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武田薬品工業株式会社 様

「面白いこと・新しいことの陰にはタケダがいる」と言われるために!
創意工夫を促進するためのダイバーシティ

ジャパンファーマビジネスユニット
人材マネジメント部長
瀬戸 まゆ子 (せと まゆこ)様


女性向け研修など、ダイバーシティ推進策を強化

伊東:御社は、女性の活躍推進についてさまざまな研修を行い、女性リーダーの輩出に向けて多額の投資をしたと伺っています。

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瀬戸:ジャパンファーマビジネスユニットは日本における医療用医薬品のビジネスユニットで、大半の社員が医薬情報担当者(MR:Medical Representative)であることから、かつては女性管理職の比率が3%しかない状態でした。現在では以前と比べると女性に対してかなり投資し、機会も与え、育成に力を注いでいます。もちろん、成果を出すことができなければ降格させることもします。女性管理職を増やすために育成に注力していますが、女性が珍しくないという状態になれば、特に女性にフォーカスしたアクションというのは特に必要なくなると考えています。
また、昨年までは「女性活躍推進」ということを強くうたっていましたが、今年からより根本的な変化が必要な「働き方改革」というメッセージを前面に出すように変えました。そして、働き方改革の先には「生産性向上」があり、さらにその先には「イノベーション」がある。あまり初めから大きな画を描くとうまくいかないので、一歩ずつ進めているところです。
手前みそですが、当社には、やる気とガッツのある、優秀な女性が数多くいます。彼女たちは、機会さえ与えれば、成長していきます。問題はそれ以外の層です。この層は、「別にやってもいいけど」という人と「絶対やりたくない」という人に分かれます。絶対やりたくないというのは個人の選択なので尊重しますが、大事なのは、「別にやってもいいけど」という層をどうやって引き上げるかです。彼女たちは、従来の男性のようには働けません。「違うやり方でいいんですよ」というメッセージを出していますが、伝わるにはある程度の時間がかかると思います。
女性の管理職比率については、明確なKPIを設けました。数値目標を掲げることに反対の声もありますが、ビジネスの戦略として取り組んでいますので、数値目標がないということはあり得ません。
また、社員にアンケートを取ると、実は、働き方改革をしたいのは女性だけではなく、若い世代の男性も、これまでの働き方を変えたいと思っていることが分かりました。彼らの多くは、共働きで、奥さんが大変な状況を理解していて、子育てもしたいと思っています。でも、矢面に立つのは、どうしても帰らなければならないママさんたちです。
そこで、NPO法人ファザーリング・ジャパンにご協力いただき、すべての男性管理職を対象に研修をしました。また、社内で一般の従業員を対象に講演いただいたりもしました。そうする中で、有志で社内SNSに「ファザーリング・タケダ」というコミュニティを立ち上げる人達が出てきて、そこに各自が自分の体験を投稿してくれるようになりました。「毎日子どものお弁当を作っています」や「高校生の息子を連れて語学留学をしてきました」といった事例を共有することで、「自分もやってみよう」という人が増え、同僚への配慮も出てきます。また、仕事を効率的に行う意識付けにもなり、生産性向上へのマインドセット変革にもつながっています。 

日本のタケダ、世界のTakeda

伊東:瀬戸さんは、外資系企業から転職されてきて、自社の現状についてどうお感じになられましたか。

瀬戸:私は、製薬、金融、保険と、業種はさまざまですが、ずっと外資系企業に勤めてきて、18カ月前にこの会社に来ました。日本企業は初めてです。
入社前は、日本のタケダは、若干、グローバライゼーションとは別のところにいて、取り残されている印象を受けました。当社はグローバルに事業を展開していますが、私がなじんできた外資系企業とは違い、かなりローカルに権限委譲する方針です。それは必ずしも悪いことではなく、個々の社員としてはやりやすい面がありますし、マーケットに対するオーナーシップも醸成されます。自分たちで決めて、自分たちが責任を持って経営している意識を持てるのは、よいことです。
ただ、“本家”である日本のタケダに、ヨーロッパオフィスやUSオフィスの人たちと同じ感覚があるかというとちょっと違うかもしれません。私の名刺は、表に日本のタケダが使っている「ウロコ」マーク(うろこ)、裏面にはグローバルのTakedaのロゴ(takeda)が入っています。日本のMRのマインドは、今でもウロコマークのタケダであり、カタカナのタケダです。海外の従業員は、アメリカもヨーロッパも、大型買収を経験して揉まれてきたので、日本の従業員とは、見ている世界、肌感覚が若干違う。
若い人はグローバライゼーションに前向きですし、中途社員も、必要性を認識しています。反面、「日本でナンバーワンの武田」としてのアイデンティティーを強く持っている社員もいます。当社は現在、日本だけでなく、世界でも「ベストインクラス」の製薬企業を目指しています。その意味では、日本でナンバーワンである私たちには、実は、できることがたくさんあるはずです。 

