鋭的な企業として有名ですが、これまでにどんな変遷があり、どんなチャレンジをしてこられたのでしょうか。

IBMは90年代前半に経営危機に陥り、それを立て直すためにCEOに就任したルイス・ガースナーが、ダイバーシティを経営戦略として掲げました。もともと国籍や性別で差別しない会社でしたが、ダイバーシティを経営戦略に打ち出したのは大きかったです。

伊東:会社が経営危機になったとき、リーダーシップやダイバーシティはとても重要です。

花田:はい。変革実現には、多様な考え方が不可欠ですね。当時、日本では、女性のエグゼクティブ層は1人(現NPO法人J-Win理事長 内永ゆか子氏)しかおらず、後に続く人材があまり見えていない状況でした。そこで、「ジャパン・ウィメンズ・カウンシル(JWC)」というプロジェクトチームが発足しました。

第1フェーズでは機会均等にフォーカスし、続く第2フェーズ(~2007年)では、働きやすさの向上を進めました。第3フェーズは幹部への登用、第4フェーズはそれをさらに進め、社内外のネットワークも強化したところです。今、世の中では働き方改革が注目されていますが、当社では、第2フェーズで取り組んでいました。もともとITの会社ですので、技術を活用し自宅でも働ける環境を整備構築し、小さい子どもがいても働き続けられるようになりました。日本におけるダイバーシティのフロントランナーであり続けたいと、積極的に取り組んできています。

伊東:女性の活躍を促すことに対して、男性の反応はいかがでしたか。

花田:個人差があります。ほとんどの男性はダイバーシティを重視する会社だからIBMに入社したわけではありません。入社した会社がたまたまダイバーシティを推進している環境であったわけです。今では当たり前ですが、最初は抵抗もあったはずですが、優秀な女性と働く経験から価値を認識し協業して今日に至っています。 IBMはHigh Performance を標榜していますので優秀で能力がある社員にはどんどん機会が提供されます。

リーダーシップロールの女性を増やすことが課題

伊東:さらに次のフェーズに進むために、現在、どのようなことを目指されていますか。

花田:あるレベルまではジェンダーのギャップなく活躍していますが、その上のレベルになるとまだ課題があります。現在、全社員の22%、新卒採用では40%が女性ですが、部下を持つ管理職は14%、役員級(理事以上)は13%ですが、子育てをしながらキャリアを築ける環境があり、多くの女性が実践しています。役員級の女性の35%、管理職でも34%がワーキングマザーです。今、ばりばり活躍している女性は、“男勝り”寄りといいますか(笑)、中には仕事一筋の人もいるでしょう。仕事か家庭かの二者択一ではなく、双方のバランスをとってキャリアアップしていくには、まだ課題があるのでは、と考えている若手社員が多そうです。そこで、今年の6月からJWCの第7期を発足しました。「リーダーシップ」「スキル」「新しい働き方」の三つをテーマに、22名の若い女性が課題策定を始めています。

伊東:現在、リーダーとして活躍している女性たちがここまでリーダーシップを発揮できるようになったのは、会社として仕組みがあったからでしょうか。

花田:社内のカルチャーが大きいと思います。同じように頑張っている仲間と一緒に働くことで刺激を受け支えあうことが大きいです。 チャレンジ精神旺盛なタイプが多く入社している、ということもありますね。 JWCの活動も大きく貢献していると思います。20年にわたり女性の活躍のために何が必要かを自分たちで分析し、議論し、提言してきました。初期のJWCメンバーとその仲間たちが今、シニアリーダーとして後進をサポートしています。社内保育園も在宅勤務も、JWCが提案して実現したものです。

伊東:女性が自ら考え、提言してきたということが、素晴らしいです。
そういう意味では、女性がステップアップしていくインフラは整っているわけですよね。先頭を走ってきたIBMさんでも、今、女性のリーダーシップが課題になっているのですか。

