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テルモ株式会社 様

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リーダーシップパイプライン強化に向け、 経営リーダー育成研修「GRIT」を始動

人材開発室
室長 前田浩司(まえだ こうじ)様 〔画面左〕
主任 中神仁志(なかがみ ひとし)様 〔画面右〕


グローバル経営の進化に向け、経営リーダーの育成策を強化

──はじめに、人材育成の基となる現在の経営戦略についてお聞かせください 

前田現在、2017~2021年の5年間の中長期成長戦略に取り組んでいます。5年後、10年後を見据えた打ち手を今打っておかなければならないという課題意識から、今回、当社としては初めて、3年ではなく5年計画を立てました。 

──そこから落とし込んだ人材育成の方針、注力しているか。 

前田一つは、経営リーダー(役員~部長クラス)の育成です。M&Aを行うことも多くありますので、PMI(買収後の統合)を含めてマネジメントができる人材、もしくは、複雑化した経営環境下でリーダーシップを発揮できる経営リーダーが必要になります。 

──まず国内で体系の基盤をつくそれを海外に展開していく方針ですか。 

前田買収した会社にはそれぞれ人材育成体系がありますので、互いのよいところを取り入れていきたいと考えています。そのために、今年4月にCHRO(Chief Human Resource Officer、最高人事責任者)が置かれ、グローバルにHRの連携を図ろうと取り組み始めたところです。 

──人事制度グローバルに統一するのか、それとも、人材育成面の連携を図るのか、企業によって対応が分かれるところですが、御社ではどのような方針ですか 

 

前田それを決めるのもこれからです。CHROが置かれた目的は、まずは現状把握をすることです。統一するにしても、やはり、日本を含む経営リーダー層が対象です。例えば、カンパニーのキーポジションのサクセッションプランでは、外国人がヘッドであれば、外国人がサクセッサーに上がってきますが、日本人がヘッドだと日本人しか上がってきません。こうした点も時間をかけて改善していきたいと考えています。

 

──これまでは日本から経営人材を海外に送り込むことが多かったと思いますが、これからは、その国の人が社長になることも出てくるのですね。 

 

前田すでにそうなっている地域、事業所もあります。ただし、必ず現地の人ということではなく、そのときに最適な人がなります。それが日本人の場合もあります。 


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リーダーシップのパイプラインをつくる

──経営リーダーの育成について伺う前に、御社の教育体系を教えてください 

中神:階層別、選抜、手上げ式の3本の柱があります。 

階層別研修は、新入社員、2年目、主任、課長、新任部門長と上がっていく形です。以前は2年目ではなく3年目に行っていましたが、「3年で一人前にする」という考え方なのに3年目の12月に教育しても遅いので、1年前倒ししました。 
選抜研修は、まず新入社員からの早期育成制度があり、次に主任・一般職を対象とした「GRIT2」、続いて課長クラス対象の「GRIT1」、最後に次の役員を目指す選抜研修もあります。 

──かなり早くからリーダー育成に取り組まれるのです 

中神:経営リーダーを継続的に輩出するパイプラインをつくるために拡充しました。 

未来のリーダーのコンピテンシーとネットワークを強化  

──新しく始めた選抜型研修の内容を教えてください。 

中神:新入社員向けの育成制度は、研修によって知識をインプットするというより、通常はなかなか与えられないタスク、意識的にハードルの高い課題を与え、上司と連携を取りながら進めるプログラムです。必要なインプットはオンデマンド等で行いながら、5年ほどかけて、選ばれた人にタフな仕事をアサインしていきます。今年からスタートし、現在選抜中です。 

──OJTとOff-JTの垣根をなくした形ですね。 

中神:はい。そして、このプログラムを終えた後くらいの層にGRIT2を行います。 

GRIT2は半年間のプログラムで、5~10年後のチームリーダーを育てます。研修の目的は大きく二つ。一つは、リーダーとしてのコンピテンシーを修得すること。もう一つは、将来を担うリーダー層のネットワークを構築することです。 

コンピテンシーはGRIT1と共通で、「戦略的思考」「成果志向」「顧客視点」など8項目からなります。今回、MSCさんにはアセスメントの評価項目についての設計とアセスメント実施についてご協力いただきました。セッションについては戦略のフレームワークや会計などの経営リテラシー、リベラルアーツなどを学んだうえで、インプットしたものを実際にアウトプットする機会として、グループワークなどを行い、経営への提言をしてもらいます。また、期間中に1週間、インドを訪問し、現地の市場を見て顧客視点を学びます。 

