ハイポテンシャル人材の育成:次世代リーダーの発掘における7つの課題
リーダーの供給体制の危機
現在、多くの組織がリーダー人材の供給体制に深刻な課題を抱えています。最新のグローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2025によると、優れたリーダーの供給体制を持つ組織は、わずか20%にとどまっています。この背景には、将来の課題に対応できるハイポテンシャル人材の育成が十分に進んでいないという現状があります。 組織に必要な上位層のリーダーを確保するためには、まず次世代のリーダー候補となる人材を早期に見極め、育成に向けた投資を始めることが重要です。
本コラムでは、ハイポテンシャル人材の定義と、見極めの際に直面する主な課題、そして育成に向けた具体的なアプローチについて解説します。
ハイポテンシャル人材とは
ハイポテンシャル人材とは、将来、リーダーとして活躍する可能性と能力を備え、急速な成長が期待される人材を指します。この概念は、一般社員から経営層まで、あらゆる階層に適用されます。重要なのは、リーダー候補となる人材を見極め、成長のために優先的に投資すべき対象として特定することです。
「パフォーマンス」「ポテンシャル」「準備度」の違い
ハイポテンシャル人材の育成においては、組織全体で「パフォーマンス」「ポテンシャル」「準備度(リーダーとしての準備が整っている度合い)」の違いを正しく理解し、共通認識を持つことが大きな課題となります。 パフォーマンスは、現在の職務における仕事ぶりを測る指標です。しかし、多くの管理職はパフォーマンスとポテンシャルを混同しがちです。優れた業績を上げている人には成長の可能性があり、将来リーダーとしても成功できると考えてしまいます。確かにそのような場合もありますが、現在の職務での専門性が高いだけで、リーダーとしての資質や意欲が伴っていないケースも少なくありません。にもかかわらず、専門性の高い人材にリーダーシップ研修や昇進の機会を与えてしまい、本人やチームがその役割に不満を抱くような事態を招くことがあります。
準備度は、今現在その人が特定の役割や職務にどれだけ適しているかを示す、比較的わかりやすい概念です。しかし、多くの組織やリーダーは、対象者が「準備できている」かを判断するのに非常に苦労しています。そこで重要なのは、「適切な支援があれば、次の任務にチャレンジできるだけの準備が整っているかどうか」を考えることです。
また、どれだけ先を見据えて人材に投資できるかも重要です。多くの組織は「ポテンシャル」と「準備度」を混同し、すでに準備が整っている人材に偏った投資を行いがちです。その結果、時間をかけて大きく成長する可能性を秘めた“原石”のような人材を見落としてしまうことがあります。

これらの定義を理解し、組織内で共通言語として浸透させることは、ハイポテンシャル人材を育成するうえで極めて重要です。今、適切な人材をハイポテンシャル人材育成プログラムに選抜できなければ、将来必要となるリーダーの確保は難しくなります。
ハイポテンシャル人材プールにおける多様性
次世代リーダーの特定と育成に関する課題を論じる前に、まずはハイポテンシャル人材の育成において、なぜ多様性が重要なのかを考える必要があります。
多くの組織が多様性のある経営陣の構築に苦労している背景には、ハイポテンシャル人材のプールに多角的な視点が十分に含まれていないという現実があります。経営層に幅広い思考や問題解決のアプローチを反映させるためには、まず下位層から多彩な人材を育成していくことが不可欠です。
ハイポテンシャル人材が早期に適切な成長機会を得ることで、彼らはやがて幅広い経験、斬新なアプローチ、鋭い洞察力を備えたリーダーとして上級職に就くようになります。
では、多様性とは具体的に何を指すのでしょうか。多様性の本質は、人々の思考や協働、リーダーシップのスタイルを形づくる、種々の「アイデンティティ」と「経験」の幅にあります。既成概念にとらわれず、異なる視点を尊重しながら協働することで、組織文化は大きく変革する可能性を秘めています。
さまざまな考え方を持つチームは、課題に対して多角的にアプローチし、生産的な議論を交わし、より優れた意思決定を行うことができます。こうしたチームのダイナミクスこそが、イノベーションを生み出し、業務効率を高め、より強靭な組織を築いていくのです。 結論として、バランスの取れたリーダーシップ・パイプラインの構築は、早期から始めることが大切です。成長機会、メンタリング、キャリア機会を通じたハイポテンシャル人材への投資が、将来のリーダーが多様な視点を持ち、持続的な成功を導くための鍵となります。
次世代リーダー候補者の特定と育成における7つの課題
次世代リーダーのポテンシャルを見極め、育成していくうえで、多くの組織が直面しがちな7つの課題と、それらを回避するためのヒントをご紹介します。

