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経営幹部がバルネラビリティによるリーダーシップを実践しなければならない理由

なぜ、バルネラビリティによるリーダーシップが必要なのか?

私のお客様である自動車部品製造会社では、バルネラビリティ(感情的な弱さを見せること)によるリーダーシップという組織文化はありませんでした。私がコーチングを行った経営幹部の間では、感情の繊細さにあまり価値を置いていませんでした。しかし、彼らが不快な人だったというわけではありません。

むしろ、彼らは自身の責任の重みを強く感じていました。自分たちが最良の方法でチームをサポートするには、すべての答えをもちあわせている必要があり、そのために高額の報酬を得ているのだと思っていました。

ある経営幹部は、どうすればよいのかわからないほど大きな課題に直面しました。コスト削減策を重ねてチームの支出を徹底的に抑えましたが、CEOからさらに800万ドルの予算削減を命じられたのです。大勢の従業員を解雇する以外には名案が見つからず、途方に暮れていました。

そこで珍しく弱気になった彼は、自分の配下のエグゼクティブチームにこの問題を提起し、初めて「どうしたらいいかわからないので、みんなに助けてほしい」と伝えました。すると、彼らはすぐに仕事に取りかかってくれました。

その結果、彼のチームでは800万ドルのコスト節減の方法を見つけただけでなく、一人も解雇することなく、その倍の成果を上げることができたのです。

これは彼にとって、疑念が一掃される瞬間でした。自分が最も弱いと感じていたときに、実は他者を率いる力を最も発揮していたのです。この出来事が、彼のチームのダイナミクスを永続的に変えました。メンバーは突然、問題を解決し、大きな目標を達成するために互いに助け合い、より緊密に協力し合うようになったのです。

バルネラビリティは実際に大きな利益をもたらすということが明らかになりました。

バルネラビリティによるリーダーシップとは何か?

バルネラビリティによるリーダーシップという考え方は、ずいぶん前からありました。大成功を収めたブレネー・ブラウン氏の「The Power of Vulnerability(傷つく心の力)」と題したTEDトークや、ダニエル・コイル氏の「THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法」をはじめとする、このトピックに関するさまざまな書籍、さらにジェイコブ・モーガン氏の「Vulnerable Leader Equation」のような素晴らしいモデルもあります(余談ですが、私たちはジェイコブと共同で、バルネラビリティによるリーダーシップに関する興味深い研究を行い、近々出版される彼の書籍で取り上げられる予定です)。

これらはすべて有用な情報源です。私はバルネラビリティと優れたリーダーシップとの関連性についての研究をさらに掘り下げていくことを強くお勧めします。

実際の用途としてシンプルに定義すると、経営幹部にとって、バルネラビリティによるリーダーシップとは、自分の欠点や課題をチームと共有する勇気をもち、「よくわからない、助けてほしい」と言えることです。

これは簡単なことに聞こえるかもしれません。そして、ほとんどの経営幹部は、「自分たちはすでに実践している、職場で真の自分を見せている」と言うでしょう。

しかし、エグゼクティブ・コーチが押さえるべき重要なポイントは、「あなたが最後に本当にわからないと言ったのはいつですか?」「解決策を見つけるためにもっと助けが必要だと言ったのはいつですか?」などと確認することです。 経営幹部は明確な例を挙げるのに苦労することがよくあります。なぜなら、彼らはやっているつもりでも、実際にはやっていないからです。そして、バルネラビリティを実践するのは、驚くほど難しいのです。

経営幹部は、バルネラビリティの考え方は好むが、実践しない

バルネラビリティによるリーダーシップという考え方が広まるにつれ、多くの経営幹部がこれに賛同するようになりました。少なくとも、他の人が弱さを見せることに関しては好意的です。しかし、自分がそれを実行するとなると、まったく違う話になります。

私たちが行った「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023」調査によると、経営幹部の24%が、職場で他人に弱みを見せることをいとわないと回答しています。また、48%が自分自身の失敗や欠点を受け入れていると回答しています。

しかし、直属の部下の見解はまったく異なっています。経営幹部の配下のリーダーのうち、上司は感情的な弱さを見られることをいとわないと回答したのはわずか13%で、経営幹部は自らの失敗や欠点を真摯に認めていると回答したのは26%でした。

