権限委譲で陥りやすい失敗を回避する:初めて管理職になる人のための注意点
~権限委譲の失敗例と、よりよい委任者になるための方法をご紹介~
チームの能力を最大限に引き出すことが最優先課題となるリーダーにとって、権限委譲は最も重要なリーダーシップ・スキルの1つと言えます。
私は20年近く新任リーダーにコーチングを提供していますが、彼らが繰り返し直面する最大の課題は、重点領域を「自身の仕事」から、チームメンバーの努力や活力、エンゲージメント、生産性へと変えることでした。
実際、従業員の退職理由の1つは、能力開発の機会を見出せないことだと言われています。成長の機会が得られない理由としては、上司の権限委譲の仕方が不適切であったり、十分に委任されなかったりすることが挙げられます。
数年前、キースというリーダーと仕事をしましたが、彼は私がこれまで会った中で最も権限委譲に長けた人でした。彼は年一度の計画停電の作業を行う際に何百人もの請負業者を一括して管理する部門のマネジャーたちを率いていました。キースにとって業務を委任することは必要不可欠でしたが、個人的にそのすべてに関わるには、膨大な時間と労力が必要でした。
彼は自身の仕事の負荷を管理する際に、次の2つを自問していました。
- もし他の人がこの重要な業務を遂行できる、あるいは遂行すべきであるとしたら、その人がうまくできるようにするために、私はどのような障壁を取り除く必要があるだろうか?
- 私が権限委譲を躊躇するのは、感情的な思いなのだろうか、それともビジネス上の賢明な判断なのだろうか?
キースはこれらの質問に対して適切な答えをもつ冷静なリーダーでした。彼の権限委譲はエゴがなく信頼に基づいており、自身やメンバーの手に負えなくなるようなことはほとんどありませんでした。
権限委譲を阻むものは何か?
ではなぜ、すべてのリーダーがキースのように効果的に権限委譲を行うことができないのでしょうか?その答えには、単純なことと複雑なことがあります。新任リーダーの多くは、自身の職務に対する期待値を明確に定めていません。また、どのような仕事を委任すべきなのかも把握していません。
どんなに優れた人でも、明確な目標や期待値がなければ、費やした時間と労力に見合う成果がすぐに出せる方法をとります。つまり、他の人に仕事を任せるのではなく、自分で完結してしまう人が多いのです。新任リーダーが、メンバーに責任を委ねる機会を自然に見つけることは難しいかもしれません。
経験豊富なリーダーは、自分に何が求められているかをよく理解しているため、成果を管理することを優先して自分で仕事をこなし、委任したがらない場合があります。または、チームメンバーがその仕事に必要なスキルや知識をもっていないのではないかと、疑問視している可能性もあります。
自分の技術的なスキルが衰え、不適切なリーダーとして烙印を押されることを恐れる人もいます。このような懸念は不可解に思えるかもしれませんが、リーダーシップの重要性を軽視しているリーダーにはリスクとなり得るのです。
権限を効果的に委譲すれば、チームを成功に導けるだけでなく、有意義で価値の高いリーダー業務に専念できるようになります。
ここでは、新任リーダーが陥りがちな4つの失敗例と、リーダーとして成功するためにできることをご紹介します。
権限委譲の誤り1:委譲した業務を細かく管理する
新任リーダーが最も陥りがちな失敗として、委譲した業務に必要以上に関与し続けることが挙げられます。多くの場合、リーダー職に昇進するのは高い成果を上げた人です。新任リーダーは、一度任せた仕事に関与しすぎないようにしないとマイクロマネジメントをしてしまうおそれがあり、自身もチームメンバーも苛立たせることになりかねません。
優れたリーダーは、メンバーが必要とするサポートと管理の割合をうまく調整し、バランスを取っています。仕事を委任したら、進め方や課題などをメンバーから共有してもらいましょう。どのように始めるのか、新しい仕事に対してどのように感じているのか、フォローアップと進捗確認のミーティングをいつ行うのか。
もし、これらの質問に対する答えに問題がある場合は、リーダーが関与する必要があるでしょう。メンバーが納得し、適切なアプローチを取っているのであれば、自律的に仕事をさせることが有効です。
進め方を細かく説明するのではなく、結果に対する責任を委ねることに注力してください。このようにアプローチすれば、メンバーの賛同を得ることができ、能力向上にもつながります。
権限委譲の誤り2: チームメンバーへの仕事の丸投げ
数年前、私はリチャードと一緒に仕事をしていました。彼は経験豊富なオペレーション・マネジャーでしたが、メンバーに仕事を丸投げするというひどいやり方をしていました。身長185cmの巨体で、無骨なリーダーシップをとる彼を、親しみやすいとは思えませんでした。
リチャードは週1回のチームミーティングで業務リストを提示し、部屋中を見回してその業務を引き受けてくれる人を探しました。そして、メンバーから申し出があると、「じゃ、マーケティングに相談して、進めて!」あるいは、「メールを転送しておくよ。そこに全部書いてあるから、読めばわかるよ」などと言っていました。
