2024年の4つの重要なリーダーシップ・トレンド
2024年の重要なリーダーシップ・トレンド
DDIは毎年、次年度に職場に影響を与えそうなリーダーシップ・トレンドを探っています。その結果、今年はこれまでとは異なる傾向がみられました。ここでは、2024年の重要なリーダーシップ・トレンドを紹介しますが、その根底にある人間的なテーマ、特に信頼の構築は、これまで以上に重要になってきています。
仕事上のプレッシャーや変化が大きくなっているだけでなく、変化のスピードに追随していくのも難しくなり、世界的な不安や不確実性も高まっています。
世の中が不安定な時期には、周囲の人々に安定感が必要となります。私たちは、リーダーが将来への強いビジョンをもつことを願い、彼らが有言実行すると信じなければなりません。
しかし、リーダーへの信頼は低下しています。グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023(GLF)調査によると、自分の上司が正しいことをしていると信じているリーダーは半数以下でした。また、組織の経営幹部を信頼していると回答した人は3分の1以下でした。
さらに、PwCの最近の調査「PwC’s 2023 Trust Survey」でも示されているように、経営幹部は、顧客や従業員からどの程度信頼されているかについて、過大評価しています。また、彼らは、信頼構築の最大の課題は組織文化であると言及しています。実際、自社のリーダーは信頼を得ることに注意を払っていると回答した従業員は、わずか34%でした。
だからこそ、2024年のリーダーシップ・トレンドである「人々が信頼できる文化や環境を醸成すること」は、リーダーが直面する複合的な問題よりも重要なのです。
2024年に向けた調査を続けると、組織が4つの重要なトレンドに対処するために、真剣にリーダーへの投資を行わない限り、信頼に関する数値は低下することが予想されます。
トレンド1:生成AI
生成的人工知能(生成AI)の経済的可能性は計り知れず、人々の恐れや不安も大きくなっています。
すでに多くの従業員が、AIによって職を追われるのではないか、AI主導の職場についていけなくなるのではないかと恐れています。また、雇用主がAIを使ってどのように自分を監視しているかという心配をしているかもしれません。例えば、雇用主が、自分の知らないうちに、仕事ぶりや昇進の可能性について密かに判断しているのではないか?あるいは、組織がAIを使用することで全体的にどのような影響が及ぶかを懸念しているかもしれません。では、私たちは倫理的にAIを使用しているでしょうか?AIをどのように使っているかを顧客に伝えているでしょうか?
技術、営業、マーケティング、財務など、各部門のリーダーは、生成AIの倫理的な使用に取り組む必要があります。
このような不確実な中では、従業員がリーダー、特に経営幹部を信頼することがより重要になるでしょう。
トレンド2:ハイブリッド型勤務とオフィス勤務の復活
CEOは、従業員のエンゲージメントと定着が経営上の最大の懸念事項であると述べています。しかし、オフィス勤務に戻すことに関して、経営幹部と従業員との間で意向のギャップが広がっています。これは、経営トップが従業員とのつながりをもたず、どのようなインセンティブが従業員の定着に役立つかを理解していないことを示しています。
多くのリーダーは、オフィス勤務を推進する理由として、コラボレーション、フィードバック、チームワークの重要性を挙げています。しかし、従業員は、上司が在宅勤務の生産性を信用していないのではないかと疑念を抱いています。その結果、リーダーに対する信頼が低下しているのです。
さらに、リモートワークが継続されるという通知が組織から届いたことを受けて、転居や育児の変更といった私生活や金銭面にかかわる重大な決断をした従業員は、裏切られたと感じるかもしれません。このような方針を、特に短期間で、ほとんどコミュニケーションを取らずに覆すことは、信頼を大きく裏切る行為となります。
トレンド3:ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)
ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)の取り組みが徹底して遂行されていないことも、従業員にとっては重要な問題であり、信頼を失う要因となっています。2020年には、DEIへのコミットメントを強く宣言する組織が大幅に増加しましたが、この1年で、そのようなコミットメントから遠のいたり、完全に放棄したりした組織も少なくありません。