一方、組織の下位層のリーダーほどバルネラビリティを示すのに苦労している傾向が見られましたが、その直属の部下は、彼らは日常的にバルネラビリティを示していると回答していました。

このデータから明らかなのは、経営幹部の役割を担うようになると、変化が起こるということです。彼らはリーダーシップにおけるバルネラビリティという概念をより意識し、その考えに嬉々として賛同しているように見えますが、実際にはそれを実行しているわけではないのです。

経営幹部にとって、バルネラビリティが難しい理由

エグゼクティブ・コーチングの一環として、私はある人事担当者に、なぜ経営幹部は弱さを見せることにこれほど苦労しているのだろうかと尋ねました。彼女は目を丸くして、「彼らには二つのエゴがあるからです。一つは、答えをもっていないことや常に正しくなければならないことに対する恐れ、もう一つは組織で一番賢い人間になろうとしていることです」と言いました。

この人事担当者は、間違ってはいません。エゴは弱さを見せる際の大きな障壁となりますが、誤った捉え方をされることがよくあります。私たちは、ある人のことを非常に傲慢で、自分が間違っている可能性を考えられない人だと思い込んでしまうことがあります。私もこれまでに、このような経営幹部に会ったことはあります。しかしそれは稀なケースです。

むしろ、私がコーチングをしたCOOのような人のほうがよく見受けられます。彼は重度のインポスター症候群(仕事で成功しているにもかかわらず、自分を過小評価してしまう心理傾向)でした。自分に資質がないと思われるのを恐れて、パニック発作を起こすほどでした(実際には、彼は私がこれまで一緒に仕事をした人の中で最も有能な経営幹部の一人でした)。しかし彼は、もし「わからない」と言おうものなら、会社が自分をクビにする口実になると思い込んでいました。それどころか、友人や家族に自分が失敗したことを認めなければならなくなるのが一番辛いと思っていました。

すべての経営幹部がインポスター症候群に陥っているわけではありませんが、多くはこのCOOと同様に、失敗することへの恐れ、無能だと思われることへの恐れ、他人から低く評価されることへの恐れに駆られています。

経営幹部の多くは、あらゆる物事に対して正しい答えをもつことで、その地位を築いてきました。そして多くの場合、彼らは社内で最も優れた人ですが、正しい答えが成功するための唯一の方法になり、それがなければ自分の存在価値は何かと考えるようになります。

そこにエゴが生じます。彼らが完璧であろうとしているのは、自分が完璧だと思っているからではなく、ミスをしたり弱みを認めたりすると、自分自身の捉え方や組織に提供する価値と相反することになると考え、バルネラビリティを避けているのです。 しかし皮肉なことに、そのバルネラビリティの欠如が逆に彼らの成功を最も妨げているのかもしれません。

自分の弱さを見せることで信頼は損なわれるのか?

私が経営幹部とバルネラビリティについて話すときによく聞く共通の懸念事項の一つは、チームからの信頼と信用を失うことです。すべての答えをもっているわけではないと明かしたら、会社の最も重要な戦略を率いる自分たちを誰が信頼するだろうか?と思ってしまうようです。

彼らが信頼の失墜を懸念するのは当然のことです。私たちの調査「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023」では、自社の経営幹部を信頼していると回答したリーダーはわずか32%にすぎませんでした。

しかし、リーダーが日常的に自分の弱さを見せている場合、従業員がリーダーを信頼する確率は5.3倍になることも示されています。また、自分自身の失敗や欠点を真摯に認めるリーダーを信頼する確率は7.5倍高いことも明らかになっています。 その理由は、リーダーが自分の弱さを見せることは、他者が自ら答えを見つけるプロセスに導くことになるからです。また、恥ずかしさや失敗を恐れることなく、安心して自分の考えを表現できる「心理的安全性」が保たれた環境も作り出します。ダニエル・コイル氏の著書「THE CULTURE CODE」の中で言及されているように、心理的に安全な環境こそが、あらゆる高業績チームに共通する重要な要素であることが、幅広い研究によって明らかになっています。

個人のバルネラビリティの欠如がビジネスの脆弱性を生む

経営幹部の中には、チームに対して弱さを見せることがパフォーマンスや問題の解決につながるという考えを最終的には受け入れる人もいます。しかし、自分より上位層の経営幹部や最高経営幹部に対して弱さを見せるのが難しいことはよくあります。

