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リーダーシップ・パイプラインを最適化するための5つのベストプラクティス

人材供給体制はパンデミック以降、回復していない

 

 

リーダー人材の供給体制についてお客様に尋ねると、「次の役割を担う人材がいない」ということを最近よくお聞きします。

ここ数年にわたるパンデミックとそれに続く大退職の混乱を経て、多くの組織が打ちのめされたような状況にあることを目の当たりにしました。これまで以上に多くのリーダーが定年退職を迎えたり、魅力的な新しい機会を求めて転職したりする中で、誰が次の役割を担っていくのかについて、非常に不安を感じています。そして私たちのデータからも、人々がどれほど不安を感じているかが見て取れます。

MSC/DDIのグローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023調査によると、重要な役割を担うリーダーが不足しており、パンデミック以降、人材の供給体制は回復していないことが示されています。本調査で、自社は人材の供給体制に優れていると回答した組織はわずか12%でした。この数値を2011年と比較してみると、33%減少しています。このことから、組織は重要なリーダー職を充足する準備に、非常に苦心していることが明白です。

 

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重要なのは、優れたリーダーシップ・パイプラインの構築は、容易ではないということです。適切なリーダーを選び、将来の役割に向けて意図的に成長を加速させるには、多くの規律や仕組みが必要です。

しかし、優れたリーダーシップ・パイプラインを有する組織こそが、この不確実な経済状況の中で大きな利益を得ることができるでしょう。

本コラムでは、実際にお客様が直面している課題を取り上げ、成功している組織と苦心している組織の明暗を分ける重要な取り組みについて紹介します。

 

 

 

リーダーシップ・パイプライン戦略の何が変わるのか?

リーダーシップ・パイプラインの構築には、不朽の部分があります。言い換えれば、時を経ても変わらない、実証された戦略があるということです。

しかし、何が変化しているのかについても意識しなければなりません。ここ数年、組織は、状況をうまく乗り越えることだけを考えてきました。例えば、多くの人事担当者は、絶え間ない激変の中で大量の離職者を食い止めることや、バーチャルな職場への適応、ハイブリッド勤務を行うための(不本意ながら)出社日の設定など、従業員のサポートに重点を置いていました。

多大なプレッシャーの下で、リーダーシップの根本となる後継者育成の取り組みの多くが後退しはじめました。タレント・レビューの回数を減らしたり、実施しなかったり、アセスメントや能力開発を行わなかった組織もありました。

今、後継者計画の重要性はより増しています。MSC/DDIの最新調査によると、人事担当者の33%が、自社の人材を育成する必要性が大幅に高まったと回答しています。

景気の浮き沈みを乗り越えてきた経験豊富なリーダーは、自身の後任者がいないまま定年の準備を始めています。その一方で、若手のハイポテンシャル・リーダーは、自社で適切なキャリアパスを見出せなければ、転職する意向であることが明らかになっています。このことは、重要な役割を担うリーダーの準備が整っていない組織にとって、最悪の事態が予測されると言えます。

しかし、リーダーシップ・パイプラインを構築するための効果的な方法はあります。ここでは、自社の人材供給体制を強化するための5つのベストプラクティスを紹介します。

 

 

 

1. 後継者計画は下の階層から始める

leadership-pipeline_01_bottom.pngリーダーシップ・パイプラインを非常に狭く捉え、経営トップの後継者計画としか考えていない組織があまりにも多くあります。しかし、それは近視眼的な考えであり、あらゆるビジネスが直面している急速な成長と変化を考慮していません。

リーダーシップ・パイプラインの取り組みは、初級・中級管理職、さらにはその候補者にまで拡大する必要があります。その理由は、この階層は自社の人材の多くを占めているうえに、動きが速いからです。ここでハイポテンシャル人材を見極めなければ、早期に彼らを失うことになります。

この最初のステップを誤ると、優れた経営幹部や上級管理職を備えることは決してできません。また、育成戦略はパイプライン全体に広げる方がはるかに効果的であることも考慮しなければなりません。

パイプライン全体で質の高い能力開発を行っている組織は、大きなメリットを得ています。私たちの調査によると、全階層のリーダーに効果的な能力開発を行っている組織は、そうでない同業他社に比べて、業績上位の組織になる確率が著しく高くなっています。

 

 

2. データは必須条件でなければならない

leadership-pipeline_02_data.png多くの組織は、いまだに9ボックス法だけを活用して、ハイポテンシャル人材の特定を行っています。この方法は拡張性がある反面、バイアスがかかる可能性が高くなります。

上司は、自分が部下に何を求めているのか、本当に理解しているのでしょうか?この時点で、人材に関する意思決定プロセスの一部としてデータをもっていないのは、ありえないことです。

