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上級管理職の育成:成功のために不可欠な4つのスキル

上級管理職の育成が重要な理由とは

組織内において、上級管理職は経営層と従業員との架け橋となる重要な役割を担っています。また、組織横断的に見ても、社内の戦略的な階層間や部門間のさまざまなチームをつなぐ役割を果たしています。 その重要な役割である上級管理職が最大の力を発揮するには、定期的な能力開発が必要です。上級管理職は、戦略的な役割を担う経営幹部とその戦略を実行する初級・中級管理職との橋渡しをしています。そのような重要なポジションへの教育投資が十分でないと、企業戦略の実行のスピードを遅らせてしまう可能性があります。

上級管理職」とは、初級・中級管理職と経営幹部の間に位置する、広範な職種群を指します。彼らは多数のグループを率い、複雑で多様な能力開発ニーズを有しています。また、その役割に昇進する際には特有のリーダーシップ課題に直面します。多くの組織では、リーダーシップ開発の予算を新任管理職や経営幹部に配分し、上級管理職については「その役割に慣れる」か「自己解決」に任せる傾向があります。しかし、上級管理職への転換は他の管理職への移行と同じくらい難しいものです。リーダーの3分の1以上が、新たな職位への移行を、大きな困難を伴うものである、または非常にストレスフルだと述べています。少なくとも5%のリーダーが退職を考えたことがあることが明らかになっています。

MSC/DDIの『グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2021』によると、上級管理職の質を「非常に高い」または「最高」と評価した人事担当者は、26%にすぎませんでした。また、上級管理職向け能力開発プログラムの質を「高い」または「非常に高い」と評価した人事担当者も、わずか27%でした。上級管理職が組織内の将来の人材を育てる役割を担っていることと、次期経営幹部候補であることを考えると、これは重大な問題と言えます。 マッキンゼー社は2021年のポッドキャストで、上級管理職が人材の獲得、育成、定着に果たす重要な役割について言及しました。そして2022年に私たちが理解したのは、「静かな退職」が従業員エンゲージメントの低さを示す最新の指標であり、人材喪失の始まりになり得るということです。上級管理職は、企業の目的とチームの価値を伝え、能力開発の機会を提供し、尊重し合う文化を築くうえで不可欠な存在なのです。

上級管理職はチームリーダーを育てるという責任に加えて、将来の経営幹部候補の象徴でもあります。MSC/DDIの『リーダーシップ・トランジション・レポート2021』によれば、社内から昇進した経営幹部の成功率は、社外から採用された経営幹部よりも25%高くなっています。上級管理職の育成のためにリソースを提供している組織では、経営幹部の役割を担う準備ができたリーダーが育成されています。さらにこの投資は、彼らが現在の職務に従事し、効果的に働き続けるために望んでいる能力開発を提供しています。

上級管理職が昇進するために必要なリーダーシップ・スキルとは

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「今までのやり方では、これから先はうまくいかない」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。多くの場合、上級管理職へと昇格した人々は、一般社員としても初級・中級管理職としても成功してきた人です。だからこそ彼らは昇進したのです!しかし、上級管理職への移行は困難を伴うこともあります。

初級・中級管理職に求められるリーダーシップとは異なり、上級管理職には多面的な視点が要求されます。リーダーは全方位に視野を広げ、多数のステークホルダーやさまざまなチームからの期待に対応しなければなりません。意思決定や利益管理の複雑さといった現実的な課題や、経験豊富な新しい同僚との信頼関係の欠如、ストレスの増大への対処など、個々の課題にも対処しなければなりません。リーダーが上級管理職へと移行する際、彼らが直面する主なプレッシャーは4つあります。これらのプレッシャーにうまく対処できるかどうかが、出世の成否を大いに左右します。

1.ビジネスをリードする
上級管理職は、企業の戦略を実行する責任があります。これには高度な意思決定が求められ、リスクを伴います。初級・中級管理職における戦術的視点から脱却し、戦略的リーダーシップに対する幅広い視野をもつことが重要です。長期的な視野をもつ思考へシフトできなければ、彼らは運用業務に重きを置く初級・中級管理職としての行動に戻ってしまう可能性があり、意図せずに長期的な組織目標が目に入らなくなるかもしれません。

2.チームをリードする
上級管理職は組織文化の伝道師とも言えます。リモートワークやハイブリッドワークが主流となる中、上級管理職は従業員が定期的に接する唯一の企業を代表する上位職かもしれません。従来のオフィス勤務の文化が存在しない場合、リーダー自身が文化を形成することになります。また、彼らはグローバルで多様性のあるチームをリードすることもあります。チーム全体に対して明確で説得力のあるビジョンを伝え、目的を示し、組織の戦略的優先事項を明確にするためには、高度なコミュニケーション・スキルと対人関係スキルが必要となります。

3.組織ネットワークをリードする
関係者のネットワークが広がると、影響力やステークホルダー管理のスキルが不可欠となります。上級管理職として成功するには、初級・中級管理職としてチームと共に仕事を進めるときよりも、組織の境界を越えて影響を与え、自身のレポートライン(指揮命令系統)以外の同僚と協働することが求められます。進歩を遂げるために、上級管理職は異なるグループ間で相反する優先事項、社内政治、限られたリソースをうまく調整しなければなりません。彼らは戦略の実行に関して重要なステークホルダーが連携し、意見が一致しているかどうかを確認する責任があります。

