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なぜエグゼクティブへの移行は失敗し続けるのか

~大規模なグローバル調査から明らかになったエグゼクティブが失敗する理由~

エグゼクティブの交代は、なぜ失敗することが多いのでしょうか?失敗する企業と成功率の高い企業との違いが、このたび、調査によって明らかになりました。

エグゼクティブへの移行が失敗に終わる割合が非常に高いということは、残念ながら事実です。

それではどのくらいの確率なのでしょうか?

MSC/DDIの「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト」で最近リリースされた「リーダーシップ・トランジション・レポート2021~新しい職位への移行期に伴う課題~」によると、社内で昇進したエグゼクティブのうち、35%が失敗とみなされています。外部から採用されたエグゼクティブの場合、この数値は47%にまで跳ね上がります。

しかしこれは、最近の傾向や新事実ではありません。重要なのは、なぜこのような結果が続き、なぜこのような状況が見過ごされているのかということです。

複雑で競争が激しくリソースが枯渇している今日のビジネス環境では、リーダーシップの発揮がこれまで以上に難しくなっていることが、間違いなく理由の一つと言えるでしょう。一方で、もう一つの理由として考えられるのは、新任のエグゼクティブ自身が、昇進後の状況を単純に予測していないということです。これまで何十人もの悩めるエグゼクティブをコーチングしてきましたが、ほとんどの場合、彼らの失敗は本人にとっても、経営層にとっても、チームメンバーにとっても意外なことでした。

つまりはこういうことです。エグゼクティブに昇格した人々は、これまでに高い業績を上げ、チームに貢献し、困難な課題を巧みに処理してきた実績があります。上層部からの厚い信頼も得ています。

そして、部長や取締役などの役職に就きます。すると、「新しいことに挑戦し、懸命に勤め、成功し、次のステップに進む」という、これまで長年サイクルとして歩んできた道が突然途絶えたような感覚に陥り、パフォーマンスが失速するのです。

共通点がもう一つあります。彼らは大抵の場合、自らの苦悩を秘密にします。通常、エグゼクティブは自分が直面している問題についてほとんど口にしません。重要な役職に就き、上層部から信頼されているということは、(多くの場合)課題を解決するのは彼ら自身であることを意味します。エグゼクティブは強くある必要があるのです。


困難な移行期を経験したエグゼクティブが与える影響

複数のCHRO(最高人事責任者)に、「新しくエグゼクティブが就任したときに何が起こったか」と聞いたところ、”パフォーマンスが後退した”、”戦略の進捗が滞った”、”下の階層の離職率が高くなった “といった回答が多くありました。

エグゼクティブの移行に失敗すると、どのくらいの損失が発生するのでしょうか?

まず、エグゼクティブ本人が退職したり解雇されたりした場合の補充コストは、給与の2.5倍から最大10倍にまで及ぶと言われています。

しかし、もっと深刻なのは、移行に失敗したエグゼクティブがその役職に留まっている場合の間接的コストです。事業部のパフォーマンスが低下すれば、業績や生産性に支障が出てきます。さらに、機会損失費用や、優秀なチームメンバーの離脱などによる影響を加えると、全体のコストは膨大になるでしょう。

加えて、移行に苦心しているエグゼクティブ自身への個人的な影響も見落とせません。これまでの調査では、経営層の約40%が「エグゼクティブになることは良い経験ではない」と答えており、離婚、子育て、家族の死などのライフイベントと同じか、それ以上のストレスを感じたと言っています。

米国国立衛生研究所の調査によると、昇進時のストレスは、健康に大きな影響を及ぼすと言われています。エグゼクティブは平均してよく眠れていません。そうするとエネルギーが不足し、不安感が高まります。さらに、不健康な食事を続けてしまいます。このような悪循環に陥ると、燃え尽き症候群が蔓延し、肉体的にも精神的にも深刻な問題を抱えることになります。

