株式会社タクマ様

創業の精神やコミュニケーションを大事にする社風を基盤に、自社のこれからを担う人財を育成
コーポレート・サービス本部 人事部長 山田 文寛 様
人事部副部長 兼 人財開発課長 赤石 隆宏 様
環境とエネルギーの分野でプラントエンジニアリングを展開するタクマは、国産初のボイラを開発し、明治・大正期の日本十大発明家に数えられる田熊常吉氏によって設立。ボイラを通じて社会へ貢献するという「汽罐報国」を創業の精神として掲げ、社会の発展と課題解決に貢献してきた。同社は、長年にわたり、複数階層に「ヒューマン・アセスメント®」を実施し、リーダー・マネジャーを計画的に育成するとともに、リーダーシップ開発プログラム「インタアクション・マネジメント®」(IM)を幅広く社内展開し、社内コミュニケーションの強化を図っている。コーポレート・サービス本部人事部長の山田 文寛様と人事部副部長の赤石 隆宏様に、弊社シニアコンサルタントの今村雅恵と営業担当の馬場健治が、同社の人財育成の考え方や今後の展望について伺った。(文中敬称略)。
お客様の信頼を得て長く活躍する人財を育成
今村:御社は、グループの長期ビジョン「Vision2030」の7つの重要課題の1つに、「人財の活躍推進」を挙げていらっしゃいます。どういう人財を育てていこうとお考えですか。
山田:当社が建設するプラントは、20年、30年と長期にわたってお客様にお使いいただくものです。そういう意味でも、お客様のご要望に耳を傾け、お客様の信頼を得られる人財に育ってほしいと考えています。
今村:お客様にプラントを納入して終わりではなく、保守保全やアフターサービスを含め、非常に長いお取り引きになりますよね。御社の皆様にお話を伺うと、お客様との信頼の基盤のうえでお仕事をされていると感じます。
山田:また、お客様との関係が長期にわたることもあり、社員にも長期に活躍してほしいと考えています。雇用の定着は特に重視しています。
今村:だから御社は、人に対して熱心に関わっていらっしゃるのですね。山田さんも赤石さんも、よく、メンバーの皆さんについて、「彼はこうだ」という話をなさいますよね。いつもそばで仕事ぶりを見ているかのように、社員のことをよくご存知です。

アセスメントの課題は、フィードバック後の職場実践
今村:市場は堅調に伸びているとお聞きしていますが、今後も人を採用していく方針ですか。
山田:現在の社員数は約1100名です。5年後に1200名とする計画です。 毎年、新卒採用を30名程度。キャリア採用も引き続き積極的に行っていく予定です。
今村:社員が増えていくと、組織のマネジメントを担うマネジャーの役割がさらに重要になりますね。中堅社員研修と課長・部長の昇進に弊社のアセスメントをご活用いただいていますが、御社では、水準に達しないと課長や部長に昇進できない形にして、厳格に運用されていますね。一定のバーを設け、基準をクリアした方が管理職になるというのは、大事なポイントだと思います。
アセスメントは、うまく育成につながっていますか。
山田:そこが課題だと思います。アセスメント後に先生にフィードバックをしていただくと、上司は納得感があるようです。本人もある程度自覚はしていると思いますが、では、それをどう次につなげるか、日常業務の中でどう意識して改善していくかが難しい。
今村:講師からのフィードバック後の職場実践が弱いということですか。
山田:はい。啓発点に対してどう取り組んでいくか、行動目標を設定させ、日常業務の中で取り組んでもらいますが、どこまで実践できているか、上司がフォロー出来ているかが課題です。
アセスメントは若年層の育成にも有効
今村:アセスメントを受検された方の中には、意識的に行動を変え、成長されている方も多いですよ。よく、アセスメントはビジネス上の健康診断だと言われますが、自分の現在地点を確認する意味でとても大事です。
山田:若い人の育成にいいかもしれませんね。
馬場:おっしゃるように、アセスメントは今、若手にどんどん下りていっています。なぜかというと、1つは、計画的にリーダーを育成していくため。もう1つは、若い人たちが放っておくと辞めてしまいます。そこで、アセスメントをして、優秀な人に特別なアサインメントをすることで、会社に期待されていると分かるようにする。この2つの目的で若年層化しています。
今村:若年層にアセスメントをすると、モチベーションが上がる方が多いですね。皆さんそれぞれ得るものがあるようで、キャリアやリーダーシップについて前向きに考える方が多いです。
山田:今の若い人は20代から自身のキャリア形成について考えている人もいますね。
今村:自分が成長できる環境かをシビアに見る人が多いですね。ですから、アセスメントにノミネーションされた時点で、「誰にでも機会があるわけではない」ことを伝えて動機付けしてあげるとよいかもしれません。