彼には、効果的に権限を委譲するためのすべての要素が欠けていました。
委任した業務に対する明確な期待値もなく、アカウンタビリティを設定するためのタイムラインもなく、うまくいったかどうかを確認するためのフォローアップやコーチングもありませんでした。彼は自分のことを「干渉しない」リーダーであると言っていました。このやり方は、スキルの高い経験豊富なメンバーが揃っているチームには有効かもしれませんが、それ以外の場合では、メンバーはより多くのアドバイスや指示を受ける必要があります。
新たな責務を担ったり、初めての仕事を引き受けたりするときには、不安になることもあります。リーダーは仕事を委任する際に、この点に配慮する必要があります。最善の方法は、メンバーが期待に応え、そして期待を上回る成果を達成するために何をすべきかを、リーダーが各メンバーに明確に説明することです。
チームメンバーが知っておくべきことは何か、それをどのように見つけるのか、そして誰が支援してくれるのかを、彼らが確実に把握できる状態にしてください。メンバーが成功のために必要なあらゆる情報を得られるようにしてください。その中には新しい知識もあるかもしれません。リーダーはすべてが理にかなっているかどうかを確認し、あらゆる疑問に答える必要があるのです。
権限委譲の誤り3: 不適切な業務を委任する
気が進まないことを避けたいと思うのは当然のことですが、自分がやりたくない仕事を他の人に委任する理由にはなりません。業績評価や懲戒処分に関する話し合い、機密情報に関わる仕事などは、リーダーが対処すべき業務です。決してメンバーに委ねてはなりません。戦略的な業務や高いスキルが必要な任務のように、メンバーに委譲すべきかの判断が難しい場合には、上司に相談してください。
リーダーとしての主要な任務を除けば、ほとんどの仕事は委任することができます。権限委譲をしすぎるよりも、しなさすぎる方が問題になることが多いのです。
定期的に繰り返されるような定型業務は、委任するのに最適です。このような業務では、成功指標を事前に設定し、日々確認することができます。
権限委譲の誤り4: 非常に有能なスター社員への過度な依存
リーダーとして重要なのは、「なぜこの仕事や責任を任せるのか」を自問することです。その答えは、「面倒な仕事はしたくないから」であってはなりません。
権限委譲は、リーダーとメンバーの双方にとって有益なものでなければなりません。適任者は、早急に仕事を終えることができる人の場合もありますし、新しい経験や専門的な能力開発から成長の機会を得ることができる人の場合もあります。
モチベーションも能力も高い有能なスター社員に任せるのが一番無難かもしれません。しかし、長期間にわたってスター社員に依存していると、その人だけに負荷がかかりすぎたり、他のメンバーが新しい仕事や能力開発を目的とした任務を担う準備ができなくなったりします。緊急かつ失敗したときの影響が大きい業務は、有能なスター社員に委任することを検討してください。ただし、スター社員に頼りすぎないように気をつけましょう。
経験の浅いリーダーは、チームメンバーがスキルアップできるようにコーチングの時間を確保するよりも、自身の仕事を優先しがちになります。しかし、成功に導くための事前のコーチングと定期的なフォローアップによってメンバーは自信をつけることができ、また、リーダーも業務が順調に進んでいると確信できるようになります。
経験豊富で能力が高いメンバーには、仕事に対するモチベーションを維持するための取り組みが必要な場合があります。このような場合、有能なスター社員に新しい仕事や責任を任せることで、彼らのモチベーションを高めることができます。
仕事を委任する際の質問
優れたリーダーが、必ずしもすべての答えをもっているというわけではありません。しかし、適切な質問をすることはできます。あなたのチームを頭に浮かべて、次の質問への回答を考えてみてください。
- チームメンバーは何に関心があるのか?
- チームメンバーは新たな任務を担う能力があるか?
- チームメンバーがより関心の高い仕事や、やりがいのある仕事をするために、その人でなくてもできることを他の人に委任したり、業務を軽減させたりする支援ができるか?
- チームメンバーのキャリアゴールは何か、そして委任した任務はその目標の達成に役立つか?
最近、私はある企業でコンサルティングを行いました。その企業では、毎年の人事考課の際に、従業員が自分の仕事の中でやめたいことを1つ、新たに担当したいことを1つ挙げるようしていました。この公平な取り組みにより、従業員のフィードバックを収集し、各自のニーズに合った仕事を再配分できるようになりました。
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■執筆者:DDI社シニアコンサルタント マシュー・ペイジ・ハニファイ
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