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第4回リーダーの「創造力」を引き出す3つのアプローチ トレーニング編後半

第4回リーダーの「創造力」を引き出す3つのアプローチ トレーニング編後半

~深い傾聴を伴う1on1セッションで、リーダーの内面の創造性を引き出すアプローチ~

先月からお届けしているコラムでは、「創造力」の発揮度が低い外的要因と内的要因を探りながら、リーダーの「創造力」を引き出す2つのアプローチをご紹介してきました。

1つ目は、「創造可能性人材」を発掘し、能力発揮しやすい環境を整備するアプローチ、

2つ目は、「経験学習モデル」を応用したアンラーニングによって、既成概念を取り払うアプローチ、

3つ目は、「メタ視点の欠如」に対処するためのトレーニングでした。

 

最終編となる本号では、1on1セッションに焦点を当て、1on1セッションで「創造力」をトレーニングするメリットと、深い傾聴が「創造力」に与える影響を解説し、深い傾聴を伴う1on1セッションで、リーダーの内面の創造性を引き出すアプローチをお届けいたします。

 


深い傾聴が創造力に与える影響

カウンセリングの研究者として高名なカール・ロジャーズは、人が自分らしくクリエイティブに生きるためには、自分の内側と深くつながりながらものを考える「内臓感覚的思考」が必要で、そのためには信頼できる誰かに心を込めて「聴いてもらう」体験が必要であるという見解を述べています6)

 

図19:深い傾聴と「創造性」の関係

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本書の著者である諸富氏も、深い「傾聴」が人の創造性を開く可能性について触れています。心から安心できる誰かに話を聴いてもらうと、人は自分の心の奥深くに自ら耳を傾けるようになり、それが自己受容、意識変容を引き起こし、内発的な創造性の開花へとつながっていくのです。

 

図20:深い傾聴とは

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多くのリーダーが創造力を発揮した経験に乏しく、どのようにトレーニングすればよいのかさえ分からないのが現状です。創造力を開発する方法には様々なものがあると思いますが、1on1セッションの中で、誰かに深く傾聴してもらいながら自身の内面と対話し、過去の探索をしたり未来のありたい姿を創造したりするアプローチが、内面にある創造性を引き出す上で劇的な効果を発揮します。

 

図21:1on1セッションで取り扱う範囲

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未来の可能性を生み出す「無形資産のストック」

1on1セッションで実施する取り組みは、リーダー自身に内在する過去の経験資源を内省によって発掘し、未来の資産を創り出す「内省と創造のプロセス」と表現することができます。人の内面に埋蔵された経験資源には、外的資源の制約を超越する無限の可能性が秘められています。自己の内面に存在する埋蔵資源をコツコツと発掘・開拓し続けることで、将来の創造力発揮につながる無形資産がストックとして着実に積み上がっていくのです。

改めて1on1セッションで創造力をトレーニングするメリットを整理すると、以下のようになります。

1on1セッションで創造力をトレーニングするメリット
1. 他者視点から問いかけられることで、メタ視点が磨かれ視野が広がる。
2. 深い内省を通じ、内面にある言葉にならない感覚を言語化することができる。
3. 深い傾聴によって内発的な創造性が引き出され、未来の可能性を開く無形資産を蓄積できる。
4. ありたい姿を創造することで、自らのキャリアをメタ視点から俯瞰的にデザインできる。
5. 深い傾聴が自己変容に与える影響を体感することで、リーダーとしての1on1の技術向上につなげられる。

※1on1セッションでは、人の内面の繊細な部分を取り扱う場合があります。セッションを共にするコーチは言うまでもなく、人事関係者や上司も含めて最大限の配慮と敬意を払い、本人の尊厳を守る必要があります。

 

 

創造力が高い人と低い人のマインドギャップ

リーダーとの1on1の中で肌感覚として感じるのは、1on1セッションでの内省の深さや自分自身との向き合い方は、その人の創造性と深くつながっていそうだということです。