組織は、人材に関する質の高い決定を行うために必要なデータを、どのように入手すればよいでしょうか。リーダーシップ・アセスメントは、リーダー候補者が自身の強みや能力開発領域のデータを得るのに最適な方法です。

このような強みや現状とのギャップに関するデータがあれば、組織は的を絞って個別の能力開発計画を立てることができます。また、リーダーシップ・パイプラインにおける強みと弱みの両方を特定するために、組織全体の人材に関するデータを得ることもできます。

 

 

3. ポテンシャルの定義を再考する

leadership-pipeline_03_potential.png多くの組織が、ハイポテンシャルとは何かを再考しています。既存のリーダーシップ・パイプラインを見て、「パイプラインにいる人材は本当に我が社の最適な人材なのだろうか?」と疑問を抱いているかもしれません。

パフォーマンスとポテンシャルを混同し、間違った認識をしている組織があります。多くのリーダーは、リーダーとしてのポテンシャルではなく、パフォーマンスによって昇進していることがあるのです。

例えば、根拠となるデータがなければ、上司が単にリーダー候補者を推薦することで昇進が決まる場合がよくあります。それは「彼女のチームの扱い方を見れば、優れたリーダーになるであろうことがわかる」といったようなことです。しかし、現在の職務で結果を出したからといって、その人が次の階層のリーダーに求められる能力を備えているとは限りません。

ポテンシャルをどのように定義するかについて、これまでとは異なる、より広範な考え方をする必要があります。また、その定義を能力開発の取り組み全体で促進しなければなりません。

 

 

4.リーダーシップ・パイプライン全体にわたり多様性を計画する

leadership-pipeline_04_diversity.pngダイバーシティへの取り組みは、今では当たり前のようになっていますが、多くの組織では、自社のダイバーシティの達成状況を過大評価しているか、状況から目をそらしています。

しかし、多様な人材のパイプラインをもつことには強力な根拠があります。ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンレポート2023において、業績上位10%に入る組織では、女性やマイノリティの背景をもつリーダーが著しく多いことが判明しています。

この数値だけではありません。リーダーシップ・パイプラインを支えるハイポテンシャル人材プールの多様性にも違いが見られました。多様な背景をもつハイポテンシャル人材のプールを有する組織は、人材の供給体制も優れていることが明らかになったのです。

人材供給体制に優れている組織では、ハイポテンシャル人材プールに占める女性の割合は28%であったのに対し、人材供給体制に劣っている組織では、18%にとどまっています。さらに、人材供給体制に優れている組織では、人種・文化的マイノリティの従業員がハイポテンシャル・プールの26%を占めたのに対し、人材供給体制に苦心している組織ではわずか10%でした。

 

 

5.リーダーの行動に最大の焦点を当てる

leadership-pipeline_05_focus.png候補者の素質や成果だけを見て昇進させないよう注意してください。リーダーとして成功するために必要な行動を見落としてはなりません。

私はお客様から、若手世代にはリーダー職への昇進を望む非常に意欲的な人が多いと伺っています。しかし、こうした若手リーダーの多くは、単に出世することと、人を率いることに対する真のモチベーションとの違いや、そのために必要なスキルの開発について考えていません。

必要とされるリーダーシップ・スキルは多岐にわたりますが、まず、次の3つの重要なスキルに焦点を当てましょう。

 

  1. 対人関係スキル:ハイポテンシャル人材を定着させるには、日々の対人関係スキルがカギとなります。実際、上司の対人関係スキルが低いと回答したハイポテンシャル・リーダーの32%が、1年以内に退職するつもりであると回答しています。
  2. コーチング:ハイポテンシャル・リーダーの85%が、自分の成長を促すために、社内外でコーチングをより受けたいと言及しています。しかし、コーチングは質が重要です。自身の上司は優れたコーチであると回答したリーダーは、自分には明確なキャリア開発の道筋があり、優れたリーダーになる責任があると感じている確率が非常に高くなっています。また、昇進するために転職する必要があると回答する確率も1.5倍低くなっています。
  3. 信頼の構築:リーダーは社内で信頼を築く方法を学ぶ必要があります。自社の経営幹部を信頼していると回答したリーダーは3分の1以下でした。さらに、信頼の欠如は、女性やマイノリティのリーダーが退職する主な理由にもなっています。

 

これらのスキルは基本的なものに思えるかもしれませんが、優れたリーダーであるためには日々の実践が必要です。そして、これらのことが一貫してリーダーシップ文化の一部になっていなければ、優秀な人材は退職してしまうことになります。リーダーがこれらのスキルを備えていないと、リーダーシップ・パイプライン全体が脆弱化するリスクがあるのです。

 

 

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リーダーシップ・パイプラインの構築の詳細は、リーダーシップ開発の究極ガイドをご参照ください。

 

 

執筆者:DDI社 リーダーシップ戦略シニアアドバイザー ダイアナ・パウェル氏

 

 

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