業務過多やメンバーの多様化により、課長クラスのマネジメントがより難しくなった
今村:他社では、社員の帰属意識が問題になっていて、どこの会社に伺ってもリテンションの話が話題に上がります。御社では、組織と従業員のつながりを深め、エンゲージメントを高めるために、何か取り組まれていることはありますか。
山田:当社では、「1on1ミーティング」を随分前から行っています。上司と部下が面談をし、仕事の進捗状況、悩み、キャリアの希望などについて話し合います。深く踏み込まずにさらっとやってしまう上司もいますが、長く続けてきて、ある程度定着していると思っています。それと、日常の業務や酒席の場で、部下の悩みを聞いたり、議論をしたりと、日ごろからコミュニケーションを図っていくことが大事だと考えています。
今村:なるほど。御社は、「風通しがよい」「コミュニケーションが取りやすい」とおっしゃる方が多いですが、そうした取り組みをされてきたことでよい風土が根付いていらっしゃるのですね。
山田:当社は2015年からキャリア採用を拡大してきましたが、離職が多い時期がありました。そこで、2019年、MSCさんにお願いして、キャリア入社者とその上司に対してコミュニケーションの研修を始めました。その結果、いったんは離職が減ったのですが、ここ数年、また退職者が増加傾向にあります。転職に対する心理的ハードルが下がっていることもありますが、タスク中心のマネジメントになりがちなケースで多い印象です。
今村:課長が忙しいことも背景にあるかもしれませんね。一般のメンバーに伺うと、皆さんおっしゃるのが、上司である課長は技術力や専門性が高く、そこに追い付くのが大変だということと、上司は仕事量が膨大だということです。
山田:一般社員からも「課長を見ているとあまりに大変そう」といった声が聞かれます。それぐらい課長に負荷がかかっているのだと思います。
今村:課長クラスが大変だという話は、他社でもよくお聞きします。業務が逼迫しているということもありますし、メンバーが多様になり、変化しているので、マネジメントが難しくなっています。
また、上司から機会やサポートをもらうには、部下の側も自己開示する必要がありますが、変にわきまえて控えてしまう方もいらっしゃると思います。
山田:上司は、「聞いてくれたら、いつでも答えるのに」と言います。でも、部下からすると、忙しそうにしている上司には相談しにくいですよね。上司の方から積極的に声掛けしていかなければなりません。
今村:最近、部下指導やチームマネジメントを学ばせるタイミングを早める会社が増えています。そうしないといけないくらい、マネジメントが難しくなっているのでしょう。他社の研修で、「上司が『最近、調子どう?』と聞いてくるのをやめてほしい」と言う受講者がいました。「最近どう?」と言われると、「どうって何?具体的に言って」と思うらしいです。これはまさに「インタアクション・マネジメント®」(以下、IM)で伝えていることですが、関わり方や伝え方・聞き方を少し変えるだけで、コミュニケーションが深くなります。そうしたことを学ぶ機会は大事ですね。

キャリア入社者の育成には、新卒とは違う難しさがある
今村:先ほど、キャリア入社者へのコミュニケーション研修の話が出ましたが、これは、キャリア入社者本人とその上司を対象とした手厚い研修ですね。他社ではあまりない取り組みです。
山田:キャリア入社といっても千差万別。全くの異業種から転職してくる人もおり、新卒より育て方が難しいと感じます。おそらく課長は、「社会人経験があるから、一定のレベルはあるはず」と思って接しますが、実際のレベルはさまざまです。
今村:よく言われるのが、0を1にするほうが教えるのが楽で、1とか1.5の人を引き上げていくほうが難しいということです。それと、やはりまったくの新人ではないので、周りの人がサポートするときに、年齢やキャリアを気にして、新卒に対してであれば言えることが言いづらいというのもありますね。
山田:そうですね。当人たちも遠慮して聞きにくいということもあるかもしれません。
今村:一方で、大いに成長して活躍されている方も大勢いらっしゃいます。そういうモデルケースを増やすと、上司がどういう関わり方をしたか、初期教育でどう教育したか、職場でどうサポートしたかといった事例が集まってよいと思います。
山田:上司のマネジメントスタイルは様々です。事細かに指導するタイプもいれば、ある程度裁量を持たせて自由にさせるタイプもいます。
馬場:どちらか一方ではなく、きめ細やかな指導もできるし、自由にさせながら動機付けることもできるとよりよいですね。
山田:部下に合わせて使い分けるということですね。

