心理的安全性向上の鍵をにぎるリーダーシップ開発
─「空気を読まなくてもいい空気」の醸成─
労働環境が急速に変化し、先端技術が次々と業務に導入されていく現代社会において、心理的安全性の重要度が高まっています。また、環境変化が激しい時代には、従業員が職場でメンタル不安を感じる可能性があります。心理的安全性を確保するために、企業は、従業員が職場で成長し、安心して働けるよう環境を整えることが重要となります。さらに、従業員がストレスを抱えていないかをモニタリングし、必要なサポートを提供することも大切です。
心理的安全性の概要
心理的安全性とは
「心理的安全性(psychological safety)」とは、「対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、『無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ』と信じられるかどうか」を意味します。
出典:Google re:Work『「効果的なチームとは何か」を知る』https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness#identify-dynamics-of-effective-teams
また、学術的には、「チームの心理的安全性とは、チームの中で対人関係におけるリスクをとっても大丈夫だ、というチームメンバーに共有される信念のこと」という定義もなされています。
出典:石井遼介著『心理的安全性のつくりかた』p.22より (原典はEdmondson, A. C., & Lei, Z. (2014) Psychological safety: The history, renaissance, and future of an interpersonal construct. Annu. Rev. Organ. Psychol. Organ. Behav., 1(1), 23-43.)
心理的安全性の発展
心理的安全性は、エドガー・H・シャイン教授ら(マサチューセッツ工科大学)によって1965年に原型となる概念が提起されました。その後、エイミー・C・エドモンドソン教授(ハーバードビジネススクール)がチームに適用して発展させた概念です。近年、Google社が「チームが効果的に機能するための最も重要な条件」として位置づけたことで一躍脚光を浴びるようになりました。
心理的安全性の診断項目例
具体的なイメージを持っていただくため、以下にエドモンドソン教授が1999年に発表した、心理的安全性を測定する7つの質問項目を紹介します。
- このチームでミスをしたら、きまって咎められる。(R)
- このチームでは、メンバーが困難や難題を提起することができる。
- このチームの人々は、他と違っていることを認めない。(R)
- このチームでは、安心してリスクを取ることができる。
- このチームのメンバーには支援を求めにくい。(R)
- このチームには、私の努力を踏みにじるような行動を故意にする人は誰もいない。
- このチームのメンバーと仕事をするときには、私ならではのスキルと能力が高く評価され、活用されている。
出典:エイミー・C・エドモンドソン著/野津智子訳『恐れのない組織』p.263※「R(逆転項目)」とは、点数化の段階で得点の高低を逆転させる項目のこと
心理的安全性の効果
心理的安全性の高いチームでは、たとえミスをしたり突飛なアイデアを出したりしても、他のメンバーから叱責されることや、馬鹿にされることはないという安心感を持つことができます。
そのため、メンバーは互いに不安を感じることなく自由闊達な意見交換(健全な衝突)ができ、それが結果としてパフォーマンスの向上にもつながっていくことになります。
心理的安全性を高めるメリット:チームの生産性向上
効果的なチームに求められる要件とは何でしょうか?様々な角度から詳細に分析した結果、Googleのリサーチチームは、「真に重要なのは『誰がチームのメンバーであるか』よりも『チームがどのように協力しているか』である」との結論に至りました。
彼らはチームの効果性に影響する5つの要件(「心理的安全性」「相互信頼」「構造と明確さ」「仕事の意味」「インパクト」)をリストアップし、なかでも「心理的安全性」が“圧倒的に重要”であることを見出したのです。
実際、調査結果では、心理的安全性の高いチームのメンバーは離職率が低く、他のメンバーが発案したアイデアをうまく利用することができ、収益性も高く、マネジャーから評価される機会が2倍多い、といった特徴が明らかにされています。
出典:Google re:Work『「効果的なチームとは何か」を知る』https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness#identify-dynamics-of-effective-teams
心理的安全性を低下させる課題・お悩み
職場が自分なりの意見やアイデアを言い出しにくい環境であったり、グループ意識や偏見・差別意識が存在したりする、もしくは労働環境が過酷であるような場合、心理的安全性は低下します。心理的安全性を向上させるためには、従業員が率直に意見やアイデアを話しやすい環境を整え、派閥意識や偏見・差別意識を取り除き、健康的で安全な労働環境を整備する必要があります。
意見やアイデアを言い出しにくい職場環境
従業員が自分なりの意見やアイデアを言い出しにくいような環境は、心理的安全性の低下に直結します。率直に意見やアイデアを話すことができるように職場の雰囲気を醸成し、環境を整えることは、心理的安全性を向上させるだけでなく、 従業員のエンゲージメントを高めることにも有効です。
組織に潜む対立構造、偏見や差別意識
組織内にグループ意識、たとえば、派閥意識やマイノリティグループに対する偏見・差別意識などがある場合、当事者の心理的安全性に悪影響を及ぼすことが考えられます。
これらの問題が潜在する職場では、従業員は常に不安やストレスを抱えることになります。無用な派閥意識や偏見・差別意識を取り除くべく、組織のリーダーには日頃から心理的安全性を意識したメッセージの発信が期待されます。
過酷な労働環境
過酷な労働環境も心理的安全性に影響することがあります。職場ストレスの高まりに応じて、従業員はイライラ感や不安感などの心理的ストレス反応を強く感じるようになっていきます。
その結果、職場の人間関係にはギスギスした緊張状態が生じることになります。従業員が健康で安全に仕事に取り組めるよう、組織は労働環境を整えておくことが大切です。
心理的安全性向上のポイント:リーダーシップ開発
エドモンドソン教授によれば、文化や価値観の多様化が進んだ現代社会において、組織は「実行するための組織」から「学習するための組織」への変革を余儀なくされています。
出典:エイミー・C・エドモンドソン著/野津智子訳『チームが機能するとはどういうことか』
「実行するための組織」とは、計画や役割分担、予算、スケジュールの確実性を重視し、見込まれた成果の達成に向けて従業員を管理していく組織を指します。一方、「学習する組織」とは、メンバーの認識を変え、創造力を伸ばし、それまでできなかったことをできるようにする組織です。
「学習するための組織」への変革に必要なのは、協働と学習の活動プロセスによる「チーミング」という働き方です。チーミングとは、複雑で不確実性の高い状況下において、共通の目的のもと、チーム外の人々とも絶え間なく協働しながら課題解決を目指す取り組みを指します。そして、チーミングの定着には、学習を促す環境づくりに向けたリーダーシップの存在が不可欠です。
心理的安全性の向上に向けて求められるリーダーシップは、
①仕事の中で学習の枠組みを構築していく
②心理的に安全な場(心理的安全性)を作る
③失敗から学習する
④職種や部署を越えて協働する
の4つです。
特に、心理的に安全な場が構築されていれば、失敗を共有し、チームの学習の糧とすることができます。これは、組織の課題を解決したりイノベーションを生み出したりするための重要な要素になります。
心理的安全性の向上にも有効なリーダーシップ開発プログラム
心理的安全性の向上に重要な、「実行するための組織」から「学習するための組織」への変革や、チームのメンバーが心理的に安全だと感じられる組織風土の醸成、効果的なチーミングを実現するには、マネジャーによるリーダーシップの発揮が不可欠です。
心理的安全性の高いチームを構築することができれば、失敗経験の共有や失敗を通じた経験学習が促進され、将来のパフォーマンス向上が期待できます。同時に、失敗に対する不安に由来した心理的ストレスの緩和や、従業員エンゲージメントの向上も期待できるでしょう。
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