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効果的な行動面接の質問を理解する

なぜ最適な採用決定を行うために行動面接が重要なのか

行動面接の質問は効果的でないという意見があります。行動面接は、採用の可否を決定するための情報を収集するのに最も有効、かつ根拠に基づいた方法であり、重要な要素であるにもかかわらず、それを使うことを好まない人もいます。私は何百人ものリーダーに行動面接スキルのトレーニングを提供してきましたが、その際「これではプロセスが多すぎる」「私は人を見抜く力があるので、このようなものは必要ない」「まるで台本のようだ」といった否定的な意見をたびたび耳にしました。

「行動面接は人と人とのつながりが希薄になる」と投稿しているLinkedInのオピニオンリーダーもいます。候補者は判で押したような回答しかしないのだから、それに何の意味があるのかというのです。競争の激しい労働市場では、スピードを優先して構造化面接のプロセスを排除したくなるのかもしれません。

では、なぜ行動面接の質問を使うべきなのでしょうか?行動面接の質問とは何か、なぜそれが有効なのか、そして、なぜ行動面接の質問をせずに採用の可否を決めるべきではないのかについて、ご説明します。

 

 

行動面接の質問とは

行動面接の質問は、構造化面接において、過去の職務上の具体的な行動例を候補者から引き出すために使用されています。これは、過去の行動から将来の行動を予測できるという前提に基づいています。

行動面接を「STARインタビュー」と呼ぶことがあります。行動面接の目的は完全なSTAR(Situation/Task:状況/任務、Action:言動、Result:結果)を収集することですが、それ以外にも多くのことがあります。

私たちは行動面接を、シンプルにSTAR情報を得るための質問と捉え、短時間でその行動の価値と影響を引き出します。 (このコラムでは行動面接の質問に焦点を当てていますが、行動面接のプロセス全体についてはこちらをご覧ください)

 また、行動面接の質問と状況設定型面接の質問を混同している人もいます。どちらも特定の場面や状況に対するアプローチに焦点を当てていますが、両者には決定的な違いがあります。行動面接は、候補者が実際に行ったことに着目します。一方、状況設定型面接では、ある特定の場合に候補者は何をするか、という仮定の質問をします。

仮定のシナリオについての質問は、多くの場合において、行動面接よりも効果的ではありません。このような質問では聞こえの良い答えが返ってきますが、その回答は候補者の実際のスタイルやアプローチを反映していない可能性があります。候補者が何をすべきか知っているかどうかを確認することが目的であれば、このような質問で問題ありませんが、パフォーマンスを予測することはできません。

さらに、仮説に基づく質問のデメリットは、結果を判断する方法がなく、候補者の回答の分析が主観的になることです。一方、行動に基づく質問では、その行動がどの程度効果的であったかは、達成された結果や成果によって判断することができます。

 

 

人はなぜ人を見る目がないのか

私たちの多くは、人を見抜く能力に長けていると思っています。自分の直感を信じ、相手のことを素早く判断しています。しかし、実際は人を見る目はあまりないのです。

STAR.jpg2019年のマルコム・グラッドウェル氏の著書『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ~「よく知らない人」について私たちが知っておくべきこと~』(原著 Talking to Strangers: What We Should Know about the People We Don’t Know)では、見知らぬ人を理解するためのアプローチに関する問題点について言及しています。

そのうちの2つを要約すると、次の通りです。

 

  1. 人は初期状態では他人を信用してしまうという性質を持っています。つまり私たちは、相手が真実を語るであろうことを期待しています。そして、圧倒的な証拠を前にして初めて、疑い始めます。
  2. 人は透明性を重視しています。透明性とは、「目は心の窓」と言われるように、外に現れた表情や振る舞いはその人の心の内を忠実に反映するものであるという考えです。

私たちは信用が根底にあるため、候補者が話す内容の正確さを評価するのには当然ながら苦労します。面接であからさまな嘘をつく候補者はほとんどいないと思いますが、真実を誇張したり、不利な情報を割愛したり、自分を有利に見せるために創作したりすることがあるのは理解できます。

また、透明性を期待するあまり、自身には相手の心を読んでその場しのぎの反応を的確に解釈する能力があると過信しています。

外交的で社交的な人は、自社に最適な人物に見えることもあるでしょう。少し内気で神経質な人は、チームプレイには向いていないと思うかもしれません。しかし、面接のような重要な場面で、候補者が真の姿を表しているかどうかを確かめる方法はあるでしょうか?