4.自分自身をリードする
リーダーは昇進するにつれて、より目立つ存在へと変わります。上級管理職になると、より大規模で戦略的な取り組みを管理し、より大きな結果を伴う決定を行い、ネットワーク全体や組織全体に影響を及ぼすようになります。その結果、成功も失敗もチームや同僚、経営幹部の目に触れる機会が増えます。これは、リーダーシップのスタイルや傾向、行動もまた、より目立つものになることを意味します。リスクが大きいため失敗の影響も大きく、不確実性が増しています。これに対応するため、上級管理職は成功を妨げたり信頼を損なったりする可能性のある性格特性についての自己認識を深め、それらを効果的にコントロールする方法を学ぶ必要があります。上級管理職は他のチームやリーダーと協力して目標を達成するため、対人スキルも重要となります。

上級管理職の学習意欲を促す戦略

上級管理職が自身の能力開発に積極的に取り組むようにするために、まず彼らには特有の学習ニーズがあることを認識させる必要があります。

.より深いビジネス戦略とリーダーシップ開発体験
上級管理職は、理論だけではなくビジネス戦略への深い洞察を求めています。そして、経験豊富な経営幹部からの具体的なアドバイスを必要としています。

2.心理的安全性が重要
心理的安全性はあらゆる階層のリーダーにとって重要ですが、リーダーの階層が上位になるほど、自己開示のリスクが高まります。彼らは、自分が弱いと思われたり、その役割にふさわしくないと思われたりすることを恐れ、自身の困難を認めたがらないかもしれません。この階層では、心理的安全性が担保された学習環境をもつことが、これまで以上に重要となります。

.自己認識とマインドセットへの注力
この階層では、リーダーの個人的な影響が多くの人々に広がりますが、新任の上級管理職は自身の習慣や傾向が、他者の能力やエンゲージメントにどれだけ深く影響を及ぼすかを認識していない場合があります。だからこそ、自己認識は極めて重要です。自己洞察ツールと個人的な内省は、この階層のリーダーの能力開発のカギとなります。

.複雑さが増す
上級管理職には、複雑で実践的な演習を含む、困難でやりがいのある学習経験が有効です。シンプルな学習モデルは、その役割の複雑さを反映するように調整しなければなりません。

5.ファシリテーターの判断における信頼性
リーダーがより上位の役割を担うようになると、ビジネスとの関連性を高め、会話を進めるために、ビジネス経験の豊富なレベルの高いファシリテーターを必要とします。ファシリテーターは一方的に知識を伝えるだけでなく、ディスカッションをリードし、具体例を示し、類推を提供することによってリーダーを巻き込むことが求められます。

6.同僚とのネットワーキングと学習を期待
上級管理職は業務が増え、地理的にも分散しているため、同僚と接するのが難しくなっています。しかし、彼らが異なる部門間で仕事を進める役割を担うにつれて、同僚とのネットワーキングは彼らの能力開発経験に重要な要素となるはずです。学習経験として、互いに学びあう機会を促進しなければなりません。リーダーは時折、自分だけが困っているわけではなく、他の人も同様の課題を抱えていることを知る必要があります。

リーダーを中心としたインストラクショナル・デザインの原則

上級管理職に特有の学習ニーズを把握したうえで、彼らが積極的に取り組むような学習体験を創出するには、設計原則を考慮することが重要です。

1.関連性:「リーダー自身が直面する問題や組織に関連づける」
日常業務との関連性が欠けていると、研修は気晴らしのように思われかねません。新たに学んだスキルや概念は即座に適用できなければなりません。現実の課題やケーススタディ、職場での実践が不可欠です。

2.個別化(個々人のニーズに合わせる)
「リーダーにとって特に重要な価値が何であるかを強調する」
学習内容と学習方法は、個々人のニーズに合わせて、学習者が好む形式や内容を選べるようにする必要があります。どのスキルに重点を置くべきか、そしてこれらの領域の能力開発が自己のキャリアにどのように役立つかを、リーダー自身が理解する必要があります。洞察を得られるツールや自己評価を活用することで、リーダーは教材との個人的な関連性を見出すことが可能になります。

3.没入型:「リーダーが疑似体験する機会を提供する」
リーダーは、現実味のある環境でリーダーシップの課題を実践し、体験することによって学習します。現実の課題への問題解決や同僚との議論を通じて、能力開発を「研修」というより実践的なものにすることが可能です。

4.人間的:「リーダーが感情的なつながりを感じられるようにする」
リーダーシップは人間性が強く求められるものであり、そのため、例示やケーススタディは現実に根ざしたものでなければなりません。リーダーが直面する複雑さや多方向からのプレッシャーを認知し、それに対処できるよう設計された能力開発の手法は、上級管理職の人間としての経験を強調することができます。内省と洞察はリーダーが自分自身の行動の感情的なつながりとその結果を認識するのに役立ちます。

5.信頼性:「リーダーが学習から確実に価値を得られるようにする」
リーダーの時間を無駄にしてはなりません。Google検索が当たり前の現代において、私たちはいかなる質問に対しても、たとえその答えが間違っていたとしても瞬時に解答を得ることが可能です。研究に基づき、科学的な根拠に裏打ちされたコンテンツでなければ、測定可能な行動変容をもたらすことはできません。

上級管理職向けの研修プログラム

幸いにも、この役職に特有の課題を解決する上級管理職向けの能力開発プログラムがあります。最も効果的なプログラムは、この階層でのアセスメントやコーチングから得られたデータに基づき、上級管理職が特に取り組むべきスキルを重点的に取り上げたものです。これらのプログラムの特徴として、リーダーは専門的なネットワークを強化しながら学習を進めることができます。このようなコホートベースの能力開発モデルは、一対一のコーチングよりもスケーラブルな手法であり、経験レベルが異なる上級管理職の育成において成果を高められます。コホートベースのセッションでは、リーダー同士が実践とフィードバックを通じて学び合うことで重要なリーダーシップ・スキルに焦点が当てられ、リーダーは即座に実践可能な新しい戦略やツールを得ることができます。

執筆者:DDI プロダクトマネジャー リサ・レクテンウォルド


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