部長などにコミュニケーションの教育を拡大していく方針
今村: IMの研修は、3年目、6年目、8年目と課長クラスに実施されていますね。中堅社員研修での部下指導のアプローチを見ても、人として認められたいというヒューマン・ニーズと実質的な成果を獲得したいというタスク・ニーズの双方を満たすことや、相手の自尊心を尊重する、共感的に聴くといったことを意識されている方が多く、IMでお伝えしていることが共通言語になってきていると感じます。「自分も上司にそういうふうにしてもらっています」という方もいらっしゃいました。
赤石さんは、弊社の社内ファシリテータ養成コース「ファシリテーション・プロセス・ワークショップ」(FCP)の認定を受け、若年層の研修を担当されていますね。すごく好評だとお聞きしています。
赤石:若い者同士はよいコミュニケーションが取れていると思います。ただ、彼らが言うのは、「上が理解していない」ということです。だから課長にも実施することにしたのですが、課長も同じことを言うので、次は部長にと考えているところです。
こういうことは、知っているか知らないかです。コミュニケーションが下手な人でも、理屈が分かれば、それを意識して話ができる。話が上手でも、例えばIMの5つの基本原則(自尊心、共感、参画、共有、支援)を知らないと、相手の人格を傷つけてしまうことがある。それを阻止したいですね。
今村:共通の価値観を持ってコミュニケーションを取ろうというときに、部長クラスが知らないと、場合によってはストップをかけたり、違和感を覚えたりして、なかなか加速していかないですからね。
他社でも、部長クラスへの教育を検討するところが増えています。部長クラスの方たちも、「課題を共有したり、ネットワークをつくりたいので、研修を受けたい」というニーズが結構あります。実際にやると、すごく盛り上がります。
赤石:部長以外では、現場と工場への導入も検討したいと考えています。
山田:建設現場の所長クラスや、生産現場の班長クラスの下の者への接し方も課題だと感じています。また、課長ではないけれど実質的に部下を指導している人もいます。皆にやらないとダメなんですよね。ただ、一方で、業務が多忙ななか、「研修疲れ」が出るおそれもありますので、そこの兼ね合いは考慮する必要があります。
今村:何を優先するかですね。最近増えているのが、オンラインと組み合わせた研修です。インプットは事前学習としてオンラインで学んでいただき、当日はディスカッションや実践的な練習をメインにする。そういうやり方の工夫をしつつ、優先順位を付けて取り組まれるとよいと思います。。
部長には、もっと一般のメンバーに関わってほしい
馬場:部長クラスについて、「もっとこうなってほしい」という課題感はありますか。
赤石:もっと強力に指導してほしいと思うことがあります。課長に任せているんでしょうけど、放任しないで強く言えばいいのにと感じる場面があります。部長は課長より下の部下に直接接する場面が少ないので、部下がその一瞬を切り取って、「えこひいきしている」というような見方をすることがあります。そういう意味では、ちょっと可哀想ですが。
山田:課長を飛び越えてコミュニケーションを取るのを遠慮してしまう人も居るかもしれません。
今村:分かります。難しいですよね。ただ、部長から言われるコメントや関わりって、部下からすると、すごく印象に残りますよね。いい意味でも悪い意味でも、一言が重いですし、人材育成の環境整備や配置への関わりが大きいですよね。課長だけの力では難しいこともありますし、忙しい課長をフォローする意味でも、もっと関わっていただき、部長と課長の連携プレーの育成ができるとよいと思います。ハラスメント的な言動は論外ですが、そこはそうならないようにしながらも、言うべきは言う。そういうコミュニケーションも、IMで伝えています。

