リーダーの優しさと成長のジレンマ~苦手なフィードバックを克服するための5つの秘訣
衝突を恐れないフィードバック術とは
医療業界のリーダーと話していると、勤務先の組織文化を「健康管理の点では良好」と表現することがよくあります。しかし、これは真の褒め言葉とはいえません。その組織の人々は、概ね親切で思いやりがあって協働的ですが一方で、衝突や困難な話し合いを避ける傾向を示しています。そして、このような現象は、医療業界に限ったことではありません。
DDI は、多くのリーダーシップ開発やコーチングの取り組みを行う中、成功に導くコーチングや(人ではなく)行動に焦点を置いたフィードバックの提供、成長が期待される人材のポテンシャルの見極めと育成などのスキルを、あらゆる業界のリーダーが習得できるよう支援しています。
しかし、何においてもいえることですが、実践可能な能力をもつことと、実際に実行に移す意志、両方の要素が必要となります。リーダーが優しすぎてフィードバック・スキルを活用できないとき、このような回避行動がどのような性格特性や傾向性により引き起こされているかを考える必要があります。
改善を促すフィードバックに苦労している人(衝突を避けているリーダーの皆さん!)へ、今の居心地の良い状態から抜け出して、フィードバックをより多く行うために役立つ5つの秘訣を紹介します。
苦手なフィードバックを克服するための5つの秘訣
「占い師」のようなフィードバックをしない
起こる確率を現実的に判断せず、否定的な結果を予想するゆがんだ思考を説明するとき、心理学者は「占い」という言葉を使います。フィードバックすることを好まない人は、フィードバックが相手の抵抗や拒絶、高ぶった感情を引き起こすのではないかと思いがちです。
「もし私がこんなことを言ったら、彼女はとても傷つくだろう」「私の考えていることは、彼にとっては少しも重要ではないだろう」などと考えてしまうのです。占い的発想から脱する最善の方法は、そのような否定的な憶測とは相反する根拠を探すことです。「彼女は立ち直りが早いので、このフィードバックに対処できる」、「以前、私の考えに耳を傾けてくれたことがあったから、彼は私を信頼してくれているはずだ」というように、考え方を変えるよう努めるのです。
あなたのフィードバックは、彼らにとって大したことではないかもしれないし、むしろ、感謝してくれるかもしれません。または、耳をふさいで聞いてさえいないかもしれません。いずれにしても、山のように膨らんでいた不安がどれほど些細なものであったかに気づき、驚くはずです。
関係構築のために個人的な話を打ち明ける
私が昇進の過程で困難な状況にあったとき、優れた上司が、フィードバックの際、自身のキャリアでも同じような立場にあったときのエピソードをたびたび話してくれました。それは、まさに私が必要としていたもので、初心者にありがちな失敗に対する洞察と、仕事を改善し究める道筋を示してくれました。
そのような体験談を通して、暗に語られたメッセージは、「私は経験を通して学んだから、あなたにもできるはず」ということでした。自分の過去の失敗を笑い話にできるその上司の力により、私は自分の失敗に対する劣等感が薄れ、誰もが通る道のように感じることができました。弱さを見せてくれたことにより、自然体のコーチング関係が生まれ、アドバイスに対する受容性が高まったのです。
ただし、弱さを見せることと謙遜することを混同しないようにするのが重要です。「そんな失敗をしたのですか? ああ、私もしょっちゅうですよ」というのは、弱さを見せることにはなっていません。このような表現は、相手の抱える問題を単に軽視するだけとなります。
謙遜とは、自分を低めることにより、相手に自分が優れていると感じさせることです。一方、弱みを見せるということは、学び、失敗もできて、成長の場となる安全な環境を育むための勇気ある自己開示なのです。
フィードバックを自分に対する「判決」ではなく、協力的な問題解決策としてとらえる