このようなバルネラビリティの欠如は、ある非常に大きな問題を引き起こします。それは、経営幹部が最も重大な問題の解決を避けるということです。彼らは自分たちがどうすればよいかを知っていることを重視し、解決方法がわからないことについて話すのを回避します。

最近、私はあるグローバル製造会社のCEOにこのような事態が起こるのを目の当たりにしました。そのCEOは才気あふれる、社内の誰よりも優秀な人でしたが、大きな問題を抱えていました。その会社はアメリカに本社を置きながら、ほとんどの業務はアジアに分散しているのですが、アメリカにいる従業員とアジアにいる従業員との関係は険悪で、離職率が高い状況でした。

CEOはこの問題を解決する方法がわかりませんでした。しかし、どれほど助けを必要としているかを打ち明けずに、自分が解決できる他の課題への対処に注力しました。彼は取締役会で離職率に関する質問が議題にあがると何度もかわし、ビジネスの他の問題を解決すれば、離職率の問題も解消すると期待しました。しかし、そうはならず、彼は長期にわたる業績不振の末に解任されました。

残念ながら、このCEOのような話はよくあることです。私たちの多くは、自分が不快に思うこと、あるいは理解できないことに対処するのを避ける傾向があります。個人的な弱さから逃げようとするのは人の性ですが、重要な決断を下す経営幹部がこのような行動を取ると、組織にとって深刻な脆弱さとなるのです。

経営幹部はバルネラビリティをどの程度示すのが適切か?

では、バルネラビリティの誤った認識を明確にするところから始めましょう。
バルネラビリティとは、以下のようなことではありません。

  • 自信の欠如:「自分が何をしているのかまったくわからない」
  • 悲観的な態度:「そんなことができるわけがない」
  • 自虐的になりすぎること:「私はテクノロジーに関しては、なんの知識もない」

バルネラビリティとは、以下のようなことです。

  • 「どのようにしてこれをやり遂げるのがよいかはわからないが、私たち全員で、必ず適切な解決策を見つけることができるはずだ」
  • 「これは私にとって未知の領域なので、みんなと一緒に学ぶ必要がある」
  • 「あなた(またはあなた方)はこの領域の専門家なので、私はあなたから学び、その専門知識を活かして、私たちを正しい方向に導いてほしい」
  • 私が初めてこの職務(以前の職務)に就いたときは何もわからなかったが、こうして状況をコントロールしながら、徐々にうまくできると思えるようになった」

経営幹部として、バルネラビリティによるリーダーシップを発揮するには

  • 360度診断のデータを活用する:経営幹部を対象に360度診断を実施している場合は、不慣れな状況に対するアプローチを他の人がどのように受け止めているかについての質問も加えましょう。たとえば、他者に支援を求めているか?他者と協力し合っているか?特定の分野で専門知識がない場合、他者から学ぼうとするか?
    360度診断は、経営幹部が他者からどのように見られているか、またそれが本人の意図と一致しているかどうかを把握するのに役立ちます。
  • 性格診断を取り入れる:経験豊富な専門家からのフィードバックを伴う性格診断は、経営幹部が特定の状況下でなぜそのような反応をするのかについて、「目からうろこが落ちる」瞬間を得るのに役立ちます。また、この診断は、後にエグゼクティブ・コーチが使用することで、リーダーがバルネラビリティを避ける生来の傾向と、それがどのように仕事に表れるかを理解するのに役立てることができます。
    ※注意点:特に経営幹部には、適切な性格診断を使用する必要があります。経営幹部には、その役割のニュアンスを反映したデータが必要です。簡易な性格診断ツールや、単に人を性格タイプに分類するような性格診断ツールは役に立ちません。
  • エグゼクティブ・コーチとともに深い洞察を得る: エグゼクティブ・コーチは、さまざまな手法(質問、ロールプレイング、フィードバックなど)を用いて、謙虚さ、包容力、誠実性を示す行動に焦点を当てることで、経営幹部が抵抗なくバルネラビリティを示すことができるように促します。コーチはまた、経営幹部が選んだ言葉が、バルネラビリティによるリーダーシップを実践するのにどのように役立つのか、あるいは妨げるのかを認識する一助となります。

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執筆者:リッチモンド・フォーミー DDI社エグゼクティブ・コンサルタント 心理学博士

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