 

 

行動に基づく質問をするメリット

ここで役立つのが行動面接の質問です。候補者の過去の行動に関して掘り下げた質問をし、候補者自身のストーリーを語ってもらうのです。ストーリーテリングは人間のコミュニケーションにおいて、最も本質的な形式の一つです。候補者の話を傾聴することで、さまざまな状況における候補者の振る舞いを把握することができ、彼らのスキルや、組織・職務への適合性について、より良い結論を導き出すことができます。

行動に基づく質問を巧みに行うと、候補者は面接プロセスに好感を抱きます。その理由は、仕事に関連した自分の経験を語る機会があり、そのプロセスが系統立っていて公平に感じられるからです。 

候補者は、当を得ていないと感じる面接に苛立ちます。「5年後の自分の姿についてお話ください」「あなた自身について教えてください」というような漠然とした質問をされても、面接官が何を求めているのかがわかりません。そして何よりも、採用面接のプロセスは候補者が入社することになる組織を強く印象付けることになります。

行動面接の質問を活用することで、貴社(そしてあなた)が、思慮深く慎重なアプローチをとり、候補者との時間を大切にしていると示すことができるのです。

 

 

行動面接の共通の質問

行動面接の質問では、よく「~をした時のことについて教えてください」「あなたが~のような状況だった時のことを考えてください」といったフレーズで始めます。ここでは、候補者がどの程度変化に適応できるかを見極めるための行動質問の例をご紹介します。

 

  • 最初は変化に抵抗していた人々に、どのようなステップを踏んで変化を受け入れてもらったのかを教えてください。
  • 特定の変更が必要な理由を従業員に納得してもらった時のことをお聞かせください。
  • チームに大きな変化を実行させるために費やした時間と、その戦略についてお聞かせください。

 

行動面接の質問は、候補者が仕事で経験することに近い例を面接の中で収集することを念頭に置き、可能な限り対象職務に特化させる必要があります。

また、関連性の高い質問を用意することで、社内関係者の賛同を得やすくなります。行動面接の実施に抵抗を示す採用担当者は、質問内容が一般的すぎると考えている可能性があります。質問がその職務の課題に合致していなければ、採用担当者がこのアプローチに従う確率は低くなります。

従って、候補者が営業職の場合、「難しい業務を克服した時のことを教えてください」という質問よりも、「これまでの営業活動の中で、最も困難だった状況について教えてください。どんな障害を克服しましたか?」という質問の方が、はるかに良いでしょう。

 

 

行動面接を行うためのヒント

適切な行動面接の質問を準備することは、プロセスのほんの一部に過ぎません。この方法はプロセス全体を適切に構成した時に、そのメリットを最大限に享受することができます。そのためには、以下の点が備わっていることを確認してください。

 

  • 行動面接のトレーニングを受けた面接官が実施する。 これにはアートとサイエンスがあります。用意された質問をすることは誰にでもできますが、熟練した面接官は、より困難で微妙な面接プロセスを巧みに進めます。
  • 複数の面接官が行動面接を行う。 そうすることで、候補者の全体像を捉えることができます。しかしその数が多ければ良いというわけではありません。一般的に3〜4回の面接で十分なデータを得ることができます。
  • 面接プロセスの公正さと、法律に抵触しない質問を考える。 各候補者に同じ質問をし、仕事に関係のない質問や、偏見(バイアス)を生じさせるような質問を避けるための体制を整えます。

 

 

行動面接で候補者の回答を評価する方法

では、候補者の回答をどのように評価すればよいのでしょうか。まず、各回答が行動に基づいていること(例.過去の行動についての話であったか)と、完全なSTARであることを確認します。

面接中は、不完全な回答を受け入れてしまうという罠に陥りがちになります。候補者が効果的な行動らしきことを述べた場合、私たちはチェックボックスにチェックを入れ、次の質問に移ります。しかし候補者は成果を共有したでしょうか?さらに掘り下げて質問をしてみると、その行動は言葉ほど効果的ではなかったかもしれません。あるいは、想定以上に効果的な行動だったかもしれません。

行動面接の真のスキルは、用意された質問をすることではなく、鋭いフォローアップ質問をすることです。STARのすべての要素を収集しなければ、重要な情報を見逃すことになります。

候補者の話が脱線し、具体的な例ではなく一般的な話をしてしまうことはよくあります。次のようなフレーズを聞き分けるように訓練してください。

 

  • 私は~だと思います
  • 私は~ではないかと考えます
  • 私は一般的に~

 

これらはすべて、候補者の話が過去の具体的な行動ではないことを示す手がかりとなります。候補者は一般論や信念、意見を述べようとしているのです。ここで適切なフォローアップ質問を使えば、行動例を引き出すことができます。

 

 

優れたフォローアップ質問をするためのヒントと面接データの評価

候補者が「私はチームメンバーに影響を与える決定に対して、彼ら自身も発言権を持つべきだと思っています」と言った場合、私は「それは素晴らしいですね!私もそう思います。ではあなたが複数のチームメンバーから意見を集めて、彼らに影響を与える決定をした時のことを教えてください」と質問します。

もう一つのコツは、「私たち」という言葉を額面通りに受け取らないことです。もし候補者が「私たち」がしたことについて語った場合、自分の役割は何だったのかを聞いてみましょう。

最後に、候補者の回答を評価する際に最も見過ごされるのが、すべての面接官のデータを統合することです。これは、「彼女は素晴らしい!」とか「彼は合わないと思う」という内容のメールを送る以上の意味があります。面接官が集まり、各自が収集した最も関連性の高い事例を共有するのです。そうすることで、採用担当者は最善の判断を下すためのデータを得ることができます。

 

 

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執筆者:DDI リーダーシップ・アドバイザー マーク・スメルディ

 

 

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