MSC/DDIの調査によると、自社のDEIへの取り組みを支持するリーダーの割合は、2020年の調査から18%減少しています。また、女性やマイノリティグループのリーダーも減少しています。
ダイバーシティ・プログラムがうまくいかない理由は多くあります。特にリーダーシップ開発に関しては、DEIと他の従業員の育成や文化に影響を与える取り組みがつながっておらず、断絶されていることがよくあります。
2024年に向けて、先見性のある組織は、リーダーシップ・トレーニングを含めたすべての業務にDEIを組み込み、関連性をもたせることに、より注力するようになるでしょう。
トレンド4:政情不安
国際的な紛争は、従業員の日々の関心事になりつつあります。特に紛争が起きている地域と個人的なつながりがある場合、こうした懸念は従業員の心に重くのしかかります。
世界的な情勢不安に加え、米国の大統領選挙の年には、職場に強い対立感情がもたらされ、個人間での衝突が生じる可能性があります。極端な意見対立があると、機関への信頼が低下する傾向があります。
リーダーは、このような難しい問題がチームの日常生活に及ぼす影響を考慮し、対処していかなければなりません。そして、自分の意見を他人に押し付けることなく、このタフな任務に取り組む必要があります。
職場から“政治的な”話題を禁止したいと思うリーダーもいるかもしれませんが、それは現実的ではありません。また、チーム内での信頼の構築やエンゲージメントの向上にも役立ちません。むしろ、チームメンバーが抑圧され、自分の意見を言えなくなる可能性が生じてしまいます。 それよりも、リーダーは共感を示し、議論のための健全な境界線(自分のメンタルおよび感情面のバランスを健全に保つために、必要に応じて自分のために作る“ライン”のこと)を設けることに焦点を当てるべきです。その境界線には、互いに敬意を払うことも含まれます。リーダーは、心から相手に興味をもち、強い感情を理解するために質問することを奨励しなければなりません。同時に、不適切な発言を認識し、対処する必要もあります。
2024年に向けて信頼を築くためにリーダーがすべきこと
2024年のリーダーシップにおける4つのトレンドは、これからリーダーが直面する多くの課題と機会を象徴しています。2024年に向けて、あらゆる組織が変革の方法を模索していますが、これらの課題に対処する戦略が何であれ、リーダーが信頼を築くことはこれまで以上に重要になると予測されます。
著名な経営者であり作家のセス・ゴーディン氏は、かつて次のように言いました「Earn trust, earn trust, earn trust. Then you can worry about the rest(信頼を勝ち取り、信頼を勝ち取り、信頼を勝ち取る。それから残りのことを心配しても遅くないのです)」。
ここで、2024年にリーダーが信頼を築くための4つの方法を紹介します。
- 懸念を表す際の心理的安全性を築くことに重点を置く。これはダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)や政治的不安に対処するうえで、特に重要です。
- 参画を通じてイノベーションを促進する。信頼関係を構築するために、新しく困難な課題に対処し解決する役割をチームメンバーに担ってもらいます。ここから、組織がより良い解決策を見つけ出すことにつながる可能性もあります。
- インクルージョンを習慣化する。インクルージョンは、ビジネスの他の部分と切り離し、単独の取り組みとして設計するものではありません。リーダーが日々の業務において当然のように行うべきものです。
- 意思決定の根底にある考え、感情、根拠を共有する。MSC/DDIがあらゆるリーダーに提唱している「基本原則」のひとつに、”考えや感情、結論の根拠を共有する”があります。これは、リーダーは自分の行動の背後にある”理由”を共有することで信頼を築くことができるというアドバイスです。従業員は、その根拠を知ることで変化を理解し、支持するようになります。
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■執筆者:DDI社 行動研究分析センター(CABER)ディレクター兼グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト プロジェクト統括責任者 ステファニー・ニール氏
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