上級管理職の価値~組織に与える4つの重要な影響~
上級管理職の存在意義
経営層と初級・中級管理職の間にいる上級管理職は、職場において、しばしば悪い評判をもたれることがあります。彼らは軽視されがちで、あまり支援を受けられず、「上下の間に挟まれて」しまうのです。
つまり、上級管理職は非常に難しい役割を担っています。彼らは、上司である経営幹部と、部下である初級・中級管理職の両方に配慮しなければなりません。トップダウンの戦略実行を推進しながら、初級・中級管理職のモチベーションを高め、仕事を遂行するために必要な支援を提供することも求められます。この仕事がいかに過酷かは言うまでもありません。
その上、上級管理職の存在価値自体が疑問視されることもあります。リストラが必要な状況になると、真っ先に上級管理職が解雇されるケースは多いのです。
しかし、組織が上級管理職を排除するのは大きな過ちです。上級管理職がいなければ、組織は変革を推進するのに必要なリーダーを欠くリスクを抱えることになります。変革を推進するリーダーは、現代のビジネスで生き残るために不可欠です。 本コラムでは、上級管理職の役割を定義し、優れた上級管理職が組織にもたらす大きな価値をお伝えします。また、戦略を成果に変えるという上級管理職特有の立場を踏まえ、彼らを育成し、成功に導くための最善の方法についても解説します。
上級管理職とは
上級管理職とは、部門長、事業部長、本部長など、初級・中級管理職と経営幹部との間に位置する役職を指します。一般社員を管理する初級・中級管理職の上司として彼らを管理する役割を担っていますが、経営幹部の一員ではありません。
上級管理職の役割範囲は多岐にわたります。チームのトレーニングや育成、業績管理を担当する場合もありますし、これらの業務は他部署に委ねている組織もあります。 管理する部下の数は組織によって異なりますが、特にパンデミック後は戦略的変革により組織のフラット化が顕著になりました。その結果、上級管理職と経営幹部の責任範囲が曖昧になりつつあります。

上級管理職は、戦略を実行に移す際の要となり、経営幹部の指示を現場に伝える仲介役として機能します。また、実務的な成果だけでなく、組織文化にも大きな影響を与え、インクルージョンを推進する重要な役割も果たします。
では、今日の上級管理職が実際に担っている責任とは何でしょうか?また、彼らが組織にもたらす価値とはどのようなものでしょうか?
ここでは、上級管理職が組織にもたらす4つの重要な価値をご紹介します。
上級管理職が組織にもたらす4つの価値
DDIの調査やアセスメントのデータ、および世界中の組織との協働経験に基づき、上級管理職が最も影響を与える4つの領域をご紹介します。

1.ビジネスのスピードに合わせて、変化を加速させる
上級管理職は、変革を加速させるカタリストとしての役割を果たします。ビジネスがかつてないスピードで変化している今、優秀な上級管理職がいなければ、組織が前進したり、新しいことに挑戦したりする際に必要な統率力を欠く可能性があります。組織には、複雑な状況をうまくコントロールしながら、迅速に変革を推進できる上級管理職が必要です。 たとえば、ハイブリッド型勤務の導入やデータプライバシーに関する法改正による新たな課題について考えてみてください。上級管理職は、経営陣とともに戦略を議論するのと同時に、その戦略を組織全体にわかりやすく伝え、実行に移すというプレッシャーに直面します。また、組織の目標に向けて全員が前進し続けられるように、同僚やチームをサポートする役割も担っています。

2. 複数のチームを動機づけ、力を与える
上級管理職が大きな影響力を発揮する2つ目の領域は、多方向からの期待に応えることです。これには、複数のチームとの連携や、部門間の垣根を越えた取り組みが含まれます。上級管理職は、チームのエンゲージメントを高め、力を与える必要がありますが、管理するチームの専門分野によって異なる戦術が求められます。たとえば、私はあるヨーロッパの小売企業の財務部長と仕事をしているのですが、彼は正式に5カ国の財務コントローラーとマネジャー、そして、財務システムの管理者を含む6つのチームを管理しています。さらに、法務、ファッション、デザイン、営業、マーケティング、生産といった6つの非公式チームにも影響を与え、関与することも求められています。これらすべてのチームと密接に連携しなければ、財務部門で自らの目標を達成できません。そのため、彼は6つのチームメンバーだけでなく、約20人のマネジャーを率いて、全員を同じ方向に導かなければなりません。 この例は珍しいものではありません。多くの組織がマトリクス型の組織形態を採用している現在、上級管理職には、自分のチームを超えて、他のチームに影響を与える大きな機会があります。影響力のあるリーダーは、組織に多大なインパクトを与えることができるのです。

