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重用されやすい・されにくい人材の実態~リーダータイプの切り口から~ 【後編】

マネジメント層への任用における人材タイプの多様性に関する研究

本研究レポートは、重用されやすい/されにくい人材のリーダータイプに焦点を当て、能力・パーソナリティ・その他諸要素について調査・研究を実施した結果の後編です。

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前編まと

前編では、企業人事が求める人材タイプについて、「能力」と「パーソナリティ」の観点から調査・結果を述べました。

能力においては、「組織のリソース活用、他者の巻き込みができる人材」が最も任用される割合が高い一方で、「自ら戦略計画を練り上げられたとしても、他者をリードする力強さが不足する人材」は敬遠(回避)される傾向がありました。

「パーソナリティ」においては、企業人事が求めるパーソナリティの因子から「3つの人材タイプ」が確認されました。

・野心的な人材タイプ
・他者への信頼や謙虚さを基盤として挑戦する人材タイプ
・変化する状況への耐性を持ち、周囲と連携できる人材タイプ

「能力」&「パーソナリティ」に関する調査および結果においては、6つの職務遂行因子が確認されました。その中でも特徴的なものが、「④チームを鼓舞し、目標達成をリードする」が他の5つと比べて突出していました。一方、「⑥謙虚さを持ち、周囲の力を信じてチャレンジする」が最も低い結果となりました。

後編では、前編で報告した求められる人材タイプの観点をさらに拡張します。それらと企業風土・戦略等における関係性について調査・結果を報告し、重用されやすい/されにくい人材の実態を紐解いていきます。

パーソナリティと企業風土・戦略等に関する調査内容および結果

前編では、人事責任者が求めるパーソナリティの因子から「3つの人材タイプ」が確認されました。
各因子得点を軸に、企業風土、企業戦略といった要素と3つの人材タイプの関係性を検証するための重回帰分析を行いました(図表1)。

図表1 人事責任者が求める人材タイプの諸要因探索に向けた重回帰分析結果

各人材タイプを求める企業の特徴については、以下のような結果になりました。

つまり、求められる人材タイプについては、企業戦略やあるべき人材ポートフォリオとの相関は見られませんでした。一方で、企業風土・文化や現場の環境、既に存在している人材ポートフォリオの状況に依存している可能性が考えられます。

能力&パーソナリティと企業風土・戦略等に関する調査内容および結果

前編では、「能力」&「パーソナリティ」に関する調査および結果においては、企業で求められる6つの職務遂行因子が確認されたことを示しました。因子得点を軸に、企業風土、企業戦略といった関連要素と6つの職務遂行因子の関係性を検証するための重回帰分析を行いました(図表2)。

図表2 6つの職務遂行因子による諸要因探索に向けた重回帰分析結果

各職務遂行因子を求める企業の特徴については、以下のような傾向を有することが明らかになりました。

こちらの結果も同様のことが言えます。求められる職務遂行因子についても企業戦略やあるべき人材ポートフォリオとの相関は見られませんでした。一方で、企業風土・文化や現場の環境や、既に存在している人材ポートフォリオの状況に依存している可能性が考えられます。

後編まとめ

後編では、求められる人材タイプについて、「パーソナリティと企業風土・戦略等」そして、「能力&パーソナリティと企業風土・戦略等」における調査内容および結果を報告しました。

繰り返しになりますが、求められる特徴を持つ人材については、企業戦略やあるべき人材ポートフォリオとの相関は見られなかった一方、企業風土・文化や現場の環境、既に存在している人材ポートフォリオの状況に依存している可能性が示唆されました。つまり、重用されやすい/されにくい人材が生じる背景には「経路依存性」(松尾,2013)が関係している可能性が考えられるのではないでしょうか。

全体のまとめ

本研究レポートをお読みいただきありがとうございました。皆様いかがでしたでしょうか? 本研究レポートでは、重宝されやすい/されにくい人材についてリーダータイプに焦点を当てて、能力・パーソナリティ・その他諸要素から調査・分析を実施した結果をお伝えしました。

近年、世の中では多様性や、変革リーダー、ビジネスリーダーなどいくつかのリーダーシップの必要性が叫ばれています。

しかし実態は、人材の登用において「組織のリソース活用、他者の巻き込みを行って目標達成に向かうようなバランスの良い人材」が重宝される傾向にある可能性があります。また、企業戦略やあるべき人材ポートフォリオは関係なく、企業風土・文化や現場の環境に依存していると考えられることから、「目先の問題解決をマネジメントに求める」傾向があるのかもしれません。

しかしながら、本研究はサンプル数が少なく、前提条件がそろっていたわけではないので、今後に向けてはさらに追究していく余地が残されています。人材の活用を考える上で、少しでも皆様のお役に立てば幸甚です。

※本レポートは、経営行動科学学会第27回年次大会発表論文「マネジメント層への任用における人材タイプの多様性に関する研究―‘静かな’プロアクティブ人材を起点として―」(水田 徳子・栁 智貴・和多 美保<株式会社マネジメントサービスセンター>/小方 真<埼玉大学大学院 博士後期課程修了>)を基に作成したものです。

参考文献

松尾睦 (2013) 『成長する管理職: 優れたマネジャーはいかに経験から学んでいるのか』 東洋経済新報社.栁智貴・水田徳子・和多美保・小方真 (2023) ‘静かな’プロアクティブ行動と経験や特性との関連性について―プロアクティブ行動概念の拡張に向けた一考察―, 経営行動科学学会年次大会発表論文集, 258-263.

 

   

 


執筆者プロフィール

株式会社マネジメントサービスセンター 営業戦略推進室 兼 グローバルサービス部
栁 智貴(やなぎ ともたか) 
青山学院大学法学部卒業後、大手総合人材サービス企業へ入社。人材紹介事業で法人営業担当として採用支援に従事した後、BPO事業で業務プロセスの管理・改善や人材育成を担当。MSCに入社してからは、米DDI社と連携してフロントラインリーダー向け人材アセスメントの開発に携わるとともに、全社のマーケティング・営業企画を推進。
所属学会 経営行動科学学会
論文:「‘静かな’プロアクティブ行動と経験や特性との関連性について―プロアクティブ行動概念の拡張に向けた一考察―」(共著)、「マネジメント層への任用における人材タイプの多様性に関する研究―‘静かな’プロアクティブ人材を起点として―」(共著)