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人材のベンチマークの活用と解釈における5つのヒント

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自分と他人を比較するのは、人間の性です。それは、組織でも同じように当てはまります。「当社の人材は、競合他社に比べてどうなのか? 主要な指標で比較したいが、どうしたらいいのだろう?」
そんな疑問に答えるのが、人材に関するベンチマークです。
近年、従業員の資質やコンピテンシー(行動特性)を把握するために、アセスメントを導入し、その結果を人材の能力開発や選抜に活かす組織が増えています。アセスメントのレポートには、個人の資質やコンピテンシーなどの評価、組織の特徴を示す集計結果などが記載されていますが、DDIのようなコンサルティング企業が行うアセスメントは、大抵それらに加えて、同業他社との比較ができるベンチマーク情報を提供しています。

すべての人材のベンチマークが同じであるわけではない

ベンチマークの有用性は、いくつかの要素によって左右されます。ベンチマークサンプルとして使用する時の基準、ベンチマークサンプルの構築に使用したデータの質、人材の能力開発や選抜におけるベンチマークの戦略的活用などは、これらの要素の一例です。
適切に構築されたベンチマークにより、同業他社と比べて自社の人材の能力開発・選抜が十分に機能していない領域を特定できるようになるなど、有意義な比較が可能となります。一方、ベンチマークとして不十分なデータを使用すると、以下のような問題が起こります。

●  自社の人材について誤った認識をしてしまう(良すぎる、または悪すぎる)

●  誤った結論に導いてしまう(比較が意味を成していない場合)

●  人材の能力開発・選抜について、目指すべきものと違う方向へ導いてしまう。
   その結果、適材適所の人員配置がかなわず、時間もリソースも無駄となる

ベンチマークに精通する方法

前述のようなマイナスの結果を避けるために、5つの実用的なヒントをご紹介します。これらは、人材のベンチマークの解釈と活用について熟考する際の参考になります。統計学者でなくとも、ベンチマークに精通することはできるのです。

1.サンプル数を確認する
少ないサンプル数から作成されたベンチマークは、サンプル数の多いものより、安定性や信頼性に欠けます。質の高いアセスメントレポートは、ベンチマークのサンプル数を必ず表示しています。
DDIの調査では、安定性・信頼性のあるベンチマークサンプルを作成するために、最低100人の参加者数を推奨しています。ただし、サンプル数の閾値を超えると信頼性の向上は横ばいとなるため、サンプル数が多くなればなるほど信頼性が高まるというわけではありません。

2.リンゴとオレンジを比較しない
比較対象のグループ属性を確認することは重要です。ベンチマークは、評価対象となる組織が従業員数を正確に反映されていないグループと比較しても、あまり意味を成しません。ベンチマークを構成する母集団は、前項で述べた最低推奨人数を満たした上で、評価対象組織と職務レベル、業界、地域などの点において、できるだけ類似している必要があります。
例えば、アメリカにおける中級管理職同士を比較評価した場合は、自社の中級管理職が競合他社と比べてどうなのか、有意義な洞察を引き出すことができます。一方、アメリカの中級管理職と東南アジアの上級管理職を比較しても、意味のある比較にはなりません。
だからこそ、ベンチマークを構成しているデータを理解することがとても重要なのです。また、ベンチマークデータを提供する組織が信頼性の高いサンプル数を維持しつつ、幅広いデータを保有していることも肝要です。

3.主要な人材指標がどのように評価されているのかを理解する

アセスメントの質は、ベンチマークの質の基準となります。アセスメント対象とする属性を正しく評価・予測しているか、母集団全体だけでなく、関連する部分母集団についても、徹底的に検証する必要があります。
地域別にアセスメントを実施する場合、ベンチマーク作成対象の地域内で検証されていたら、地域別ベンチマークはより意味がでてきます。したがって異文化間でアセスメントを行った場合は、グローバルベンチマークの方が有用となります。

4.ベンチマークを過剰に解釈しない

ベンチマークは万能というわけではないので、人材を評価する上で、唯一の比較データとして使用すべきではありません。
むしろ、関連する他のデータと共に、組織の状況とも合わせて解釈するものです。組織が大きな変化やカルチャーシフトの最中であれば、その状況に応じて解釈するべきものなのです。

5.アクションプランを立てる

提供されたベンチマークの質や解釈について確認したら、次はその情報をいかに行動に落とし込むかを決定します。
自分の組織は他社と比較して、特定の分野で勝っているのか、劣っているのか。それはどの程度か。自社の方が同業他社より勝っているようなら、競争上の優位性を示唆しています。これまで何が良かったのか、そして今後は同レベルのパフォーマンスをどのように維持するのかについて考えていくのです。
また、重要なのが、組織データについて、自社に関連する様々なデモグラフィック変数(人口統計学的変数:地域、職務レベル、部署等)を確認し、評価結果が従業員全般にわたって合致しているのかを見極めることです。少数ながら高得点をマークしている従業員や部署が、組織全体の結果を引き上げている可能性もあることを念頭に置いてください。
コンピテンシーのスコアがベンチマークよりも低かった場合の今後の対応としては、劣っている分野がこの先開発可能であるのかどうかにもよります。その分野の開発が困難な場合は、現行の行動様式を調整することにフォーカスするのが賢明です。これなら人材登用の選考プロセスにコンピテンシーを1つ追加するのと同じぐらい容易にできるでしょう。あるいは、行動面接を取り入れるなど、より包括的な変化が必要になるかもしれません。 トレーニングが可能な分野であれば、能力開発のオプションを増やす、コーチングの機会を提供するといった取り組みに尽力するとよいでしょう。

必要なのは不断の努力

人材のベンチマークを活用することにより、組織は非常に価値のある洞察を得ることができます。しかし、そのベンチマークは適切に構成され、正確に解釈され、人材の選抜や能力開発への取り組みを効果的に導くべく、戦略的に活用されなければなりません。
そのためには、ベンチマークを解釈して行動計画を立てる使用者側と、ベンチマークを作成する技術分析のエキスパート側の両方の努力が必要となるのです。

 

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