企業は何もしないでいるわけにはいきません。エグゼクティブへの移行を成功させるために、できることはたくさんあるのです。


エグゼクティブの移行で多くの企業が犯す過ち

あるHRカンファレンスで、40人ほどの人事担当者に、「エグゼクティブへのサポートを十分にしていますか?」と聞いたところ、一人も手を挙げませんでした。実際、「新任エグゼクティブが成功するためにどんな支援をしているか」という質問に対して最も多かった回答は、「何もしていない」でした。

これは、CHROや上層部が新任エグゼクティブを気にかけていないからではありません。何もしない理由として、以下の3つをよく耳にします。

  1. エグゼクティブなら自分で解決できるはず。C-Suiteをはじめとする上層部には、自らが就任した際にあまり(あるいは全く)サポートを受けられなかった人が多くいます。そのため、自分たちが課題を克服できたのだから、本当に才能があれば新任のエグゼクティブも同じことができるだろうと考えるのです。しかし、これは、エグゼクティブ・リーダーシップの難易度が高まっていることや、万一、失敗した場合の代償の大きさを軽視しています。
  2. すべてのエグゼクティブにコーチをつける余裕はない。エグゼクティブ・コーチングは、エグゼクティブを育成するための数少ない選択肢の一つとして、多くの人に知られています。ただ、コーチングを受けるには時間も費用もかかるため、上層部だけが対象となることがほとんどです。しかし、すべてのコーチングが長期的で高額なものである必要はありません。短期間でターゲットを絞ったコーチングを受ければ、新任エグゼクティブも早期かつ迅速に軌道に乗ることができるのです。
  3. 開発できる領域ではない。エグゼクティブは、それぞれ独特な役割におり、他の人にはその状況を理解できないことがよくあります。そのため、一般的なグループトレーニングでは役に立たないことがあります。しかし、個々の状況に合わせて学習内容を適切に調整すれば、グループでの能力開発も有益となり、エグゼクティブ同士の関係を構築するための強力な手段となり得るのです。

これらが大きな障壁になっていることは間違いありません。しかし、何もしないままでは組織は立ち行かなくなってしまいます。


エグゼクティブへの移行を成功させるための支援方法

リーダーシップ・トランジション・レポート2021」から、エグゼクティブへの移行に成功している企業はどこが違うのかを見てみました。さらに、経験をもとにエグゼクティブが舞台裏で何を議論しているかを調べました。その結果、支援すべき5つの重要なポイントが明らかになりました。これらは、企業のビジネス環境や学習ニーズに応じて複数組み合わせると、より効果的です。

エグゼクティブへの移行に成功している企業はどこが違うのかを見てみました。さらに、経験をもとにエグゼクティブが舞台裏で何を議論しているかを調べました。その結果、支援すべき5つの重要なポイントが明らかになりました。これらは、企業のビジネス環境や学習ニーズに応じて複数組み合わせると、より効果的です。

1. アセスメントを実施する:目隠ししたまま飛び立たせない

エグゼクティブに就任するということは、飛行機を操縦したことがないにもかかわらず、操縦を任されるようなものです。あなたは飛行機に乗ったことがあるかもしれないし、飛行機の仕組みも理解しているかもしれません。しかし、操縦席に座ると、突然、何百人もの命を預かることになるのです。これまでとは全く異なる経験です。

自分にその能力があるかどうかわからないまま動き出すのは、非常に大きなリスクを伴います。「やってみないとわからない」ではうまくいきません。その上、これまでの直感が通用しない可能性もあります。このレベルになると、発揮すべきリーダーシップスキルは大きく変わります。以前は強みだったものが、マイナスに作用することもあるため、学び直す必要があるかもしれません。

だからこそ、エグゼクティブ・アセスメントとそのフィードバックは、移行期に大きな効果を示すのです。新任のリーダーは、どこで手を引くべきか、どこに集中すべきか、そして自分のリーダーシップのレパートリーに何かを加える必要があるかを理解することで、より早く足場を固めることができます。