こんな話をさせてください。ある企業の人事担当者に1on1のデモセッションを提供していた時のことです。その方がふと口にした「グロースマインドセット」という言葉が気になり、「それはご自身にとってどんな意味合いがありそうでしょうか」と問いかけたところ、このような返答がありました。

「人類が滅亡する瞬間に、自分が人類を救うという気持ち」

改めてこの言葉のニュアンスを解釈すると、「どんなに不可能と思われる状況でも決して諦めず、自分と未来を信じて可能性を追求し続けること」ではないかと感じています。精神論になってしまいますが、この言葉に創造力を発揮する上で最も大切なエッセンスが凝縮されていると思っています。

「りんごの種を見て、『これはりんごじゃない』と思うのか、それとも、『育てればりんごになる』と思うのか、変革を起こせる人とそうじゃない人の違いはそこにある」

これはかつて私がある起業家の方に言われた言葉です。この言葉にも創造力を発揮する上での重要な示唆が盛り込まれています。その時はピンと来なかったのですが、多くのリーダーの方との1on1セッションを重ねるうちに、徐々にその意味が腹落ちするようになってきました。創造力を強化したいと願いながらも、無意識のうちに心の奥底に諦めが生じ、自ら可能性の芽を摘んでしまっているリーダーと出会う機会が増えていったからです。自ら可能性を見出すことを諦めて、他人任せ・他人事になってしまっている人が創造力を発揮しようとしても、それは無理な話です。

 

図22:りんごの種をどう見るか

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たとえば、目の前にリスクや障害があるとそれを大きく捉えてしまい、障害を乗り越えた先のチャンスにまで目が向かない、といったケースもありがちです。リスクに歯止めをかけることが目的になると、チャンスを見出そうとする発想が生まれにくくなってしまいます。確かに、リスクを取らなければ表面上は事態の悪化を招くことはないでしょうが、そうすることで結果的に現状維持に甘んじてしまうといった状況に陥らないよう注意したいものです。

 

 

重要性が増すサクセス・プロフィールの中の「個人特性」

MSC/DDIが提唱する概念に「サクセス・プロフィール」というフレームがあります。リーダーがパフォーマンスを高める上で必要となるエッセンスを抽出すると、大きく「知識」「経験」「コンピテンシー」「個人特性」の4つの要素に分解できるという考え方です7)
4つの要素はどれも必要不可欠なものですが、それぞれの重要性は、リーダー自身のキャリア段階や、置かれた環境、時代背景によって変わってくるのではないかと考えています。下記の図23は、サクセス・プロフィールの4要素が、どのような状況に適応しやすいかを示したものです。
左側の「知識」と「経験」は、「特定の業界」や「特定の職場」で必要となる専門的な知識や経験と考えてください。「知識」は、「知っていればできる」「マニュアルがあれば対応できる」といった比較的「単純な世界」に対処する要素と言えます。「経験」は、これまでの実践で得てきた経験則や、保有する知識を少し応用すれば対応できるような、「多少の例外事項があって煩雑ではあるが、解が見つけやすい世界」に対処する要素と言えます。

一方、近年ではVUCAの時代と言われるように、リーダーには、一歩先も見えない複雑な世界で想定外の事態に対処することが求められるようになってきました。このような時代には、「知識」「経験」だけではなく、「正解がない未知の局面でどのように行動するか」、という「コンピテンシー」が重要になります。そして現在は新型コロナウイルスによるパンデミックが発生し、世界はさらに混沌とした状態へと遷移しているように見えます。そんなカオスな世界では、コンピテンシーだけでなく、そもそも「どんなリーダーであるのか」という「個人特性」が強く求められるようになっていくはずです。