花田:当社には、キャリアとして大きく5段階のステップがあります。貢献とスキルに応じて世界中で統一されたものですが、一般社員はまずプロフェッショナル職をめざし、チームリーダー、管理職とキャリアアップしていきます。 現在、チームリーダーのレベルまではかなりの数の女性が上がってきていますが、その次、つまり管理職のステップを上るところで、急にさびしくなります。10年前と比べると伸びてはいるものの、会社の期待はもっと上にあります。人をマネジするということは責任も増えますし、時間的な管理も難しそうということでライフイベントとの狭間で足踏みしてしまう傾向があるかもしれません。時間の問題なのか、それとも意識の問題かその他に要因があるのか、をJWCで検証しています。

飛び越えなければならない川を前に躊躇する女性たち

花田おそらく、多くの女性の意識からすると、管理職の前には大きな川があり、そこを飛び越えるには決意が必要なのだと思います。例えば、子どもがいるチームリーダーの女性がNext Stepを考えたとき、そのままでもそれなりに充実していれば、そこである程度満足して、この調子でワークしていこうかしら、とギアをあげるのをやめてしまう可能性がありそうです。アメリカでは「スティッキーフロア(sticky­=ねばねばする、べとつく、粘着する)」と言いますが、「グラスシーリング」のように天井があって上に行けないのではなく、床から足を持ちあげられずに飛ぶことができない。この問題がこの層で起こっているのか、が仮説です。

勇気を出して飛べば、見える景色が変わるはずです。より大きなミッションを担うという“おいしいキャンディ”を一度味わえれば、さらに上を目指すようになります。ただ、その手前の段階でどうしようか、と周りを見渡して考えているところです。

伊東:おいしいキャンディを食べてもらうために、どんなことを検討されているのですか。

花田:JWCの第7期は、ちょうどその辺りの世代の女性で組織されています。彼女たちミレニアル世代は、今、管理職として活躍している女性たちとは価値観が違いますね。われわれのモデルを押し付けるのではなく、彼女たち自身に、何があれば渡れるのかを見つけてもらいたいと考えています。7期は22名という今までにない大所帯であり、キックオフミーティングには200名の女性が集まり、双方向の意見交換をしました。多くの人を巻き込んで、皆で新しいものをつくっていこうというのは、今の世代らしいなと感じました。

伊東:ほかの会社ではあまり聞かない、面白いやり方ですね。

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ポテンシャルのある女性に意識改革の研修を実施

伊東:今でもアメリカでジェンダーダイバーシティがテーマになるくらいですから、この問題は、根深いものがあります。御社のアメリカ本社でも、かつては、女性が川を渡れない問題があったと思いますが、どうやって乗り越えてきたのでしょうか。

花田:グローバルで数々の表彰暦をもつポテンシャルのある女性向けの、「ビルディング・リレーション&インフルエンス(BRI)」というリーダーシップ研修を実施しています。
研修の冒頭ではこんな話をします。あなたの肩にカラスが止まっている。そのカラスが「あなたにはできない。やめておけ」とささやく。まずは、そのカラスを追い払いなさい。
扉を開け、一歩踏み出そうというメッセージです。この研修で意識改革をし、上を目指す女性が増えてくれば、その人たちがコミュニティをつくりさらに仲間が増えていきます。

伊東:ポテンシャルのある女性対象というのが面白いですね。そのクラスになると、むしろ男女一緒に行う企業が多いです。意図的に女性だけを集めて、どんなところにフォーカスしたリーダーシップ開発なのでしょうか。

花田:さきほどのカラスの意識改革や研修のタイトルにある、人との関係性を構築するやり方を叩き込まれます。360度の周囲にどんなときにどう関わっていくべきかといったことです。リーダーシップというと、強烈なパーソナリティで「黙ってついてこい」と錯覚を起こしそうですが、それでいつもうまくいくとは限りません。 リーダーとして成功するためには、周囲の人々への配慮や影響力を徹底的に意識せよ、というのがコアの教えです。

仕事で“おいしいキャンディ”を味わう機会が必要 

伊東:逆にいうと、なぜ男性にはやらないのですか。

 