これからは、自律して考えていける人財、ハードワークできる人財が必要
今村:現在のお取り組みや今後の展望について伺ってきましたが、山田さんご自身が課題に感じていらっしゃることはありますか。
山田:個人的な考えですが、今までの当社の教育は、どちらかというと、安定して働くためのスキルや、人間関係の構築などが中心でした。それらはこれからも当社のベースになりますが、そのうえで、「Vision2030」で掲げている経常利益200億円に向けて、新しいものやサービス、付加価値を生み出せる人財を育てていく必要があると考えています。
今村:チャレンジ精神やイノベーティブな感覚を持ち、現状を維持するだけでなく新しいところに踏み込める人財ですね。赤石さんはいかがですか。
赤石:私は人を増やすために今のポジションに就きましたが、増やすばかりではいけないとも思っています。ブレーキとアクセルの両方を操作し、ビジョンの実現につなげていかなければならないと、山田とも話しています。
そして何よりビジョンの実現には、「ハードワークできる人間」が必要だと思います。こんな時代だからこそ、昔、当社にも多くいたような、自分事として会社のことを考え、一生懸命仕事をする人間が必要だと考えています。
今村:管理職の中にも、「現場に放り込まれて夢中で働くなかで分かることがたくさんある。それを大事にしたほうがいい」とおっしゃる方が多いですね。
山田:まずは、働くことに積極的な人、一生懸命、仕事をする人を採用することが第一ですね。
それと、若いうちにどう成功体験を積ませるか。それが「ハードワークできる人間」を育てるポイントだと思います。
今村:そうですね。他社でも、「本当はもうちょっと働きたいけど、働き方改革や残業規制があって帰らなきゃいけない」という話を聞きます。そういう志向の方を採用し、やりたい意欲を折らないようにどう伸ばすかが大事ですね。
御社の昔の方が自分事としてハードワークができた原動力は、何だったのでしょうか。
赤石:私が入社初期に所属していた設計部門で言えば、自分がこのプラントを設計し、それが世の中の役に立っているということを実感できていたからだと思います。創業の精神「汽罐報国」そのものです。
今村:社会に欠かせないものなので、伝わりやすいですよね。社員の皆さんも、意義や意味を感じていらっしゃる方が多いと思います。以前、ある課長さんが、「自分たちは50年後、100年後を見据えて、街をつくることに関わっている。だから、どういう街や社会にするかを思い描いて仕事をしています」と熱心に語ってくださいました。私は第三者ですが、そういう大きな目的のために仕事をしているということには心を動かされます。そういうことを語れる方は強いですよね。
赤石:将来の環境を守るという使命に共感を持って来てくれる学生さんは多いですね。ただ、入った後も大事ですよね。自分の芯の中にその思いがあれば辞めないし、ハードワークもできるはずです。
今村:仕事の指示を出すとき、最初に目的や意味を伝えることが多く、その後はあまり伝えないですよね。業務の進捗確認や管理が中心になって、足元の仕事だけやっていると、大きな目的を見失うことがあります。上司が常にそことリンクさせていくことが大事です。
山田: 当社でも常々トップが、創業の精神や経営理念について社員に語ります。仕事で壁にぶち当たったときに、心の拠りどころにしてほしいですね。
今村:人財育成においても、マネジメントにおいても、創業の精神が基盤ということですね。私も、研修の中で「創業の精神を発揮していますか」と確認していきますね。本日はありがとうございました。

対談者プロフィール

株式会社タクマ コーポレート・サービス本部 人事部長
山田 文寛 氏
1993年4月(株)タクマ入社。入社以来、一貫して人事部で業務に従事。採用、研修、給与関係、福利厚生、各種人事制度構築、労働組合との協議・交渉、障がい者雇用など、人事・報酬諮問員会事務局など、人事関連業務を幅広く経験。今は、他部署やグループ会社の様々な人事課題、問題の相談相手になることが多い。1970年生まれ。大阪府出身。

株式会社タクマ コーポレート・サービス本部
人事部 副部長 兼 人財開発課長
赤石 隆宏 氏
1998年4月(株)タクマ入社。設計、見積積算、国内営業、グループ会社管理、プロジェクト管理、海外営業の各部門を経て、2020年4月創設の人事部人財開発課に課長として着任。以来、採用と育成を担当。2020年12月FCP取得、翌年度より若年社員向けのIM研修を実施。若年社員との宴席を楽しみに採用面接、研修運営に精を出す毎日。1973年生まれのイチロー世代。熊本県出身。

株式会社マネジメントサービスセンター シニアコンサルタント
今村 雅恵
教育関連企業、メーカーに勤務後現職。前職では、人事部にて採用・教育、メンタルヘルス対策の企画、営業部門での部署マネジメントなどの職種を経験。2013年よりHRコンサルタントとして、ビジネス戦略の実現に向けたリーダー育成計画立案のサポート、ヒューマン・アセスメントによる能力診断、リーダーシップ開発、など人材領域における幅広いコンサルティング活動に力を注いでいる。DDIラーニング・システム認定マスタートレーナーとしてファシリテータの養成も行っている。日本産業カウンセラー協会 産業カウンセラー。Hogan Assessment 認定資格者・DDI認定マスタートレーナー。

株式会社マネジメントサービスセンター
エンタープライズHRソリューション部
馬場 健治
医療系コンサルティング企業を経て2002年入社。国内企業の人的資本に関する課題に対して、次期世代経営人材のアセスメント、マネジャー候補者選抜・育成、ハイポテンシャル人財の早期発見と育成、女性活躍推進、企業内トレーナー育成等の側面で企画提案・実行支援を行う。
- 会社名
- 株式会社タクマ
- 設立
- 1938年(昭和13年)6月10日
- 資本金
- 13,367百万円
- 従業員数
- 〔連結〕4,278人 〔単体〕1,054人 (2024年3月末現在)
- 事業内容
- 各種ボイラ、機械設備、公害防止プラント、環境設備プラント、冷暖房ならびに給排水衛生設備の設計、 施工及び監理、土木建築、その他工事の設計、施工及び監理