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優れたコーチと不適切なコーチ:上司によるコーチングは実際に効果的か?

上司のコーチングにまつわる話題

MSC/DDIの「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023」調査によれば、能力開発の手法として、上司によるコーチングに対する企業の関心は薄れてきている可能性があります。

2021年の調査に比べて、上司からのコーチングを能力開発の手段として望むリーダーは大幅に減少しました。そして、コーチングに関する評価はさらに厳しいものとなっています。望ましい能力開発手法をリーダーに尋ねたところ、最も望まない方法として上司からのコーチングが挙げられたのです。

では、コーチングは、リーダーの間で本当に望まれていないのでしょうか?それとも、リーダーが上司からのコーチングを望まないのには、何か別の要因があるのでしょうか?職場でのコーチングは実際に効果的な能力開発手法と言えるのでしょうか?本コラムでは、これらの疑問の核心に迫ります。

もちろん、先ほど述べたコーチングの人気に関する結果はやや大げさなものです。グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023においては、上司のコーチング・スキルが優れていると回答したリーダーは、その上司からさらに多くのコーチングを受けたいとも報告していることから、何か他の要因が影響していることは明らかです。少し意外だったのは、自分の上司はコーチングに長けていないと感じているリーダーがいまだに多くいることです。

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近年、コーチング・スキルはリーダーとして成功するための一般的な基準となっていることを考えると、これは驚くべきことです。
職場でのコーチングに関する話題は多くの注目を集めています。コーチングはリーダーシップ開発プログラムの重要な要素であり、多くのビジネス・リーダーが念頭に置いているビジネス・ドライバーやサクセス・プロフィールを議論する際に、私たちは常に、他者をコーチングし、育成できるリーダーが必要であると伝えています。
これだけ注目されているにもかかわらず、リーダー、特にリーダーの上司が、チームのために十分なコーチング・スキルを身につけず、コーチングを効果的なものにしていないとは考えにくい状況です。この時点で、「なぜコーチング・スキルが重要なのか?」と疑問を抱く人もいるかもしれません。(そして、この疑問をもっている人たちは、おそらくコーチング・スキルで低い評価を受けた人たちかもしれません。)

では、上司による効果的なコーチングがなぜ重要なのかについて、簡単に探ってみましょう。

なぜ良好な職場にはコーチング・スキルが重要なのか

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コーチングは、何よりもまず信頼の上に成り立つものです。つまり、コーチングを受ける人は、コーチが私にとって最善の利益を考え、成功を促進させることを第一の目的としていると信じているのです。

このような善意の哲学が根底にあるため、リーダーのコーチング・スキルを開発することは、組織内の信頼を築くのに役立つはずです。そしてその信頼がもたらす利益については、チームおよび組織のレベルで、十分な裏づけがあります。

しかし、コーチングから得られるのは、このような信頼の獲得だけではありません。コーチングは、他のリーダーシップ開発施策の投資利益率も増加させることができます。これには、自己学習やオンライン学習プログラム、ファシリテータによる研修、能力開発を目的とした任務が含まれます。

後者について、グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023では「能力開発を目的とした任務」が、リーダーが望む学習手法の第3位に挙げられていることから、この考えは裏づけられます。しかし、それを成功させるには、上司や、能力開発に携わる関係者による社内コーチングが重要です。なぜでしょうか?

コーチングは、学習者が直面した状況に対処した際、自身の考えと行動の効果性を判断する内省の瞬間を引き起こします。その結果、目標を明確に設定し、意図的な行動と努力が促進され、学んだことを職場で行動に移す要因となります。

さらに、能力開発施策の目的がビジネス戦略とうまく整合していると仮定すると、コーチングは、ビジネス戦略を達成するために必要な望ましい行動を促すのに役立ちます。

効果的なコーチングの影響

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前述の通り、直属の上司からのコーチングにおいては、その質が鍵となります。先ほど提示した驚くべき結果、すなわち、コーチングが良質であればその影響は大きく、人々はそれをさらに求めるようになるということが起こるのです。

グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023によれば、上司から質の高いコーチングを受けているリーダーは、
・リーダーとしての明確なキャリア開発の道筋があると感じる確率が4.3倍高くなります。
・優れたリーダーになる責任があると感じる確率が2.7倍高くなります。
・より高い役職に就くために転職する必要があると感じる確率が1.5倍低くなります。

では、良質なコーチングとは何でしょうか?そして、効果的なコーチングがこれほど大きな利益をもたらすのであれば、なぜすべてのリーダーがそれを習得しないのでしょうか?

職場における質の高いコーチングの5つの要素

私は、信頼という重要な要素を強調して、コーチングに関する考察を開始しました。

以下は、この信頼がどのように構築されるのか、質の高いコーチングとはどのようなものなのかという例です。

  1. 成功が最も重要:コーチングを受ける人は、自らの成功が上司のコーチングを駆り立てるものであると信じています。
  2. 優れた傾聴スキル:コーチは、コーチング中に相手から何を感じ、何を聴きとるかに常に注意を払っています。
  3. 共感と勇気:コーチは、相手から行動やモチベーションを引き出すために率直なフィードバックが必要なときを察知する感情知性(EQ)と、それを明確かつ共感的に伝える勇気をもっています。
  4. 謙虚さ:コーチは、答えや解決策を提示するのではなく、より良いものを追求するために自分のエゴを抑える能力をもっています。(コーチングの効果を高めるには、コーチングを受ける人も謙虚である必要があります。)
  5. 好奇心:コーチは最適な質問をし、中立な立場を保ち、コーチングを受ける人の成功の手段を明らかにするために十分な時間を割きます。

では、貴社のリーダーは上記の要素にどのくらい当てはまるでしょうか?これを見て、多くのリーダーが自分の上司を優れたコーチとみなしていないことに驚くでしょうか?

