第3回リーダーの「創造力」を引き出す3つのアプローチ トレーニング編前半
~「メタ視点の欠如」に対処するためのトレーニングをご紹介~
先月からお届けしているコラムでは、「創造力」の発揮度が低い外的要因と内的要因を探りながら、リーダーの「創造力」を引き出す2つのアプローチをご紹介してきました。
1つ目は、「創造可能性人材」を発掘し、能力発揮しやすい環境を整備するアプローチ、
2つ目は、「経験学習モデル」を応用したアンラーニングによって、既成概念を取り払うアプローチでした。3回目となる本号では、リーダーの創造力を引き出す3つ目のアプローチとして、「メタ視点の欠如」に対処するためのトレーニングについてご紹介します。
自分を見つめるもう一人の自分
図12:創造力の発揮度が低い要因分析
「皆さんは、自分を見つめるもう一人の自分を持っていますか」
リーダーの方を対象とした研修の場で、私は機会を見つけてこの問いかけをするようにしています。問いかけの意図は、大手企業でリーダーを担う方々の中に「メタ視点」を有する人がどの程度存在するかを確認することにあります。これまでの経験上、10%前後の方が手を挙げてくださいます。多い時には20%程度、少ない時には誰一人手を挙げてくれないこともあります。この割合は私の予想よりも低かったため、質問の仕方を変えてみたこともありますが、結果は変わりませんでした。
「メタ」とは、「高次の」という意味合いで、「メタ視点」とは、今の自分よりも高い次元から自分を俯瞰的に見る視点という意味になります。乱暴な解釈になるかもしれませんが、「自分を見つめるもう一人の自分」の存在を自覚している約10%の人はメタ視点を有する可能性が高く、一方、残りの90%の方はこの問いかけにピンと来ていない時点で、メタ視点が希薄であることが窺えます。メタ視点は、リーダーにとって、セルフアウェアネス(自己認識)を高める上で重要な視点です。自分自身の行動を俯瞰的な視座から客観的に振り返ることができて初めて、自分の強みの強化や弱みの克服といった能力開発を効果的に行うことができるからです。
図13:メタ視点とは
リーダーであれば、上司から「もっと視座を高めなさい」というアドバイスをもらうことがあると思いますが、そのためにはメタ視点を養うことが大切になってきます。メタ視点が弱い方は、視点が「今」だけに限定されやすく、知覚の範囲が狭くなる傾向があります。自分の物の見方や考え方こそが正しいと捉えるため、違った角度から問題を見直したり、自分の考えと異なる意見を受け入れたりすることが困難になります。具体的な物事を抽象化して体系的に整理することや、反対に抽象的な概念から具体的な物事を想起するような柔軟な思考展開ができず、目に見える事象を見たままにしか捉えられなくなってしまいます。
図14:コンセプトの創造に必要となるメタ視点
図15に改めて創造力の定義を示しますが、このような思考の目詰まり、硬直化と言える状態に陥ると、「既知の事実情報を組み合わせたり、展開したりして、新しい考え方や解決策を生み出す」ことは難しくなってしまいます。
図15:創造力の定義
中学生が小学生の問題を易しく感じるように、メタ視点から今の問題を見直すことで、今まで解けなかった問題の解が見つかるようになっていきます。メタ視点を強化するためには、自身の意識の状態や意識の置かれどころを注意深く観察する内省の習慣を持つことが大切です。場合によってはメタ視点をさらに高次から俯瞰する「メタメタ視点」も必要になってくるのですが、そもそもメタ視点が弱いと、見える範囲が限定されてしまうため、独力で内省を行うことが困難になります。
1on1による他者視点からの問いかけがメタ視点を磨く
そこで重要になるのが、1on1コーチングによる「他者視点」からの問いかけです。1on1によって、自分の知覚の範囲外から他者に問いかけられることで初めて、目から鱗が落ちて今まで見えていなかったものが見えるようになります。そうすることで新たな可能性に気付けるようになります。その気付きが、新しい考え方や解決策を生み出す創造力の発揮につながっていきます。
図16:メタ視点を養う上で重要な「他者からの問いかけ」
メタ視点の欠如が八方塞がりの堂々巡り状態をつくり出す
このような意味において、1on1セッションはメタ視点を養い創造力を引き出すための効果的なトレーニングになります。能力開発や目標設定を目的とした1on1では、コーチの問いによって内省を深めながら、リーダー自身の強みや課題を改めて整理し、過去の要因を紐解き、将来のありたい姿に向けた能力開発プランまで落とし込んでいきます。
創造力が低い人は、特に「未来をイメージする問い」が苦手な印象があります。1on1の中で、将来のありたい姿やビジョンを創造してもらうための問いかけをすることがあるのですが、問いかけられても、「何も思い浮かばない」「問いの意図が理解できない」などと困惑されたり反発されたりすることがあります。