──なぜインドのですか 

中神:新興市場のビジネスのモデルになることと、ネットワークの観点です。インドのトップから「ぜひやってみよう」と賛同が得られ、現地の各部門のトップとネットワークを築く機会を設けました。 

──語学も選抜の要件に入れていますか。 

前田いいえ。現実に直面して、「このままではダメだ」と危機感を持ってもらうねらいもあります。

リーダーとしての覚悟を問う

中神:このプログラムでは、リーダーになるための覚悟を持たせることも重視しています。当社は、過去、さまざまなリーダー研修を行ってきましたが、一貫しているのが、リーダーとしての覚悟を醸成することです。 

──覚悟というキーワードが出てきたのはなぜですか。 

中神:リーダーの仕事は、なんとなく与えられるものではありません。「自分がリーダーになるんだ!」という思いが不可欠です。 

──そもそもGRITというの、やり抜く力という意味ですよね。 

中神:はい。書籍のタイトル(『やり抜く力』アンジェラ・ダックワース著、ダイヤモンド社)から取りました。GRITというのは、Guts(度胸)、Resilience(復元力)、Initiative(自発性)、Tenacity(執念)の四つの要素の頭文字を組み合わせたものでもあります。 

──早ければ20代でGRITに選ばれまが、今の若者には、管理職になりたがらない傾向もありますそういう見極めもされて選抜するのですか。 

中神:「次世代のリーダーを育成します」と打ち出し、「自分がリーダーになるんだ!」という思いを持った人に自ら応募してもらいます。 

前田応募者には「2030年のテルモの在りたい姿」というテーマで論文を課します。2030年には経営の一角を担うつもりで、自社に対する思いと戦略を考えてもらいます。また、自分の仕事ができていないと周囲の納得感が得られませんので、評価も見ます。 

──GRITのプログラム、どのようなものですか 

中神目的はGRIT2と同じで、プログラムも大体同じです。ただ、GRIT1では、5~10年後に事業のプレジデントや事業部長として活躍してもらうことを期待しており、求めるレベルが異なります。経営シミュレーションを行ったり、実際の企業経営を意識できるようなコンテンツを充実させました。また、GRIT2の受講者との合同セッションも実施し、過去の経験やそこから生み出された価値観を理解するワークを行い、自身のリーダーシップについて考えてもらいました。 

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それぞれのプログラムの目的・内容をフォーカスしていく

──応募状況はいかがですか 

中神GRIT1、2共50人程度が応募し、どちらも12人選抜しました。 

──逆に考えると落ちる人が増えますが、そ方たちへのフォローはされました 

中神次回も手を挙げてもらえるよう、一人ひとりにフィードバックしました。1回きりで終わるプログラムではありませんので、来年もチャンスはあります。 

──GRIT1、2はまだ1年目が終わっていませんが、途中経過はいかがですか。 

中神各コンテンツに対する受講者の満足度は高く、企画側としてもうまく進められていると捉えています。外部のファシリテーターに厳しく指導され、自分たちに足りなかった点に気づき、成長しています。 

プログラムが始まって3~4カ月経ったころ、GRIT2の参加者の上司に、「今までは一担当として自分の仕事をするだけだったが、違う人の仕事や部門の進むべき方向を意識し、自らそこに関わろうとするようになった」と言われました。 

──コンピテンシーについては、どのような反応ですか。 

前田GRIT1も2も直接一人ひとりにフィードバックしましたが、納得感が高く、成長意欲につながっていると感じます。 

──GRITのプログラムについて、現状見えている課題はありますか。 

中神各コンテンツの満足度は高いのですが、いろいろ盛り込んでしまった印象があります。今後は、GRIT2では、もう少し明日から使えるスキルを身に付けて現場でアウトプットさせる。GRIT1は、スキルは備わっている前提で、リーダーとしてのマインド、覚悟を問う形にしていくとよいかと考えています。 

育成への思いを持った人を企画担当に指名 

──GRITどれくらいの期間で構築されたのですか。 

中神:昨年4月に話をいただき、最終的に完成したのは12月ごろです。 

──中神さんをこの研修の企画の中心メンバーに選ばれたのはなぜですか 

前田彼は、年齢的にはGRIT1と2の間くらいです。新卒採用を担当していましたが、採用に携わるなかで、採用した人がどう育っているかに関心を持っていましたし、以前行っていた研修プログラム「TGLP」に参加した経験もありましたので、人事スタッフとしての幅を広げてもらうためにも、担当してもらいました。 

