2026年の5つの重要なリーダーシップトレンド: 組織とリーダーに求められる次の一手
2026年、リーダーシップは重大な転換点
人工知能(AI)はもはや未来の概念ではなく、日常業務に深く浸透し、意思決定を加速させるようになりました。一方で、新たな倫理的・人間的な課題も突きつけられています。
同時に、従業員は経済的不確実性の中でキャリアの目標を見直し、野心よりもウェルビーイングや安心感を優先する傾向が強まっています。組織もまた、従来の階層構造から、協働を重視するフラットな体制へとシフトしています。 MSC/DDIの最新調査「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2025」は、この危機感を裏づける報告をしています。リーダーの71%がストレスの増加を訴え、そのうちの40%がリーダー職から離れることを考えているのです。さらに、CHROの77%が重要な役割を担う人材の供給体制に自信を持てていません。変革のスピードが増す中、リーダーシップ・パイプラインは崩壊寸前にまで細くなっています。

これは単なる変化ではなく、組織の構造を揺るがす大変革です。人事や人材開発部門には、ROIを示しながら、人材のギャップと燃え尽きリスクが潜むリーダーシップ・パイプラインの課題を乗り越えることが求められます。
一方、経営幹部や上級管理職といった個々のリーダーには、次の問いが突きつけられています。
「急速な変化の中で成長を促進しながら、イノベーションと忠誠心を支える人間的なつながりをどう維持するのか?」
本コラムでは、2026年における最も重要な5つのリーダーシップトレンドを解説し、組織とリーダーがこのような環境で成功するための具体的なステップを提示します。
トレンド1:人間とAIが共創する新時代のリーダーシップ
AIはもはや、既存のビジネスモデルや産業構造を根本的に変革するような、将来起こりうる「破壊的イノベーション」の要因ではありません。現実ではすでに、人間の知性とAIの知性が共創し、予測分析から自動フィードバックまで、幅広い業務を支えています。しかし、リーダーやチームは、AI活用による明確な成果を示さなければならないというプレッシャーの中で、FOBO(fear of becoming obsolete–時代遅れになることへの恐れ)と闘っています。
そんな中、MSC/DDIの調査では、重要なギャップが明らかになりました。初級・中級管理職は、経営層に比べて3倍もAIへの懸念を示しており、変革のスピードを鈍らせる「準備度合による分断」が生じているのです。AI時代において、リーダーが「異なるリーダーシップ」を発揮できるよう支援することは、もはや選択肢ではなく必須条件です。それこそが、人間の判断力と機械の洞察を融合させ、パフォーマンスを加速させる「並列インテリジェンス」を実現する鍵となります。
組織の課題は重大です。人事や人材開発部門は、単なるAIの導入から戦略的なスキル強化へと舵を切り、AIが人間の可能性を高める存在になるようプログラムを設計しなければなりません。これは、能力開発プログラムを再設計し、AIリテラシーを育成することを意味します。ここでいうAIリテラシーとは、プログラミング能力ではなく、AIのアウトプットを検証し、バイアスを是正し、ビジネス目標と整合させる力です。
DDIの「人材開発における責任あるAIの役割」に関する調査が示すように、このリテラシーによって、AIは単なるコストではなく、価値を生み出すリーダーシップの推進力へと変わります。人事戦略の責任者は、人間の判断力とAIの洞察を融合させるスキルをリーダーに提供することで、確実に成功することができます。
個々のリーダーにとって、この変化は意思決定の本質を再定義するものとなります。AIは膨大なデータを瞬時に分析し、パターンを抽出できます。しかし、文脈・倫理・共感を提供できるのは人間のリーダーだけで、AIには代替不可能です。効率化が加速する時代において、優れたリーダーは、意図的にAIを使うべきです。前提を問い直し、AIが推奨するものに潜むバイアスを検証して、洞察を適切な文脈で提示し、公平な結果を守る必要があります。AIを競争相手と見なすリーダーは、やがて時代遅れになるリスクを負います。一方で、AIをパートナーとして活用するリーダーは、人間ならではのリーダーシップの強みを発揮し、機械の精密さと倫理的な明晰さを融合させることができます。リーダーは、今後ますます「公正な意思決定を解釈し、公平性を守る存在」へとシフトするべきなのです。
実践的ポイント
リーダーはAIリテラシーを身につける必要があります。これは単なる技術的知識ではなく、適切な問いを立て、洞察を責任ある形で解釈し、倫理的な意思決定を導く力です。AIリテラシーを高めるには、小さな一歩から始めましょう。例えば、毎週30分をAIツールの試用に充てる、生成AIを使ってシナリオプランニングを行いチームで振り返るなどです。「システムはどんなことを前提に置いたのか?」「私たちはどんな洞察を追加・修正したのか?」このような内省的な実践は、AIリテラシーとリーダーとしての洞察力を高め、テクノロジーが人間に奉仕する未来を確実にします。
トレンド2:階層構造のフラット化とホリゾンタル・リーダーシップの台頭
