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「静かなプロアクティブ行動」に関する研究~人の新たな可能性に光を当てる~【後編】

「静かなプロアクティブ行動」の内容と他要素との関連性を明らかにする

今回の研究レポートの【前編】では、プロアクティブ行動の定義、今日における利活用の広がりや「静かな」プロアクティブ行動に注目する重要性について議論を進めました。【後編】では、「静かな」プロアクティブ行動の構成要素や他要素との関連性を明らかにし、これが「活発な」プロアクティブ行動とどのように関連しているか、個人の特性や成長にどのように影響するかに関する調査結果を紹介していきます。

2つの研究課題

【前編】でもレビューしたように、近年の実務を中心としたプロアクティブ行動に関する議論は、外向性や主体性・能動性が前提となっている傾向が見られます。一方、近年書籍化され注目されている「内向型人間」や「静かなリーダー」、具体的にはアップル創業者のひとりであるスティーブ・ジョブスなど例にとると、静かで内向的であったとしても、組織を率いることや変革を起こすことを実行しています。
つまり、外向性・主体性・能動性のみが前提となっている場合、「活発な」行動のみにフォーカスされ、「静かな」行動を正しく捕捉できない可能性があるのではと考えました。そこで、本研究では以下2点を課題として研究を行いました。

  • 研究課題1​
    • 「静かな」プロアクティブ行動やそれに関連する因子を明らかにすること
  • 研究課題2​
    • 研究課題1で明らかになった因子とそれを喚起する成長経験やビジネスリテラシー、個人特性との関係性を調査すること

定量調査の実施

以下の手続き・内容にて、定量調査を実施しました。

  • 対象は従業員規模100名以上の企業に勤務する、一般社員・主任・係長層(25歳~39歳)。
  • 研究課題1について:インタビュー調査の結果を受け、静かなプロアクティブ行動リストと一般的なプロアクティブ行動リスト(併せて成長経験リスト)を作成し、因子化(まとまり)を確認。
  • 研究課題2について:プロアクティブ行動と成長経験に関する自由記述・自己評価、リーダーシップに関するリテラシーや特性に関するセルフアセスメント(Leadership Snapshot)を実施(質問内容の詳細は図表1を参照)。200名の回答データを収集した後、回答傾向を確認して属性に偏りのないように絞り込みを行い、最終的に127名のデータを得た。
  • いずれの調査も、2023年5月から7月にかけて実施し、分析には統計解析ソフトSPSS Statistics 29を使用。

Leadership Snapshotとは:
リーダー候補者向けのDDI(Development Dimensions International)社のセルフアセスメントツール(日本語版)。初級管理職や次期管理職候補の個人特性と能力(コンピテンシー)を診断するオンライン・アセスメント。短い診断時間でリーダーの採用や昇進昇格、育成プランの作成に役立てることが可能。

研究課題1に関する定量調査結果

【前編】のインタビュー結果をもとに設定した、静かなプロアクティブ行動に関する質問項目による定量調査の結果からは、3つの因子(A,B,C)が抽出されました。それぞれを以下のように名付けました。
 A:冷静に物事を進めながらも新領域に挑戦する
 B:ネットワークを駆使して確実に前進する
 C:長期的な視点で成長し続ける姿勢

同時に、一般的なプロアクティブ行動には異なる2因子も抽出されました。
 α:自ら進んで、周囲を巻き込んで物事を進めようとする
 β:継続的に活躍するためのキャリアを築き、ネットワークを構築する

成長経験に関しては、最も成長した経験とその難易度、経験特性に対する自己評価が調査され、2つの因子が得られました。
 経験1:ルーチン・知見活用が可能
 経験2:未経験・新規性が高い

研究課題2に関する研究概要と定量調査結果

研究課題1に基づいて抽出された因子を踏まえて、研究課題2に関する定量調査と解析を行いました。研究概要は図表1としてまとめ、「静かな」プロアクティブ行動と他指標との関連性に関する解析(重回帰分析)結果を図表2としてまとめました。

図表1:研究概要

図表2:「静かな」プロアクティブ行動と他指標との関連性に関する解析(重回帰分析)結果

「静かな」プロアクティブ行動各因子と他指標との関連性を分析した結果、各因子ともに新たな挑戦的な仕事経験よりも今現在の職務経験との相関性が高いことが示されました。 

また、因子A(冷静に物事を進めながらも新領域に挑戦する)は、対人関係のリーダーシップに関する知見が、因子B(ネットワークを駆使して確実に前進する)は、既存の経験に加えて新たな経験、そして対人関係における積極性や関係構築を指向する特徴などが相関することも併せて確認されました。

さらに、年齢が低くかつ高い役割を担う人材ほど、「静かな」および「活発な」プロアクティブ行動の発露が際立つことも確認されました。

「静かな」プロアクティブ行動因子と「活発な」プロアクティブ行動因子、そして個人特性との関連性を分析した結果、パーソナリティにおいて内向的な人が必ずしも「静かな」プロアクティブ行動をとるわけではない(図表3)ことも確認されました。

図表3:静かなプロアクティブ行動と他との相関(相関係数)

まとめ

本研究では、プロアクティブ行動への注目が集まり、実務を中心として利活用が進む中で、本来の定義には含まれていたはずの「静かな」プロアクティブ行動の特徴を改めて特定し、他要素や指標との関連性を明らかにしようと試みました。これらから、「静かな」プロアクティブ行動は、パーソナリティ内向的・安定志向(達成志向が低い)と異なる性質を持っていることが示唆されました。また、「静かな」プロアクティブ行動各因子は、人との関わりや既存の職務経験との相関性が高いことが分かりました。これは、「活発な」プロアクティブ行動が新しい挑戦によって促されるのとは異なる傾向を示しています。

このような結果を踏まえると、「静かな」プロアクティブ行動は新入社員・一般社員のみならず、管理職や経営リーダーにも幅広く適用できる可能性があり、これについての議論や概念の拡充が必要と言えます。また、年齢や階層が行動に影響を与えており、若い段階から権限を持つことが積極的な行動につながる可能性があります。企業の人材育成戦略において、これらのプロアクティブ行動の理解と適切な活用が求められるでしょう。

以上のリサーチ結果が、皆様にとって何か1つでもお役に立てることがあれば幸いです。

▼前編はこちら

※本レポートは、経営行動科学学会第26回​年次大会発表論文「‘静かな’プロアクティブ行動と経験や​特性との関連性について―プロアクティブ行動概念の拡張に向けた一考察――」(栁 智貴・​水田 徳子・和多 美保<マネジメントサービスセンター>/小方 真<埼玉大学>)を基に作成したものです。

 

   

 


執筆者プロフィール

株式会社マネジメントサービスセンター グローバルサービス部
栁 智貴(やなぎ ともたか) 
青山学院大学法学部卒業後、大手総合人材サービス会社に入社。人材紹介の法人営業を経験した後、BPO事業に従事し、業務改善、採用代行、オンボーディングに携わる。2021年にMSC入社後は、米DDI社と連携する部門に所属し、フロントラインリーダー層の人材アセスメントの開発や日本・アジアへの展開を推進している。
所属学会 経営行動科学学会
論文:「‘静かな’プロアクティブ行動と経験や特性との関連性について―プロアクティブ行動概念の拡張に向けた一考察―」(共著)