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花田:もちろん男女共通のリーダー育成プログラムもあります。BRIで教えているのは、女性が陥りがちな課題にフォーカスしています。男性は、川を前にしても迷わないですし、行けと言われれば、泳げなくても飛び込みます(笑)。だから、男性の場合は、「その役割になったときには、こうなっていないといけない」という、その立場になったときに見える景色を見せてあげればいい。ところが、女性は、「救命具を付けていないから」とか「服が濡れてしまう」と言って飛び込もうとしないのです。

伊東:弊社がパートナーを組んでいるDDI社でも、女性が活躍できないのは能力の差ではなく、自信の問題だととらえています。そうした男女の違いは、どういうところからきていると思いますか。

花田:女性は周りに同じ立場の人が少ないので、“ファーストペンギン”にならないといけない点が大きいのではないでしょうか。男性は、入社したときから通常昇進を目指して走りだします。チャレンジする→成果を出す→認められる→新たなチャレンジをする→昇進する→成功する、の一直線。一方、女性は、キャリア志向で入社したとしても、多分に周囲に左右されます。中にはたまたますてきな景色が見えてきたので渡ってみた、という人もいるでしょう。川を渡らないという選択肢があるがゆえに、渡るべき人が迷っていそうです。最終的には個人の決断ですが、渡るべき人にはそれを自覚して、いつ渡るかを考えてほしいと思います。ライフが一番大変なときに120%の力は出し切れませんので、どこでライフイベントを迎えるかを考えて行動することも重要です。

伊東:今の若い世代は、男女平等に扱われてきて、男性だから女性だからではなくなっていますが、それでも、その辺りに来ると川があるのですね。

花田:最近メディアでよく目にしますが、男女の意識や家庭内での役割分担は思ったより保守的なのかもしれません。仕事と家庭双方を100%づつ頑張っていては、体力的にも精神的にも限界があります。それでも、仕事を心底面白いと思えたら、双方こなすための工夫や作戦を構築する欲張り人生を歩みだします。周囲には2-3人の子どもを育てながら大きな責任を担っている女性が何人もいますが、みんな実に楽しそうに仕事をしています。家族との時間もとても大切にしており、上手に時間を調整してワークとライフを満喫しています。 19時以降の会議は認めない、など、働き方改革が自然に推進されていますね。会社としては、機会を与え、仕事の面白さを実感してもらうことが重要だと考えます。面白い仕事をするために周囲の協力を確保し、新しい仕組みを構築したり発信して世の中を変えていくことができるいい時代だと思います。

伊東:優秀な人にどうやって早くから意識してもらうか、キャンディを食べる気になってもらうかが大事なわけですね。そのためには、トレーニングだけでなく、人材の見極めが重要ですが、どのように行っていますか。

花田:社員のポテンシャルやアサイメントについては広く深く議論する場があります。 結果として機会の提供やプログラムへの参加、チャレンジングなポジションへの登用を行っています。

多様なチャンスを与えられる会社でなければならない

伊東:話は変わりますが、花田さんご自身は、どのようなキャリアを歩んでこられたのですか。

花田:偉そうなことを言っていますが、私自身のキャリアは計画的と言えるものではありません。 20代半ばまで仕事に没頭していましたが、出産後は子育てに夢中になり、長めの育児休職を取得しました。復職時はキャリアから遠のいていたと思います。子育てとの両立に奔走していましたので、キャリアビジョンなどありませんでした。 子どもが少し成長したある日、役員から呼ばれ、「そろそろ戻ってきたら?」と尋ねられまして。「え?ずっと前から戻っていますけど?」と返答すると「気持が100%戻っていないでしょ」と痛烈なことを言われました(笑)。そして、「準備ができているなら、あなたにはこういう仕事を担当してもらいたい」と新しいチャレンジがふってきたんです。今思えば、その時キャンディをいただいたわけです。一気にギアが上がりました。