経済的なプレッシャー、AIによる効率化、そしてアジリティの必要性が、組織の階層構造を急速にフラット化させています。2030年までに、多くの組織は階層を減らし、横の連携や組織を越えた協力関係によってリーダーシップを発揮する傾向が強まるでしょう。この変化により、正式な権限を伴わない「影響力」に重きを置くホリゾンタル・リーダーシップの重要性が増し、マトリクス型プロジェクトや部門横断的な協働が促進されます。
しかし、フラット化には新たな脆弱性も潜んでいます。Meta、Google、Amazonなどの最近の事例が示すように、上級管理職層を減らすと、社内コミュニケーションの断絶、業務の混乱、従業員の燃え尽きといった逆効果を招くリスクがあるのです。
組織はホリゾンタル・リーダーシップに関して二重の課題に直面しています。すなわち、垂直的な昇進に依存しないキャリアパスの再定義と、意思決定の質がより速く波及する構造に伴うスキルギャップの解消です。フラット化した組織では、部門横断プロジェクトが信頼・信用・適応力を試す場になります。
階層削減による影響は以下の通りです。
- キャリアパスの変化:階層が減ることで、成長は昇進ではなく、横方向の異動や幅広い部門横断経験によって実現されます。
- スキルギャップの拡大:組織は、部門間での協働や影響力発揮に関する能力開発を優先する必要があります。具体的には、複雑で相互に関連する業務を理解するシステム思考、直属部下以外へのコーチングやフィードバック、そしてステークホルダー管理を、リーダーシップの主要な役割として強化することが求められます。
- 後継者育成の再定義:リーダーシップ・パイプラインは、単なる昇進ではなく、幅広い経験と部門横断的な協働力を重視する方向へシフトします。
- 組織文化の脆弱化:フラットな組織構造では、質の低いリーダーシップの影響が即座に全体に波及し、組織文化が脆弱になる可能性があります。
フラット化する組織では、リーダーは「肩書きによる権力」から「信頼関係による影響力」へと軸足を移す必要があります。こうした変化に対応するため、複数の新しいアプローチが求められます。
- 権威より影響力:リーダーは、形式的な権力ではなく、信頼・信用・説得力の構築に重きを置かなければなりません。
- より広い責任範囲:フラットな組織では、ハイブリッド型やマトリクス型チームにおいて複雑な責任が増えます。
- 新たなコアスキル:リーダーは、同僚との信頼関係を築き、異なる分野や文化にも対応できる柔軟なコミュニケーションを身につけ、すべてを自分でコントロールできない状況でも適切に意思決定し、広い責任範囲に耐えられるレジリエンスを強化する必要があります。
- 適応力の重要性:成長は肩書きではなく、より広い責任範囲と高い可視性を得ることで実現されます。
実践的ポイント
フラットな組織では、部門横断プロジェクトを成長の機会と捉える必要があります。横方向の異動や協働を、新しいスキルや視点を得るチャンスとして再定義することで、こうした組織構造が求める「適応力の筋肉」を鍛えることができます。さらに、360度診断などのツールを活用して進捗を追跡すれば、柔軟な人材のパイプラインを確保することができます。
トレンド3:不確実性の隠れた代償──静かな崩壊と燃え尽き症候群2.0
市場の変動や経済的不確実性の高まりが、新たな現象「静かな崩壊(quiet cracking)」を生み出しています。これは燃え尽き症候群の進化形であり、従業員が職場に留まりながらも内面的に崩れていく状況を指します。「静かな退職(quiet quitting)」が、意図的に最低限の努力しかしない状態であるのに対し、静かな崩壊は、労働意欲が徐々に失われていき、パフォーマンスの低下が表面化するまで気づかれにくい点が特徴です。
MSC/DDIの「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2025」では、静かな崩壊が広がる可能性を示しています。グローバル全体でリーダーの半数以上が「一日の終わりに気力を使い果たしたと感じることがよくある」と回答しており、燃え尽き症候群のリスクが高いことが分かります。さらに、強いストレスを感じているリーダーの40%が、「自分のウェルビーイングを守るために、リーダーの役割から離れることを考えたことがある」と報告しています。
この悪循環は継続するリスクが高く、燃え尽き症候群を防ぐ鍵となる権限委譲スキルに優れていると回答したリーダーはわずか19%にとどまっています。 過度なストレスはリーダーの視野を狭め、チームの重要な兆候を見落とす原因になります。リーダーは「問題解決者」になろうと急いではいけません。「ファシリテーター」として、チーム全体のオープンな対話や定期的な1on1の面談を通じ、自分自身とチームのウェルビーイングを支える役割を果たすことが重要です。
実践的ポイント
組織は、上司が部下の微妙な兆候(返信の遅れや締切の遅延など)を見抜き、心理的安全性を高めるための対人スキルを活用できるよう支援する必要があります。レジリエンスはコア・コンピテンシーとして扱うべきです。リーダーには、不確実性について率直に語り、問題や課題を認識し、透明性を確保しながら、説明責任と共感を両立させるようなトレーニングが求められます。こうした対話は、タスクの委譲やリソースへのアクセスなどの具体的な行動とセットで行うことで、リーダーが真に耳を傾けて支援していると示すことができ、静かな崩壊を防ぎます。さらに、リーダーがバランスの取れた業務負荷、信頼できる上司、学習リソースにアクセス可能な環境を整えることで、慢性的なストレスを回避し、健全な成長を促進できます。