もちろん、問う側の技術が未熟なためにうまくイメージできないということもあるでしょう。ただ、同じ状況でスムーズにイメージできる方もいますから、うまくいかない人にはその人特有の理由がありそうです。時間が許せば、「何がそのような心理的抵抗を生み出しているのか」という観点から背景を探ります。たとえば、論理的思考が強いあまり「ファクトベースで考察しなければならない」という意識や、責任感が強いあまり「夢や理想を安易に語ってはいけない」という信念が隠れている場合があります。あるいは「他人に批判されたくない」「自分は悪くない」という自己防衛や正当化の表れ、もしくは「難しく考えたくない」という抽象思考や内省への苦手意識という場合もあるでしょう。
実はこの辺りにメタ視点や創造力を強化するヒントが隠れています。多くのリーダーが、「弱みである創造力を強化したい」と感じながら、一方で「何かを創造することに強く抵抗してしまう自分」を無意識のうちに作り出しているのです。穿った見方をすれば、「創造することで生じる変化を恐れている」とも解釈できます。
「自分が本当にしたいことが分からない」「将来のビジョンがない」と悩んでいるリーダーも同様のパターンに陥っている可能性があります。その内面を掘り下げていくと、実は「変わらなければと焦りつつも、これまでに築き上げた今の立場を守りたい」という本心や、「ビジョンを描くと実現に向けて頑張らなければいけないので、言葉にしたくない」という葛藤にぶつかることがあるのです。
図17:八方塞がりの堂々巡り状態をつくり出す「無意識の葛藤」
ありたい姿なのだから「こうなれたら最高だな」と思う姿を自由にイメージして言葉にすればよいのですが、子供と違い、過去に多くの経験をしてきた大人だからこそ生じる見えない壁(ブロック)にぶつかり、それが心理的な抵抗となって表れてくるのでしょう。もし、「ビジョンなど描かずありのままでいたい」という思いがあれば、それを素直に言葉にしていくことも一つの選択肢です。しかし、そこに罪悪感を持ったり、「変化することで今の安定が失われるのではないか」という不安を心の奥に押し込めたりして、悶々とした日々を送っているリーダーが案外多いという印象です。
大切なのは、メタ視点に立つことでそのような内面の葛藤を引き起こす「無意識の意図」に気付き、目を背けずに向き合うことです。悶々とした葛藤を生み出している内面の心理的な構造を俯瞰することができて初めて、その葛藤状態をありのまま受容したり、堂々巡りの状態から脱しようとしたりする意志が生まれてきます。意志が生まれれば、少しずつ未来への光(可能性)が見えてきます。最初はすぐに切れてしまいそうなか細い糸のような光かもしれませんが、内省を重ねてその糸をつなぎとめ撚り合わせていくうちに、よりくっきりとした未来へのイメージが形成されていきます。そうして未来への道筋を通していくことで可能性が広がり出します。そうなってくると、自分自身が描く未来を信じられるようになり、自然と創造力が働いて、解決の道が開けていくのです。
1on1セッションでは、他者からの問いかけによってメタ視点に立つことで、リーダーの視野と知覚の範囲を拡大し、自らを八方塞がりの堂々巡り状態に陥らせている「無意識の意図」や「無意識の自己矛盾」に気付いてもらいます。それを問いと内省によって解きほぐしていくことで、その人が本来持っている可能性や創造性を引き出していきます。
図18:「問い」によってリーダーの知覚の範囲を広げる
もちろん、内省に長けた人やメタ認知能力が高い人であれば、ここまでの一連のワークをノートに書き出しながら独力で行うこともできます。しかし可能であれば1on1セッションの中で行うことをお勧めします。実は、人が創造性を発揮する上で、誰かに深く傾聴してもらうことが極めて重要になってくるからです。
最終編は4月5日の掲載を予定しています。
<次回の内容と配信予定>
第4回:トレーニング編後半(4/5掲載予定)
内面の創造性を引き出す深い傾聴
第1回と2回は、下記からご覧いただけます。
▼第1回コンディショニング編 「創造可能性人材の発掘と環境の整備」はこちら
▼第2回アンラーニング編 「経験学習モデルを応用したアンラーニング」はこちら
執筆者プロフィール
株式会社マネジメントサービスセンター チーフコンサルタント
松榮 英史(まつえ ひでし)
MSCにて、15年にわたり5,000人以上のビジネスパーソンの能力診断に従事。培ったヒューマン・アセスメントやフィードバックの技術を活かして内省を深める1on1セッションを提供し、リーダーの自分らしさを大切にした能力開発を支援している。MSC Webサイトに掲載している執筆コラムとして、「1on1で創るウェルビーイングな能力開発」(2021.07.16)がある。