深刻なパフォーマンスの問題への対処など、状況によっては、率直かつ明確なフィードバックが必要になります。より繊細な行動是正への対応などの場合は、オープンな双方向の話し合いが効果的です。フィードバックは、相手のスキルを非難するものではなく、協力的に問題を解決するためのものだと考えてください。
グループミーティングを支配しがちな、社内で最も活躍しているスター社員との話し合いを想像してみてください。彼のアイデアは素晴らしいですが、チームに新たに参加したメンバーは、発言しづらくなります。
彼に対する2つのアプローチ方法を検討してみましょう:
・あなたは会議で多く発言されていましたが、他の人にも話す機会を与える必要があります。(彼には、「あなたの行動はよくなかった。改めてください」と聞こえます)
・サラとドリューは会議であまり発言していませんでした。チームで最も経験豊富なメンバーとして、どのように彼らを議論に引き込むことができるか、アイデアはありませんか? (彼には、「あなたは尊敬されているので、問題を解決するのを助けてください」と聞こえます)
フィードバックを怖れている人にとって、2 番目のフィードバックの良い点は、一見、フィードバックに感じられないことです。このアプローチの鍵は「引き出す」と「伝える」のバランスを取るところになります。リーダーがフィードバック・スキルを最初に実践するとき、多くの場合、過度に指示的になります。あなたが他者からコーチングを受けた際の価値について考えてみてください。
おそらく、単に何をすべきか伝えるのではなく、あなたの状況をより良く理解するために質問し、あなた自身が結論に辿り着く支援をしてくれるのではないでしょうか?
「サンドイッチ式フィードバック」を使用するときは注意する
「サンドイッチ式フィードバック」は、肯定的(ポジティブ)なフィードバックで始め、次に否定的(ネガティブ)なフィードバックをし、またポジティブなフィードバックをして終わらせるという、昔からよく使われてきた手法です。それも悪いことではありませんが、そのやり方だけではうまくいかなくなるでしょう。
あなたの真の目的が、改善を促すフィードバックであるならば、相手の衝撃を和らげるためだけにポジティブなフィードバックを与えることは意味を為しません。厳しいフィードバックをする場合は、共感力、思いやり、傾聴力を発揮してください。ただし、誠実さや具体性を欠くようなその場しのぎのポジティブフィードバックはしないでください。
また、バランスを取るときは、「議論の質」ではなく、“関係の質”に目を向けてください。新しいチームメンバーに改善点を挙げる際は、5 回称えて改善点を1 つ挙げるくらいのバランスを取るのがよいかもしれません。あなたと相手との信頼関係が強くなればなるほど、相手はあなたのフィードバックをより受け入れやすくなります。
フィードバックを受け入れる模範になる
フィードバックを求める準備ができていない場合、信頼性のあるフィードバックを与える準備もできていない可能性があります。あなたが自分についてのフィードバックを求めることは、フィードバックの受容性を模範として見せる機会になります。継続的に聞く練習をしたり、相手の話を真摯に聞いていることを示すために明確な質問をしたり、オープンであることを示したり、相手のフィードバックに感謝したりすることができます。
あなたがフィードバックを求めるたびに、他の人があなたの意見に耳を傾ける可能性が広がります。フィードバックし合うことは、コーチング文化の特徴です。フィードバックが頻繁に求められ、提供されるようになると、フィードバックに対して「大きなミスをして叱責されている場面」というイメージが払拭されていきます。仕事上のどのような関係においても、フィードバックを与えるための最良の方法は、まず相手にフィードバックを求めることなのです。
もしも、あなたが改善を促すフィードバックを避けたいと思った場合は、「私は十分にこの人とその成長を気にかけているだろうか?」と問いかけることが大切です。あなたが躊躇している“相手の感情を害する恐れのあるフィードバック”は、“思いやりのある建設的なフィードバック”をすることと変わらないのです。これらのヒントを実践して、職場で信頼され、勇気あるリーダーになるために努力しましょう。