図23:時代の変遷によって重要度が変わる「サクセス・プロフィール」の要素

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組織や人が多少揺らいでも、社会が安定していれば生き残ることは可能ですが、社会そのものが揺らぎ、それによって組織が揺らいでいる状況下では、リーダー一人ひとりが簡単には揺らいだり流されたりしないよう、確固たる信念と自己基軸を持つことが極めて大切になってくるのです。

 

 

「垂直的な成長」へと至る内省と創造のプロセス

「成人発達理論」や「インテグラル理論」などの人の成長・発達に関する理論の中では、人の成長には大きく「水平的な発達」「垂直的な発達」の2種類があると述べられています8)。生存環境の複雑性の増加に対応するためには、知識や技術の習得といった「水平的な成長」にとどまらず、知識や技術を活用・運用する人格的存在としての個人特性そのものの成熟度を高める「垂直的な成長」が必要であるという考え方です。

1on1セッションによって視野を広げ、自分自身と真摯に向き合って質の高い内省や創造のプロセスに取り組み、リーダー自身が大切にしている信念や価値観、ありたい姿を言語化していくと、現在地を起点として、過去と未来がストーリーとしてつながっていきます。徐々にではありますが、内面に一本の芯が通るようになり、個人特性が磨かれ強化されていきます。言語化や概念化によって無形資産のストックが蓄積され続け、それが臨界点を超えると、通常のなだらかな成長とは次元の異なる爆発的な成長が始まります。個人的な見解にはなりますが、「垂直的な成長」とは、まさに個人特性の成熟度が高まった先に起きる、次元の異なる成長を指しているのではないかと考えています。

 

図24:「水平的な成長」と「垂直的な成長」

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内省が「創造力」に及ぼす効果

外向的で活動的な方からすれば、「内省」というと、とても内向的で非生産的な印象を受けるかもしれません。しかし、質の高い内省は、リーダーの意識の変化を促し、思考力や行動力を高めて行動変容していく副次的な効果を生み出します。

 

図25:内省の効果

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リーダーが一人孤独にノートに向かい、あるいはコーチの問いかけに応じて、これまでの経験を振り返って内省を深めることで、知性や感性が開かれ、洞察力や創造性、感受性が高まっていきます。自分の信念を明らかにすることで主体性が高まり、自信と心のゆとりが生まれてきます。

もちろん、一朝一夕にそうなることはあり得ません。大切なのは、質の高い内省を習慣として継続していくことです。内省によって蓄積されていく気付きや独自の言葉、概念、コンセプトといった無形資産が、やがて内面で相互作用を起こしながらつながり出し、それがリーダーにとって必要な「創造力」の開花につながっていくのです。

 

 

創造力とは

ここまでリーダーの創造力を引き出す3つのアプローチを紹介してきました。改めて整理すると、以下の通りです。

① コンディショニング: 組織に埋もれた「創造可能性人材」を発掘し、創造力を発揮しやすい環境を整える。
② アンラーニング: 経験学習モデルを応用し、過去の経験によってつくられた不合理な信念を書き換える。
③ トレーニング: 深い傾聴を伴う1on1セッションでメタ視点を養い、未来への可能性を切り開く。

それぞれ①現在、②過去、③未来に軸を置いたアプローチと解釈することもできます。これらの要素に、以下の「ラーニング」を加えることで、リーダーの創造力を劇的に引き出すことが可能になります。
④ラーニング: ビジネスの知見やリベラル・アーツを学び、過去からの叡智をインプットする。

図26の通り、創造力を強化するには、どうやら「心理的安全性」の確保が重要な鍵となっていそうです。

 

図26:創造力の発揮度が低い要因と考えられるソリューション

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繰り返しになりますが、マネジメント能力としての「創造力」はあくまで手段であって目的ではないということです。そういう意味では、リーダー自身が未来像をイメージし、それを実現したいと強く想うことで初めて発揮される能力であると考えられます。そして描く未来像のスケールが大きい人ほど、「創造力」を発揮する絶対的必要性も大きくなっていきます。どんな未来を描くかはその人の自由ですが、「創造力を伸ばしたい」と思うリーダーの方には、より高い「創造力」が必要となるスケールの大きなビジョンを描いていただきたいものです。当然、個人のビジョンを組織のビジョンと一致させていくプロセスは必要です。