1. 対象者が多すぎて絞り込めない
一般社員の中からリーダー候補を見つけ出すのは容易ではありません。そのため、多くの組織が、ハイポテンシャル人材の選定を上司に任せています(次の項で詳述)。しかし、上司の判断を補完する、的を絞ったスケーラブルなアセスメントを導入すれば、組織全体の強みや課題を迅速かつ網羅的に把握でき、より効果的な人材発掘が可能になります。

2. ポテンシャルの評価が上司任せ
前述の通り、多くの組織において、リーダー候補の選定は上司任せになっています。彼らは日々の業務を通じて部下を観察していますが、ポテンシャルの見極め方やバイアスの排除、業績と準備度の違いについて正式なトレーニングを受けていないことが多く、現職での成果だけを基に将来性を判断してしまう傾向があります。

3. リーダーシップ・ポテンシャルの定義が曖昧
リーダーシップ・ポテンシャルの明確な定義が、組織内で共有されていないことがあります。その場合、評価者が独自の基準で判断することになります。評価に一貫性がなく、バイアスが入りやすくなり、結果として、現在のリーダーに似た人材ばかりが選ばれるという偏りが生じます。

4. トレーニングがリーダー育成に結びついていない
一般社員向けのトレーニングや能力開発は、現在の職務におけるスキル向上に重点が置かれることが多くあります。たとえば、専門分野のカンファレンスへの参加や、追加の資格取得などが挙げられます。こうした取り組み自体は決して悪いことではありませんが、将来のリーダー職で成功するために必要なリーダーシップ・スキルの育成が後回しになってしまうことも少なくありません。

5. リーダーとしての経験を積む機会が不足している
リーダー候補を特定したとしても、次の役割への準備はできているでしょうか?トレーニングや講義といったインプットも重要ですが、ハイポテンシャル人材には、実際にリーダーとしての経験を積む機会も必要です。OJTやリーダーの役割を疑似体験する「シミュレーション」などは、将来直面するであろう課題に備える実践的な学びになります。こうした機会は、特に一般社員には提供しにくい傾向がありますが、ハイポテンシャル人材には意識的に用意することが大切です。ストレッチアサインメントなどの難しい任務も、早期育成計画に組み込むことで、次の役割への準備につながります。

6. 上司がハイポテンシャル人材の育成方法を知らない
ハイポテンシャル人材の選定後、その育成や成長支援が上司任せになると、育成の質にばらつきが生じます。育成に関する知識やスキルが上司に不足している場合、部下のエンゲージメントは下がっていきます。そして、成長機会が得られなければ、優秀な人材の離職リスクも高まります。実際、上司が成長や能力開発の機会を定期的に提供しない場合、1年以内に退職する確率が3.7倍高くなるというデータもあります。

7. リーダーシップ・アセスメントが活用されていない
対象者の人数が多く、選抜も非公式に行われがちな組織では、リーダーシップ・ポテンシャルを特定するアセスメントの導入が進んでいないことがあります。しかし、アセスメントは評価に客観性をもたらし、従来見逃されがちだった優秀な人材を発掘するのに役立ちます。また、個々の候補者の強みや能力開発領域を明確にし、より意図的かつ効果的な育成を可能にします。
ハイポテンシャル人材の燃え尽きに注意する
ハイポテンシャル人材を特定し、育成を始めたら、彼らが燃え尽きないよう、十分な配慮が必要です。彼らは組織にとって極めて貴重な存在であり、手放したくない人材である一方で、つい頼りすぎてしまうことも少なくありません。達成志向が高く、勤勉な傾向を持つ彼らには、追加の業務を任せたくなる場面が多くあります。そして実際に依頼すれば、ほとんどの場合、快く引き受けてくれるでしょう。
しかし、私たちが1,000人以上のハイポテンシャル人材を対象に行った調査では、実に81%が「仕事終わりには疲れ果てている」と回答しています。この割合は、他の層と比べて最も高く、特に女性においては、より深刻な燃え尽きの傾向が見られます。
さらに問題なのは、多くのハイポテンシャル人材が、その辛さを口に出せず、一人で悩みを抱えていることです。チャンスを失うことへの不安から、自身の負担や悩みを言い出せず、最終的には「転職しか解決策がない」と結論づけてしまうケースもあります。あなたがその問題に気づくのは、彼らがすでに去った後かもしれません。

だからこそ、心理的安全性の高い職場環境の整備が不可欠です。誰もが安心して声を上げ、自分の課題や悩みを率直に共有できる職場づくりが求められます。

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■執筆者:DDI プロフェッショナルサービス部門バイス・プレジデント
産業組織心理学者 ケヴィン・タマニーニ
DDI エンタープライズ・クライアント・サクセス・プラクティス部門統括
児童心理学者・産業組織心理学者 アダム・テイラー
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