伊東:花田さんも、そこで新しいチャレンジをやりきったパワーと能力はすごいですが、その上司もすごいですね。タイミングを見計らっていたのだと思います。

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花田すごいリスクテークですよね。感謝しています。 ただ、このようなキャリアですので、ロールモデルとはほど遠いですね(笑)。

伊東:よく女性はロールモデルがいないと言いますが、人によって価値観も考え方も生き方も違いますので、本当は、特定のだれかをまねるのではなく、そのときそのときに出会った人からいいエッセンスを吸収していくべきではないかと思います。

花田:そういう面では、当社は、メンタリングやスポンサー文化が根付いており、さまざまなフェーズで、直属ではない少し上のポジションの人とメンタリングのペアを組みます。何でも相談でき、ニュートラルなアドバイスを受けられるので、とても貴重な経験です。メンターに支えられ成長した人がその経験を次につないでいく、という文化が継承されています。

伊東:キャリアの考え方に、「計画された偶発性」という理論があります。「個人のキャリアの8割は、予期しない出来事や偶然の出会いによって決定される」という前提に立ち、その偶然をただ待つのではなく、そうした偶然が起きるように自ら働きかけたり、周囲に目を配ったりして、偶然のチャンスを活かしていく考え方です。
あらかじめ計画を立ててそのとおりに実現していくのもキャリアの積み方ですが、実際には、仕事も人生も何が起こるか分かりません。偶然訪れたチャンスをつかんだ花田さんのようなキャリアは、素敵だなと思います。

花田:ありがとうございます。チャンスをいろいろなときにくれる会社だから、私もこのように歩むことができたのだと思います。
人生には、予期せぬことも起こります。その中で、「今はこちらを優先したい」という時期があってよいと思います。経験と能力とやる気がニーズに合致すれば、いつでも機会を提供できる社会をつくっていかないと優秀なリソースが活用しきれません。マミートラックをいい意味で活用するような仕組みの構築が必要ではないでしょうか。自分の責任と選択でいったん外にとしても、あるタイミングがきたら自力で戻ってくることができるような世の中にしていかないと、課題である少子化対策と国の成長は実現できないですよね。この経済規模でジェンダーギャップ111位はありえないです。半分の人口をこれほど活用しきれていないのはただちに是正しないと。テクノロジーがどんどん進化すれば、トラック内でも成果を維持することもできるようになるでしょう。異なる経験は新たな発想の源泉になります。働き方改革の論点をこのあたりに絞ってほしいと思います。カムバックの奨励やマインドを維持するための教育や社会とのつながりも望まれます。企業レベルではなくもっとマクロな視点での変革を急いでほしいです。

伊東:日本企業は、さまざまな制約があり、旬の時期に旬のチャンスを与えていない面があります。御社は、ジェネレーションもジェンダーも関係なく、機会を与える会社ですね。

花田:そのとおりです。実は今日、ちょうどうれしいことがありまして、同僚の日本人女性がIBMタイの人事トップに就任しました。こうして、活躍する仲間が増えていくのはうれしいです。若い方はどんどん外にも目を向けてほしいですし、さまざまな経験を積んで新しいアイデアを発信してほしいですね。

伊東:御社は、常にトップラインを走ってきた企業ということで、ダイバーシティについても培ってきた土台が違うと感じました。花田さんがおっしゃった、IBMはジェネレーションもジェンダーも関係なく機会を与える会社。そして、IBMはずっと消えることなく続いていて、さらに進化している、という言葉がとても印象に残りました。
IBMさんは、イノベーションを起こし、常にビジネスで注目されている企業でいらっしゃいます。そして、ダイバーシティ戦略が企業の成長にとって、いかに重要であるかということを実証されています。他社に先駆けて取り組んでこられ、それがいい形で次世代の女性リーダーの輩出へとつながっています。元気をいただける刺激的なお話をありがとうございました。

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会社名
日本アイ・ビー・エム株式会社
設立年月日
1937年(昭和12年)6月17日 創業80年!
資本金
1,053億円
事業内容
情報システムに関わる製品、サービスの提供