この5つの要素を振り返ると、一つの洞察が浮かび上がってきます。リーダーは、より大きな責任をもつ役割を担うにつれて、効果的なコーチであることがますます難しくなるのかもしれません。彼らは職位が上がるにつれてプレッシャーが増し、多くの新任経営幹部は、ビジネス、自らのチーム、ネットワーク、そして自分自身をリードするという4つの異なるプレッシャーに苦しむようになります。そのため、彼らの多くは優れたコーチになることや、優れたコーチであり続けることが難しくなるのです。

リーダーがコーチとして失敗する理由

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リーダーがコーチとして苦労する原因は他に何があるでしょうか?コーチングを受ける人の成功を担保しながら、個々のスタイル、才能、好みにも配慮することは容易ではありません。特に、あなたが彼らのリーダーであり、独自のテクニックやヒントを駆使して成功を収めている場合はなおさらです。リーダーは、チーム、部門、または組織が成功し続けることにも常に関心をもっています。さらに、時間の制約、ボーナスやストックオプション、給与の増加などの金銭的なインセンティブも加わります。

好奇心旺盛かつ謙虚であり続けることは、特に四半期の締めまでの時間が刻々と迫り、優先事項が山積みになっているときには、まさに言うは易く行うは難しです。その観点からすると、成功のレシピを誰かに与えてそれに従わせる方が、彼らと一緒にそれを見つけようとするよりも効率的であると結論づけるのは容易です。

コーチとしてのリーダーは、問題解決に対して非常に模範的である傾向が高いでしょう。また、自身の能力、知識、知性を示すことに努め、相手の課題解決に対して責任を感じることも多いはずです。これはリーダーとしてのDNAによるものであり、さらに重要なのは、それが彼らが伝統的に成功を収めてきた方法であるということです。

エグゼクティブ・コーチとして大成功を収め、著名な作家であるマーシャル・ゴールドスミス氏は、私の愛読書の一つである『What Got You Here Won’t Get You There(邦題:コーチングの神様が教える「できる人」の法則)』の中で、これらの考えを非常にうまく示しています。

それでも上司はコーチであるべきか?

上司が部下を効果的にコーチングするのが難しいのであれば、リーダーを優れたコーチにしようという考えは捨てるべきでしょうか?

グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023によれば、それは早計かもしれません。ハイポテンシャル人材は、より多くのフィードバックと能力開発の機会を求めており、コーチングはこれらのニーズの両方に応えることができます。さらに、自分の上司が優れたコーチであると報告したリーダーは、彼らからのコーチングをさらに求めています。(ここで示したコーチングの他の利点は言うまでもありません。)

では、このコーチングの難題にどう対処すればよいのでしょうか?私たちはリーダーに、自らの部下をコーチングし育成してもらいたいと願っています。しかし、コーチングの質が十分でない場合、その恩恵を得ることもできません。

ここでは、上司によるコーチングの効果を最適化するためのアイデアを紹介します。

1.上司に適切なコーチング・スキルを習得させる。
本コラムでは、既に優れたコーチになるためのスキルをいくつか紹介しています。これには、傾聴力、共感、感情知性、フィードバックなどのスキルが含まれます。
しかし、優れたコーチは、コーチングを受ける人の目的と、その目的に基づいて最良の結果を得るための具体的な方法を明確にできるよう支援する、コーチングのテクニックも身につけています。弊社のコラムには、従業員をコーチングするための5つのベストプラクティスについて、紹介したものがあります。さらに、リーダー向けに特別に設計されたコーチング・コースもあります。これらのコースは、リーダーが部下と最適な関係性を築き、成長の目標を達成する方法を学ぶのに役立ちます。

2.優れたコーチになるための適切な基礎を身につけたリーダーを選択する。
多くの組織では、リーダーを採用・登用する際にこれらの資質を求めています。しかし残念ながら、まだコーチとしての資質を求めていないか、リーダーのコーチング能力を理解するための適切なツールすら使用していない組織も多くあります。
その背景には、先に述べた優れたコーチの資質や、商業、権力、認識、利他的な価値観の適切なバランスに関わる他の側面も含まれます。このような場合、客観的な評価が役立ちます。

3.適切な診断とフィードバックを繰り返すことで、コーチがどのようにコーチングをしているのか、どのように改善し続けられるのかを知ることができるようにする。
多くの組織でリーダーシップ開発の取り組みがうまくいかないのは、「一度で終わる」ものと捉えているからです。新しく確立されたコーチングの習慣を維持するためには、客観的なフィードバックの継続が必要です。コーチング・スキルに関するコア知識の繰り返しと拡張も極めて重要です。

4.社内コーチとコーチングを受ける人との間に信頼関係が構築されているか不確かな場合は、社外の専門家によるコーチングを導入する。
直属の上司は、部下であるコーチング対象者に対して権限をもっています。そのうえ、部下の立場では入手できないリソースや情報、人脈をもっていることがあります。

これらの要素はすべて、コーチングの関係に支障をきたし、信頼の醸成や透明性を妨げる可能性があります。

コーチとコーチング対象者の間に信頼が欠けている場合、外部コーチの活用を検討したほうがよいかもしれません。また、現在もしくは将来コーチングを行う人がコーチとしての能力を発揮していない場合、またはそれらを開発するための時間やリソース、興味をもっていない場合も、外部コーチを雇うべきかもしれません。

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執筆者:DDI社 豊富な組織心理学コンサルタント チェディ・サディス氏

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