2.複雑な問題に直面した時に寄り添う:フライトに同乗する

新たな課題に直面した時、エグゼクティブは矛盾した対応をすることがあります。彼らは自ら積極的に助けを求めることはほとんどありませんが、こちらから尋ねると「もっと助けが欲しかった」と口をそろえて言うのです。

では、なぜ助けを求めることを躊躇するのでしょうか?それは、それぞれの役割が複雑だからです。エグゼクティブともなると、置かれている状況を十分に理解していない人がサポートすることは難しくなります。しかし、エグゼクティブが悩む原因を特定する調査を行い、その結果、プレッシャーとなる4つの要因に焦点を置いて、早急にサポート体制を構築すれば、彼らは危ないと思った時点で速やかにリセットボタンを押し、成功を加速するために調整し、よくある落とし穴を回避できることがわかりました。

サポートはエグゼクティブ個人のスピードに合わせて行うことができます。しかし、ほとんどが支援を求める方法を知りません。そのため周囲がサポートを提供しなければならないのです。

3.社内コーチング:”自ら解決しろ”は時間と費用の無駄

エグゼクティブにまで昇進した人は、大抵非常に意欲的で、成功慣れしています。そのため、コーチングすることやコーチングを受けることの重要性を忘れがちです。コーチングは、管理職にとって重要なスキルです。それなのに、なぜエグゼクティブレベルになると忘れてしまうのでしょうか?

理由はいくつかあります。1つは時間的な問題。2つ目は文化的背景です。上層部は、自分の時と同様に、新任エグゼクティブにも自身で解決することを期待しています。

もう1つの理由は、昇進時のエグゼクティブがどれほど苦労しているか、多くの上層部が気づいていないことです。ほとんどの新任エグゼクティブは、弱点を認めることで仕事や信用を失うのではないかと心配し、悩んでいます。そのため、手遅れになるまで何も言わないのです。

しかし、失敗率の高さが示しているように、非常に多くのエグゼクティブが自力で解決できていません。上層部こそ、自らのコーチングと人材開発のスキルを磨くことが重要です。さもなければ、膨大な時間や費用、才能を無駄にしてしまう可能性があるのです。

4. 社外コーチング:積極的に落とし穴を避ける

エグゼクティブへの移行に悩むリーダーに最も必要なのは、社外のエグゼクティブ・コーチです。社外のコーチになら、自分のキャリアパスに影響が出ることを恐れずに、課題をより正直に話すことができます。

さらに、社外のコーチからは客観的な視点が得られます。多くの場合、エグゼクティブは内向きになりすぎて、このような問題を抱えているのは自分だけだと思い込んでいます。そして、状況が良くならないと自分を責めてしまうのです。

しかし実際には、ほとんどのエグゼクティブが同じような落とし穴に陥っています。何百人ものエグゼクティブを見てきたコーチは、新任のエグゼクティブが陥りやすい落とし穴をすぐに見つけることができます。そして、この複雑な課題を乗り越えるために、戦略を立てる手助けをしてくれます。

注意しなければならないのは、ほとんどの企業がエグゼクティブの状況に気づくまで、時間がかかりすぎているということです。私たちのもとに、エグゼクティブをサポートしたいという企業からよく連絡があります。しかし、連絡を受けた時点ですでに何をやっても抜け出せないほど、深い落とし穴にはまってしまっていることがあります。だからこそ、積極的に落とし穴を回避するための「エグゼクティブ・トランジション・コーチング」が重要なのです。

5. サクセス・プロフィールの設定:不明確な基準は誰の役にも立たない

昇進に成功したエグゼクティブは、「成功とは何かを知っている」ということをよく言います。何が評価されるのか、どんなスキルセットが必要なのかを、知っているのです。

このようなイメージをしっかり描いている企業は、最適なサクセス・プロフィールを構築しています。これはエグゼクティブが職務に就く前に行うことが理想的です。そうすれば、スキル、知識、コンピテンシー、性格などの属性が、企業の成功イメージに最も近い人を採用することができます。