伊東:会社のロゴが2種類あるというところに、今お話しいただいたことが凝縮されていると感じます。一般的に日本の会社がグローバル化を進める際に、アメリカの外資系企業のやり方を取り入れるのが正しいかというと、そうとは限りません。御社には脈々と流れているタケダとして大切にしているものがありますので、欧米的な要素をベースにしながらも、日本を尊重する御社のやり方も、一つの方法かと思います。ただ、御社は、CEOが外国人なのに、ヘッドクウォーターがトップダウンでガバナンスを効かせる方針ではないというのは意外です。

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瀬戸:今の社長はフランス人ですが、彼のやり方は、「ビジョンは共有しましょう。でも、そこにたどり着く道筋は、自分でつくりましょう」というものです。最近は”One Takeda”というメッセージを強く打ち出しており、今後は多少変わってくるかもしれませんが、ポリシーとしてはかなり“グローカル”です。例えば、評価制度も、外資系企業ではグローバルに制度を統一しますが、当社は、業績主義・成果主義という基本的な考え方は共通であるものの、それ以外のところはかなり自由です。
人間というのは変化を嫌いますので、早く変革を進めようと思ったら、多少の揺り戻しがあるのは織り込み済みで、一気に振ってしまったほうがやりやすいことも多いです。カルチャーを変えるとか、女性の活躍推進といったことは、「グローバルでこう決めたから」とトップダウンで指示したほうが、早く進みます。
しかし、当社の社員は、自分たちで創意工夫し、変革していくことができる人たちです。愛社精神や仲間意識も強いので、ある程度の人が変わっていけば、そこから広がっていきます。「もう少しグローバルスタンダードが入れば、変革が加速されるのに」という思いはありますが、自社のよい面は残したいので、なるべくボトムアップで進めるようにしています。

「面白いことの陰にはタケダがいる」と言われたい

伊東:今日のテーマは女性のリーダーシップではありますが、つまるところ、こういう問題は、女性だけの話ではないと思います。従来のやり方でプライドを持ってやってきた人たちが、リーダーシップの在り方を変えていかなければなりません。そのとき、何が一番の課題だと思いますか。

瀬戸:課題はいろいろありますが、カルチャーとして、ダイバーシティがかなり不足しています。当社は国内ではナンバーワンであり、自分たちが業界をけん引してきたというプライドがあります。タケダは“インフルエンサー”でした。だからこれまでは、ある意味、内向きでもよかったのです。ところが、これからは、外を見ないといけません。特に最近は、製薬業界の中だけでは完結しなくなりました。世の中で起きていることにアンテナを張り、社外の情報や人に触れる時間をとることが大事です。でもやっぱり、当社の社員は、タケダの中で、今より一歩先に行くことを考えようとしているように感じられます。
「タケダに話を持っていけば、そこから新しいものを生み出してくれる」と認知されることは、ビジネス的にも重要ですし、私の個人的なビジョンでもあります。ダイバーシティは、そのためのアプローチの一つです。ダイバーシティというのは、属性を越え、タブーに挑戦すること。タケダには236年の歴史がありますが、もともと進取の気性に富んだ会社です。「老舗だけど、面白いことの陰には必ずタケダがいる」と思ってもらえるのが理想です。

 

他業種への出向など、これまでにない体験型の施策を企画 

瀬戸:まだ計画段階ですが、中堅社員を他業種の企業に出向させようと考えています。NGOやNPOに行くもよし、消費財メーカーやIT企業に行くもよし。そういうところに実力のあるマネジャーを派遣し、だれも自分のことを知らず、知識も自信もない中で、周りを巻き込んでリーダーシップを発揮する経験を積んでもらいたいと考えています。
タケダの海外子会社に出向しても、どこかに自分の知り合いがいる状況ですので、その関係の中で仕事をしようとしてしまいます。当社に限らず、「あの人は優秀だ」と言われている人が海外などに出向しても、失敗するケースがありますよね。それはやはり、だれも自分を知らないところでネットワークを築き、サバイバルしていくリーダーシップの練習ができていないからだと思います。

伊東:それは面白いですね。知識をインプットするより、とにかく体験してもらい、身をもってそこから気づかせるというのは、人の行動を変えていくうえで、良いやり方だと感じました。

瀬戸:ダイバーシティも然りで、今までの研修とは違う形の取り組みをやっていきます。まだ実験段階ですが、D&I推進のために社員が自発的に発案して、男性社員がママさんMRの1日を疑似体験する取り組みをした営業所もありました。当社には、時短で働いているママさんMRが結構います。そのママさんMRをはたから見て、「早く帰れていいね」という男性社員の声があります。「では、やってみてください」と、男性社員に1~2日、仕事をしながら家事や子供のお迎えなどをしてもらいました。すると、大変さが分かり、さまざまな気づきがありました。当社の社員は共感力がありますので、実際に体験してみて理解すれば、同僚を配慮するようになりますし、効率的に仕事をする意識も高まります。