創造力とは、内なる空想世界と外の現実世界をつなぎ、可能性を切り開く人の強い想いである。
創造力のエッセンスを一言でまとめると、そんな風に表現できるかもしれません。

 

図27:内省と創造の関係図

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最後に ~次なる一歩を踏み出すために~

弊社ではアセスメントとセットで1on1セッションを提供する機会が多くありますが、セッションでは、リーダーの内面の深いところと一致できるよう静かな内省と創造の空間をつくりながら、リーダー自身が、以下のような「問い」に真摯に向き合い、自身の内面と対話する時間を大切にしています。

・今抱えている問題や課題、自身の強みや弱みは、過去のどのような経験に起因するものなのか
・自身が大切にしたい信念や価値観を軸に、未来のありたい姿をどのように描くのか
・現在地を起点として、過去と現在、未来、自分と会社、社会をどのような論理と物語でつなげるのか
・ありたい姿を実現するために、次なる一歩をどのように踏み出すのか

創造力を開発する上で重要なのは、リーダー自身が自分の能力開発をデザインするというメタ視点に立つことです。「過去の経験資源」という「既知の情報」を活用して、「未来のありたい姿を実現する方法」という「新しい考え方や解決策」を生み出すという意味では、まさに創造力の定義そのものの行動と言えます。

1時間程度の短いセッションですが、再び会う可能性が少ない社外の人間に対しては、かえって安心して自己開示ができるというメリットもあります。不安や葛藤を抱えていたリーダーの心が晴れ、未来への可能性を感じて生き生きとした表情に変わっていく様子を見る度、一期一会のセッションだからこそできる支援の仕方があると痛感しています。

古典的名著である『夜と霧』の著者であり、精神分析学者であるヴィクトール・E・フランクルは、「一人ひとりの人間の人生には生きる意味が必ずあり、人は様々な条件、状況の中で、自らの意志で自分の態度を決める自由を持っている」との見解を示しています9)。私自身、長らく自分の人生の意味を問い、悩み続けていることもあり、この考え方に強く共鳴しています。「自分のしたいことが分からない」と悩むリーダーの方々にもぜひ参考にしていただきたい考え方です。

関わりを持った一人でも多くのリーダーの方が、創造力を開花させて自身のキャリアや人生に意味を見出し、強い意志と目的を持って次なる一歩を踏み出していけることを願ってやみません。

 

 

■コラムの全文をお読みになる方は下記からダウンロードください。

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<参考/引用文献>

6)      諸富祥彦 『カール・ロジャーズ カウンセリングの原点』 KADOKAWA(2021)
7)      マシュー・J.ペース,オードリー・B.スミス,ウィリアム・C.バイアム(著) 藤原浩(訳) 『次世代リーダーシップ開発』ProFuture(2017)
8)      鈴木 規夫 『人が成長するとは、どういうことか 発達志向型能力開発のためのインテグラル・アプローチ』 日本能率協会マネジメントセンター(2021)
9)      ヴィクトール・E・フランクル(著) 池田香代子(訳) 『夜と霧 新版』 みすず書房(2002)

 



執筆者プロフィール

株式会社マネジメントサービスセンター  チーフコンサルタント
松榮 英史(まつえ ひでし)
MSCにて、15年にわたり5,000人以上のビジネスパーソンの能力診断に従事。培ったヒューマン・アセスメントやフィードバックの技術を活かして内省を深める1on1セッションを提供し、リーダーの自分らしさを大切にした能力開発を支援している。MSC Webサイトに掲載している執筆コラムとして、「1on1で創るウェルビーイングな能力開発」(2021.07.16)がある。