しかし、役職に就いた後も、その職位における成功がどのようなものであるかを具体的に確認できれば、エグゼクティブに染みついた、成功に対する古い考え方から脱却するのに役立ちます。例えば、オペレーション・リーダーとして、業務の細部に注力して実行することで成功を収めてきた人も、より戦略的な役割を担うようになると、それに加えて、長期的な計画や変革を行うためのリーダーシップスキルが必要となるでしょう。サクセス・プロフィールがあれば、彼らがどのようなタイプのリーダーになるべきかの全体像を把握できるのです。


 エグゼクティブを社内から登用した場合と、社外から採用した場合の違い

基本的なことですが、エグゼクティブへの移行においては、社内登用か社外採用かということが重要な要素の一つとなります。冒頭で述べたように、最近の調査では、社内から登用されたエグゼクティブで、人事部から失敗と見なされているのは35%であるのに対し、社外から採用された場合は47%にものぼることがわかりました。

それでは、外部からは絶対に採用してはいけないのでしょうか?もちろん、そんなことはありません。

経験上、困難を伴う変革が必要なときには、社外からのエグゼクティブのほうがパフォーマンスを発揮する傾向があります。彼らのほうが、”なぜこのやり方でやっているのか?”と、これまでのやり方に疑問を投げかけ、革新的な発想や手法を提示してくれる可能性があるからです。

しかし、失敗する確率が高いという事実は避けられません。社外から採用されたエグゼクティブの多くが、特に未経験の業界に来た場合、ビジネスの全体像を理解することができずに苦労しています。また、人脈の構築や社内政治などの厄介な課題にも直面しています。

一方、社内で採用した人材は、すでに業界知識や人間関係のベースができあがっています。周囲の人間も、彼らの行動を長年にわたって見てきています。それでも、現状を打破するのに苦労することがあります。また、チームに新しいアプローチをもたらすような外部の視点が欠けている場合もあります。

注意すべきは、これらの統計は人事部の認識に基づいているという点です。社内で昇進したエグゼクティブは、たとえビジネスで成果を上げることができなくても、成功とみなされる場合もあります。一方、社外から来た人材は、事を荒立てていると捉えられ、失敗とみなされる可能性が高くなっているかもしれません。

しかしいずれも、何もしなければ高い確率で失敗すると考えられます。早い段階で彼らのニーズに合わせた適切な支援をすることが重要なのです。社外からの人材には、人脈づくりや文化的な適合性を高めるためのサポートが、一方社内昇進者には、より革新的な考え方を身につけるための支援が必要となるでしょう。

成功するか否かは、彼らがどこから来たかによって左右されるものではありません。移行期の支援が、その後の成功の助けとなるのです。

今からでも遅くはありません。

今回の調査で明らかになったのは、エグゼクティブの失敗の確率が高いのは、能力が不足しているからではないということです。多くの場合、十分なサポートを受けられないまま、あまりにも早くその役割に投入されてしまうことが原因なのです。そして、彼らが非常に優秀であるがゆえに、多くの企業は手遅れになるまで必要な支援ができていないのです。

サポートのタイミングとして理想的なのは、エグゼクティブが就任する前、もしくは移行中です。しかし、職務に就いてからしばらく経っていても、先に述べた5つの重要なサポートのうち1つ以上を受けることで、効果が期待できます。秘訣は、ビジネスが低迷し苦情が大きくなるまで待たないことです。

優秀で才能があっても、すべてを兼ね備えた人はいません。誰もがアキレス腱を持っています。重要なのは、手遅れになる前に、エグゼクティブ自身が自分のアキレス腱を見つけられるよう手助けをすることです。

そして忘れてはならないのが、 彼らは将来のC-suiteの候補となる存在だということです。経営責任者になるまでサポートを続ける必要があります。彼らの洞察力やスキルは、企業全体の責任を負う立場になったときに、大きな利益をもたらすでしょう。

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