3. 可視性とバルネラビリティにうまく対処する
数年前までは、注目を浴びるのは経営トップだけだと考えられていました。組織が経営目標を達成できなければ、経営陣の職が危うくなる可能性があるとされていました。しかし、今ではそのプレッシャーが上級管理職にも及んでいます。上級管理職のパフォーマンスがより可視化されることで、新たなバルネラビリティが生まれ、これが彼らの疲弊につながっています。スラック・テクノロジーズ社のFuture Forumの調査によると、上級管理職は組織の中で最も疲れ果てていることが示されています。先日、ある上級管理職のグループと話をしたとき、そのうちの一人が「もし私の部門が成果を上げていないと会社が判断したら、私は解雇されるかもしれない」と述べていました。上級管理職の成果がより注目される一方で、彼らがやるべきことや直面する課題は見えにくくなることがよくあります。別の上級管理職は、「取締役会は私が行っていることをすべて見ているわけではないので、私を足手まといだと思っているかもしれない」と話していました。 業務や行動を可視化し、バルネラビリティを示せる上級管理職は、組織の成功に貢献しやすくなります。たとえば、イノベーションを加速させるべく、リスクを恐れず挑戦する可能性が高まります。また、迅速な意思決定により、変革を促進することもできます。バルネラビリティを示す上級管理職は、チームを迷わせることなく、優れたリーダーシップ行動の模範となっています。誠実なリーダーはバルネラビリティを示すことで、チームとより強い信頼を築いていけるのです。

4. 複雑な組織ネットワークをリードする
現在、上級管理職には、組織全体で生産的なネットワークを築き、維持することが強く求められています。複雑なネットワークを率いるスキルは、組織を活性化させ、問題を迅速に解決するのに不可欠です。たとえば、問題解決のためには、他者がどのような状況に置かれているかを理解する必要があります。また、深刻な状況で緊急に支援が必要な人に、迅速に対応することも重要です。最近、グローバル・セールス部門の責任者と仕事をしたのですが、彼女はその職務に就いたとき、組織内の他の上級管理職に連絡を取り、アドバイスを求めたそうです。その後、数ヶ月ごとに他のリーダーたちとも意図的に関係を築き続けました。この関係構築が功を奏したのは、彼女の最大のクライアントが深刻なデータプライバシーの問題に直面したときでした。彼女はデータセキュリティの責任者とつながりがあったため、すぐに支援を求めることができました。そして、1時間もしないうちにトップクラスの技術者がクライアントの元に駆けつけ、対応してくれました。もし彼女がデータセキュリティの責任者と関係を築いていなければ、これほど早くクライアントを助けることはできなかったでしょう。組織のネットワークを構築する機会を逃すのは簡単ですが、有能な上級管理職は、進歩を促進させるために、これらの重要なネットワークを築く時間を確保しています。
上級管理職を成功に導く方法
優秀な上級管理職は、次のような方法で組織に大きな影響を与えることができます。
- 変革を成功裏に推進する
- 複数のチームに力を与える
- 可視性とバルネラビリティに対処する
- 複雑な組織ネットワークをリードする
しかし、上級管理職がこれらの領域で優れているかどうかは、どのように確認すればよいのでしょうか?残念ながら、彼らはあまり効果的な行動を取れていないことが示されています。MSC/DDIのグローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023調査によると、上級管理職の質を「非常に高い」または「最高」と評価した人事担当者はわずか26%にすぎません。また、上級管理職向けのリーダーシップ開発プログラムの質を「高い」または「非常に高い」と評価した人事担当者も27%にとどまっています。したがって、組織は上級管理職に特化した能力開発プログラムを提供することが賢明です。効果的な上級管理職向けプログラムは、彼らが直面する特有の課題を克服するために必要なスキルを身につけられるよう、綿密に設計されています。

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■執筆者:DDI社 プロダクトマネジメントチーム ヴェリティ・クリーディ
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