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創意工夫あふれる組織を目指し、毎日がトライ&エラー

伊東:御社の社員の方々は、理解が早いのですね。あとは行動に移せるかですね。

瀬戸:当社は良い意味で家族意識が強く、仲間がいると重い腰も上がります。新しいことを始めてそれがある程度広まると、自分でもやってみようという気持ちになります。

伊東:家族意識のいいところをうまく活用していくのですね。
会社によっては、中高年層がこれまで培ってきた考え方でリーダーシップを発揮してしまっているところがあります。中高年層のマネジャーに対しては、何か施策を打っていらっしゃいますか。

瀬戸:以前とはマネジャーのあるべき姿が変わってきましたので、リーダーシップビヘイビアを明確にし、研修も行っています。今まではスタープレーヤーをマネジャーにする傾向がありましたが、大分変えてきました。
中高年は、世の中では「粘土層」と言われますが、当社の場合、家族愛がありますので、部下が困っているときには手を差し伸べようとします。そこは大いに刺激していきたいと思います。コーチングに優れた人も大勢いて、イクメンとして頑張っている社員には、必ず理解のある上司がいます。
私が次に考えているのは、こういう人たちをピア・コーチとしてつないでいけないかということです。ピアのネットワークによって、家族愛や創意工夫といったタケダの強さを活かしていきたい。
当社も、大企業特有の風土はあります。でも、話を聞いてみると、いきいきとした営業所ではかなりの創意工夫が見られます。当社は、創意工夫によって大きくなった会社であり、そのスピリットは今も残っています。そこをうまく引き出したいです。
そのために、毎日がトライアンドエラーです。でも、それでいいと思っています。何がうまくいくか分かりませんし、特効薬はありません。立ち消えになる施策もありますが、10個やって1つでもワークすれば、それでいい。いろいろやりすぎとも言われますが、まずは実行してみることが大事です。タケダは優等生が多く、失敗を嫌うところがあります。失敗しないように考え抜くことも大事ですが、「とにかくやってみよう」というのもダイバーシティの一つです。

タケダが変われば、日本が変わる

伊東:やはり、同質の人だけの中でやっていると、失敗したくないという思いも生じますし、知らないうちに、今までの勝ちパターンで動こうとしてしまいます。それを変えるのは、よい意味で“空気の読めない人”です。ハイコンテクストな文化の中に、これまでの暗黙の了解を知らない、異質の人が来て、変革を起こすことがよくあります。御社は今、タケダプロパーではない人が増えてきていて、それが一つの風になっているのでしょうね。

瀬戸:そうですね。社外に出れば、世の中の風をビュンビュン感じますので、いやが上にも変わっていく必要があります。そのためには、いっぱい種をまかなければなりません。どこから芽が出るか分かりませんので。

伊東:いろいろな手を打っておくと、そのうちいつか実になっていく。世の中からの注目度はとても高いと思います。御社が取り組めば波及効果も大きいですから。

瀬戸:タケダが変われば、日本の企業が変わる、という自負があります。今までのやり方でタケダ色に染めるのではなく、「面白いことの陰には、必ずタケダがいる」というように変わっていったらいいと思っています。
あとは、成功体験をどう積ませるかです。社員が「この会社に勤めていてよかった」と思えるようにしていきたい。自分自身の成長を実感でき、家族からも感謝され、世の中からも「タケダは面白そうだよね」と言われたいですね。

伊東:若い世代にも可能性を感じてもらえる組織になるといいですね。彼らが希望を持てるように。

瀬戸:そうですね。そして、彼らも、自分たちの足で立つこと。いつまでも会社に頼るのではなく、例えば「社内ベンチャーをやりたい」というような人が、タケダからもっと出てきてほしいです。それを生み出すのがダイバーシティです。

伊東:236年の歴史あるタケダが、今、One Takedaに向けて、女性リーダーシップだけでなく、真のダイバーシティに向けて、タケダ流グローバル企業へ変わろうとしています。社内の人たちの力で変えようとするうねりを作る取り組みは、瀬戸さんがおっしゃるように、世間が注目していますし、必ず、成功してほしいと思っています。瀬戸さんがおっしゃった、「タケダが日本で1位だったら、優秀な日本人のリーダー人材が沢山いる会社。世界で17位だったら、“Why not Japanese”――なんでグローバルリーダーを育てられないのか」。この言葉がとても印象に残りました。外に目を向け、外の風をどんどんと感じて、会社を変えていく。社内にこだわらず、異業種との交流を積極的に進めていく。どれも、これからの日本企業が考えていかなくてはならないテーマばかりでした。女性リーダーのテーマから、最後は、ダイバーシティにまで発展するお話は、今の日本企業にとって、最も関心あるテーマです。今日は、本当にありがとうございました。

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会社名
武田薬品工業株式会社
創業
1781年(天明元年)6月12日
設立
1925年(大正14年)1月29日
資本金
652億円 ※2017年3月末時点
従業員数
6,638名(単体)、29,900名(連結)※2017年3月末時点
事業内容
医薬品等の研究開発・製造・販売・輸出入