──自らもリーダー育成研修を受けていたので、こうあるべきというイメージを持っていですね。 

中神はい。こういうことが受講者に響くというのが受講者側の感覚としてありましたので、それが企画を考えていくベースになりました。その一つが、TGLPで受けた英語のプログラムです。当時の私は、全然英語を話せなかったのですが、周りにできる人がいて刺激を受けたことが、今につながっています。 

前田:今では英語レベルも格段に上がり、MBA派遣制度にも合格し選抜メンバーに選ばれました。彼のそういう意欲は、受講者にも伝わります。我々に意欲がないのに人に「成長しましょう」と言っても、響きませんよね。よい見本になってくれています。 

──中神さんはGRIT1と2の間の年齢ということですが、中神さんに任せるうえで、GRIT1の企画ができるか不安はありませんでしたか。人材開発の経験も浅いわけですよね 

前田:そこはチャレンジです。やったことのないことに挑戦しないと、人は成長しませんので。ディスカッションには、私と副室長、課長が参加し、4人のチームで企画しました。ただし、リーダーは中神で、起案するのも社長へのプレゼンも彼に任せました。 

──中神さんは、リーダーを任され、どこから手を付けしたか。 

中神まず、過去のリーダー育成研修の参加者に、何が印象に残っているかヒアリングしました。それを踏まえて形に起こし、ディスカッションをして磨いていきました。社長にも何度も持っていき、意見を聞いて、相談して、見直してと、地道に進めていきました。 

──ご自身の経験からこういうプログラムがいいんじゃないかという考えがあるけれども、丁寧にヒアリングを重ねて知恵を集めのですね 

中神:「こういう思いでやるんだ」という自分たちの軸を持ったうえで、それをベースにしながらも、いろいろな意見を聞きました。 

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人材開発が会社の命運を握る

──経営リーダー育成はどこの会社でもトップマターです。他社に向けてメッセージをいただけますか 

前田当社の経営リーダー育成は、「LEOセミナー」という人間力中心の経営リーダー養成研修から始まりました。その後、前社長の時代にM&Aを進め、一気に海外比率が高まりました。そこで、社員がグローバルで戦う“武器”を身に着けるためのTGLPというプログラムに切り替え、経営リテラシーの修得に努めました。そして、次のステップとして、両制度のよいところを併せ持ったプログラムとして立ち上げたのが、GRITです。その時々の経営方針や課題認識によって中身を変えてきたのです。 

育成の仕方に正解はありません。ですから、研修ありきではなく、自社の経営方針を押さえたうえで、経営トップを巻き込んで進めることが大事だと思います。 

──トップのコミットはやはり重要ですか。 

前田そうですね。トップのコミットがあると、社員に対して、本気でやろうとしているというメッセージになります。ましてや当社は、2017年に現在の経営体制に代わりましたので、トップのコミットがより重要でした。 

──中神さんはいかがですか。 

中神部長、副室長、課長と、当時、一担当だった私とで企画を進めるなかで、自分自身も成長できたと感じています。周りを巻き込んだり、引っ張っていくよい経験ができました。仕事の与え方というのは、人が成長するうえでとても重要だと思います。 

 

──御社が若い層から経営リーダー育成に取り組んでいらっしゃるのは、ビジネス環境として、そうせざるを得ないためですよね。海外に行けば、若く優秀な人がどんどん経営者になっています。日本国内で“飢餓感”を醸成していくことは本当に難しいと思います。 

前田当社の人材開発の大きなテーマの一つは経営リーダーの育成ですが、もう一つ、そういう育成の文化をつくっていくことも、重要な課題と捉えています。現場の一社員にとっては、上司が会社そのものともいえますので、上司一人ひとりが育成をするという文化を持っている会社になっていきたいと考えています。 

──人材開発に対する思いが強いですね 

前田企業はやはり人です。よい技術やよい製品があっても、それはすべて人が生み出しているものです。社員一人ひとりの成長が会社の成長なので、社員の成長を担う我々は、会社の命運を握っていると考えています。 

とはいえ、自分の子どもでも、思うように成長させるのは難しいですよね。我々にとって大事なのは、場を提供し、意欲のある人を後押しすること。我々がやらないと会社の成長が止まってしまう──それくらいのつもりで取り組んでいます。 

──ありがとうございました。 

(聞き手:戦略ソリューション室室長 芝沼芳枝) 


会社名
テルモ株式会社
設立
1921年9月
資本金
387億円
社員数
4,781名(テルモグループ 23,319名: 2018年3月末現在)
事業内容
医療機器・医薬品の製造販売
グループ会社
連結子会社 96社持分法適用関連会社 5社 *2018年3月末現在