トレンド4:今の仕事にしがみつくジョブハギング—停滞するリーダーシップ・パイプラインのリスク
不安定な経済状況では、キャリアの安全を求めて「ジョブハギング(Job Hugging)」──今の仕事にしがみつく傾向──が、転職よりも一般的になります。MSC/DDIの「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2025 HRインサイトレポート」によると、離職率は過去数年と比べて大幅に低下しており、多くの人が現職に留まっていることが示されています。これは一時的に人員を安定させるかもしれませんが、ジョブハギングは思わぬ結果を招く可能性があります。
この傾向が組織に与える影響は、警鐘を鳴らすべきものです。
- リーダーシップ・パイプラインの停滞:異動が減ることで、リーダーとしての重要な経験が先送りされ、後継者が育成されないままになります。
- 安定の錯覚:人材の動きが少ないと定着率が高く見えますが、その裏にはエンゲージメント低下、リスク回避、職を失う恐れから役割に固執するリーダーが潜んでいます。意図的な育成がなければ、こうした「残留者」が後継者育成の障害になる可能性があります。
- 流入・流出の停滞:離職や人材の流動がなくなると、新しい人材や視点を取り込むことが難しくなります。チームは内向きになり、多様性やアジリティを失うリスクがあります。
リーダーがジョブハギングに陥ると、さらに影響が広がります。例えば、リーダーが自身の役割に対して意欲を失えば、チームの成長やポテンシャルの発揮を妨げます。また、リーダーが現状に固執する姿勢を見せると、チームメンバーも同じ行動を取るようになり、チーム全体の推進力や成長機会が阻害される可能性が高まります。
実践的ポイント
人事部門もリーダーも、成長を、「リスクを取ること」ではなく「安心を得ること」として捉え直し、育成を未来に備えるスキルの構築として位置づける必要があります。人材の供給体制は過去と比べて改善の兆しがあるものの、エンゲージメント低下のリスクは依然として存在します。将来成功するための適切な対人スキルをリーダーに身につけさせ、健全な職場環境を育むことは、組織が次のステージに備えるだけでなく、チームが仕事に前向きに取り組むための力を高めることにもつながります。
トレンド5:人間性こそリーダーシップの優位性
リーダーが不確実性に直面し、安定を求める中では、業務負荷を軽減するためにAIに頼るケースが増えていきます。AIは分析の自動化、フィードバックの生成、さらにはパフォーマンス面談のガイドまで可能です。こうした状況では、進捗確認や感謝の言葉、コーチングといった「感情や関係性に関わる領域」をAIに任せたくなる気持ちが強まります。しかし、AIには人間同士のつながりを代替することはできません。共感、誠実さ、そして存在感こそが、今後も人間ならではのリーダーシップの強みであり続けます。
AIを活用する際の組織にとってのリスクは、単に「つながりを失うこと」ではありません。それは、リーダーが人間にしかできない役割を過剰にテクノロジーに委ねてしまうことです。役割を過度に自動化すると、リーダーシップは機械的で非本質的だと感じられ、信頼が損なわれます。従業員は離職しないかもしれませんが、リーダーがロボット的で形式的で不自然だと感じれば、リーダー職を目指そうとはしなくなるでしょう。
リーダーがストレスや燃え尽きに陥るほど、AIツールという「簡単な解決策」に頼りたくなる気持ちは強まります。しかし、チームを真に支えるのは、信頼・共感・誠実な存在感という、人間ならではの優位性です。リーダーは、AIがもたらす効率性と、人間にしか生み出せないつながりとのバランスを取る必要があります。 MSC/DDIの「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2025HRインサイトレポート」では、AIの可能性を最大限に引き出すための5つのスキルを特定しています。それは、つながり(Connection)、良識(Conscience)、創造性(Creativity)、明快さ(Clarity)、好奇心(Curiosity)です。この「5C」が揃うことで、テクノロジーは人間のリーダーシップの代替ではなく、強化する役割を果たします。
実践的ポイント
未来に備えたリーダーは、自分の価値を「自動化できるもの」ではなく、人間的な影響力によって定義します。5つのスキル──つながり、良識、創造性、明快さ、好奇心──は、リーダーが新しいアイデアに対してオープンである姿勢を示し、健全な学習環境を育み、人々が「この人についていきたい」と思える信頼を維持するのに役立ちます。

おすすめの情報・ソリューション
▼【レポート】人事がより優れたリーダーシップ戦略を構築するためのヒント
HRインサイトレポート2025
▼日本の現状と直面する課題に特化したレポート
グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2025 日本特集
■執筆者:DDI社行動研究分析センター(CABER) ディレクター ステファニー・ニール
シニアリサーチマネジャー ロージー・ライン
■原文はこちら