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第2回リーダーの「創造力」を引き出す3つのアプローチ アンラーニング編

~「経験学習モデル」を応用したアンラーニングによって、既成概念を取り払うアプローチ~

第1回では、「創造可能性人材の発掘と環境の整備」をテーマに内面に豊かな創造性を持った「創造可能性人材」の発掘と支援についてご紹介しました。
続編となる本号では、「創造力」の発揮を妨げる要因をさらに探り、「経験学習モデル」を応用して、過去の経験によってつくられた偏った価値観や固定概念(不合理な信念)を取り払い、「合理的な信念」へと書き換えるためのアプローチを、事例を交えて解説いたします。

 

 

創造力の発揮を妨げる「不合理な信念」

第1回では、創造力の発揮を妨げる外的要因を探りながら、内的要因の一つである「環境感受性の高さ」について触れてきました。内的要因にはそれ以外にも、「不合理な信念」の存在や「メタ視点の欠如」が考えられます。

 

図7:創造力の発揮度が低い要因分析

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たとえば「ビジネス知識の不足」など、他にも様々な要因があるでしょうし、要因によって対処策も変わってきますが、ここでは創造力を引き出す2つ目のアプローチとして、不合理な信念の書き換えについて触れたいと思います。不合理な信念というと大げさに聞こえるかもしれませんが、これは自分ではなぜか正しいと思い込んでいるけれども客観的に見るとおかしい、と思えるような偏った考え方のことです。臨床心理学者のアルバート・エリスが1955年に提唱した「論理療法」で使われた言葉で、成果を導く上でネックとなる一種の固定観念と捉えてください。

 

 

固定観念を取り払うアンラーニング

創造力の発揮度が低い方の中には、自身の過去の経験則に過度に依存してしまい、未知の局面で着想が浮かばず手詰まりになりやすい傾向の人がいます。このような場合、ネックとなる固定観念を掘り起こして解除・修正するアンラーニングを行っていただくと効果的です。アンラーニング4)とは、過去の成功体験によって固まってしまい、時代の変化に適応できなくなった考え方のパターンをほぐし、いわば既成概念を取り払って、合理的な考え方へとシフトさせていく手法です。「学びほぐし」や「知の断捨離」とも言われます。

たとえば、創造力が弱点だということは分かっているのになかなか改善できない営業パーソンの内面を掘り下げてみます。そうすると、「目の前の売上目標を達成するためには行動し続けなければならない。悠長に発想を広げてアイディア出しをしている時間の余裕などない」といった考え方が強く根付いている場合があります。行動変容をしていく上では、まず内省によって自身の中にそういう偏った価値観(不合理な信念)があることを自覚し、「チームを通じて成果を出すには、行動だけでなく、時には自由にアイディアを広げたり、みんなと話し合って発想を切り替えたりすることも大切である」というように、合理的な信念へと意識を変えていくことが、大切になります。

 

 

「経験学習モデル」を応用したアンラーニングのアプローチ

ここでは「経験学習モデル」を応用したアンラーニングについて紹介します。人は何かを経験すると、それを振り返り(内省)、何かしらの知見やセオリーを見出し(概念化)、それを他の状況で活用しようとします(適用)。経験学習とは、このモデルを意図的に回していくことで能力開発の効果を高めようとするものです5)。日常の行為でも多くの方が無意識にこのサイクルを回していて、そこから様々な信念や価値観が生まれていると考えられます。

 

図8:「経験学習モデル」の概要

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従って、この経験学習モデルを過去へと逆回転させて遡及していけば、アンラーニングを論理的に行うことができます。強みであれ弱みであれ、人が取っている行動の背景には、過去の経験を解釈してつくられた信念が隠れている可能性があります。この信念は本人が無意識のうちに大切にしている価値観とも言えるものです。うまく機能していれば行動の一貫性を高める上で効果的なのですが、時としてそれが既成概念となって創造力の発揮を低下させることがあります。その場合、凝り固まった既成概念を取り払い、合理的な信念へと書き換えると、発想の自由度が高まって、ゼロベースで考え、新たな問題に対処できるようになります。

繰り返しになりますが、経験学習モデルを応用したアンラーニングでは、まず行動の背景に隠れた信念や、その信念を生み出した過去の経験を内省によって発掘します。そして、経験から解釈した信念を適切なものへと書き換えたりスケールアップしたりして、未知の局面にも対処できる創造性を養っていきます。

 

図9:経験学習モデルを応用したアンラーニングの構造

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不合理な信念の書き換え例

不合理な信念には多様なパターンがありますが、創造力の発揮を妨げる要因になりやすいものとしては、「失敗は許されない」「正しく解答しなければならない」「ルールは守られなければならない」などが挙げられます。このような信念が必ずしも悪いという訳ではありません。何事にもプラスの側面とマイナスの側面があり、リーダーが成果を導くためには、時としてこのような考え方を持つことも必要でしょう。大切なのは、そのような偏った考え方で行動しているということを、俯瞰的な視点からしっかりと自己認知することです。そして、それが創造力を発揮する上で障害になるようであれば、より合理的な考え方に書き換えることをお勧めします。ちなみに、前述したHSPタイプの中には、「完璧にこなさなければならない」などの自分が課したルールに縛られてしまう人が多いと言われています。

もちろん、これまでの人生経験で培ってきた信念は自分自身が大切にしているものであり、強固で根深く、一朝一夕に変えられるものではありません。不合理な信念は、悪さをしないよう意識付けを継続的に行いながら、合理的な信念へと粘り強く書き換えていく必要があります。

 

図10:不合理な信念の書き換えの例

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実際には、「その行動を生み出している背景には何があるのか」といった観点から、図11のようにノートに書き出して内省を進めていきます。これによって、自分が無意識に大切にしている信念に気付くことができます。さらに、弱みを克服する方法を見つけ出したり、弱みから新たな強みを発掘したりすることもできます。とはいえ、一連のワークを独力で行うのは、余程内省に慣れていないと難しいでしょう。弊社では、アセスメント後に1on1セッションを実施し、リーダー一人ひとりの事情に寄り添いながら内省を支援する取り組みを行っています。また、複数のリーダーを対象に振り返りワークショップを実施し、ファシリテーターの案内に従って内省を深めていくことも効果的です。

 

図11:創造力の弱みを生み出す不合理な信念を発掘し書き換えたケース

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続きは3月22日に掲載を予定しています。

 

<次回以降の内容と配信予定>
第3回:トレーニング編前半(3/22掲載予定)
メタ視点を強化する他者からの問いかけ
第4回:トレーニング編後半(4/5掲載予定)
内面の創造性を引き出す深い傾聴

 

第1回をご覧いただいていない方は、ぜひ、下記にアクセスください。

▼第1回コンディショニング編 「創造可能性人材の発掘と環境の整備」はこちら

 


<参考/引用文献>
4)  松尾睦 『仕事のアンラーニング -働き方を学びほぐす』 同文舘出版(2021)
5)  松尾睦 『部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ』 ダイヤモンド社(2019)


執筆者プロフィール

株式会社マネジメントサービスセンター  チーフコンサルタント
松榮 英史(まつえ ひでし)
MSCにて、15年にわたり5,000人以上のビジネスパーソンの能力診断に従事。培ったヒューマン・アセスメントやフィードバックの技術を活かして内省を深める1on1セッションを提供し、リーダーの自分らしさを大切にした能力開発を支援している。MSC Webサイトに掲載している執筆コラムとして、「1on1で創るウェルビーイングな能力開発」(2021.07.16)がある。