医薬品業界向け人材アセスメント

医薬品業界向け人材アセスメント研修

医薬品業界の現状と動向

日本国内の医療用医薬品市場は、2015年以降10兆円超で推移しており世界第4位(2021年)となっていますが、近年、新たな技術の進展やグローバル化などの影響を受け、大きな変革期を迎えています。新薬ではバイオ医薬品が登場し、ゲノム編集技術による遺伝子治療の研究開発も進められており、臨床における新たな治療の選択肢となることが期待されています。

一方、高齢化社会の進展とともに、日本では国民全体の医療費負担が増加しており、国は医療費抑制のための施策として、薬価の引き下げや後発医薬品の推進を継続的に実施しています。ただ、薬価の引き下げは研究開発費の回収や利益に影響し、製薬会社を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。加えて、海外市場への参入、DXの推進、持続可能なビジネスモデルの構築など、新たな取り組みも求められています。

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出典:厚生労働省 医政局医薬産業振興・医療情報企画課「医薬品業界の概況について 令和4年8月31日 第1回 医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/000982834.pdf

医薬品業界を取り巻く課題・悩み

前述のように、近年医薬品業界は、多くの課題に直面しています。医療用医薬品には新薬と後発医薬品がありますが、新薬が金額ベースでも大きなシェアを占めています。しかし新薬は、特許権の存続期間中に様々な試験や審査などが行われるため、市場導入後、約10年で特許が切れてしまい、その後は大幅な減収が見込まれます。そのため、製薬会社は主力製品の販売を促進するとともに、新薬の開発を加速することが重要となります。ただ、高血圧や糖尿病をはじめとした生活習慣病に対する治療薬の開発が一巡したことから、創薬の難易度は上昇し、有望な開発領域の特定がカギとなっています。さらに、新薬開発には巨額の費用・時間がかかり、製薬会社の負担は増大しています。また、グローバル化への対応、最新のICT技術の活用など、世界での競争力を高めていくことも求められます。様々な課題はありますが、これらを解決することが、日本における医療の質の向上やアンメットメディカルニーズの充足、治療満足度の上昇につながり、新たなビジネスチャンスの創出や収益性の向上をもたらすことが期待されます。

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創薬~販売、バリューチェーンにおけるDXの推進

製薬産業では、研究開発から市場導入後の販売までのバリューチェーンにおいて、変革・効率化を図る取り組みがなされています。日本では、新薬の開発に9~17年もの年月を要し、開発成功率は約3万分の1ともいわれています。その分、多額の費用がかかる傾向にあります。このような中、研究開発・臨床試験・生産といったバリューチェーンの上流では、デジタル技術を駆使した報告事例が増えており、製薬会社ではDXによる変革をさらに加速することが期待されています。

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出典:高田篤史、木島百合香、松本拓也「特集 消費財とサイエンスの融合 製薬メーカーのDX 難局を超え、提供価値を高めるデータ活用」『知的資産創造』2022年3月号 野村総合研究所https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/chitekishisan/2022/03/cs20220306.pdf?la=ja-JP&hash=830A8769FD9187B2BE1464212F7164181D5E7B27

また、製薬会社の営業担当者であるMRの活動は、従来は対面での面会が中心でしたが、コロナ禍の影響により、リモート面談、メールによる情報提供、デジタルコンテンツでの情報発信、Web講演会、AIチャットボットなど、DX化の推進はスタンダードになりつつあります。また、リアルとリモートのハイブリッド型の取り組み、製薬会社とIT企業の協業など、DX推進が強化されてきています。このように、従来と異なる環境下で病院の医師や薬剤師に対して活動する中で、MRに求められるスキルや行動は変化しています。それに伴い、MRの育成や指導、サポート体制も変えていくことが必要となっています。

参考:株式会社メンバーズ「製薬会社で進むデジタルトランスフォーメーション(DX)事例まとめ(2021年2月~3月)」https://www.members-medical.co.jp/blog/dx_case/2021/0414/2604/

持続可能なビジネスモデルの構築

創薬の難易度が上昇傾向を示す中、創薬の成功率は年々低下しつつあります。新薬を創出するためには、期間・費用・成功率が重要なファクターとなりますが、従来の製薬各社は、M&Aにより会社の規模を拡大し、研究開発費の規模を増大させてきました。しかしながら、海外では、米国のファーマを中心に、新薬創出に向けて外部シーズや外部機関の活用が進んできています。新薬シーズの権利をアカデミアや創薬ベンチャーから獲得し、実験業務・新薬候補の製造・開発治験を委託会社(CRO、CMO、CDMO)に外部化することで、新薬の市場導入を目指す動きが加速しています。日本では、様々な制約からアカデミア等のシーズの活用割合が低い現状ではありますが、革新的な新薬創出のためにも、新たなビジネスモデルを構築していくことが期待されています。

参考:経済産業省(前掲資料)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shomu_ryutsu/bio/pdf/005_02_00.pdf

個別化医療の実現に向けた取り組み

先ほど述べたように、日本では高齢化に伴い医療費が増加していますが、それに対しては、個別化医療の実現による医療経済学上のベネフィットが期待されています。近年、生命科学分野における研究の進展により、個別化医療が一部実現しています。個別化医療とは、患者さんそれぞれの遺伝的背景・生理的状態・疾患の状態などを考慮して、一人ひとりに最適な治療法を設定する医療と定義されます。同じ薬剤でも人によって効き目に差が生じることがありますが、それを服薬前に調べる検査は一般的ではないため、最適な薬剤にたどり着くまでに試行錯誤を繰り返すことが多いのが現状です。個々の治療履歴が蓄積されにくい日本の医療システムにも課題があるといわれています。個別化医療は、一人ひとりの患者さんの状態に合わせて「適切な薬を、適切な患者さんに、適切な量だけ投与する」ことが目的ですが、今後、業界の垣根を超えた企業間連携、情報のオープン化、仕組み作りといった取り組みが求められてきます。

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出典:南雲明「個別化医療実現に向けた製薬企業の動向」JPMA News Letter No.144 https://mol.medicalonline.jp/newsletter/m86ubn00000002kn-att/2011_144_12.pdf
参考にした情報 https://batonz.jp/learn/7361/
https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/000398096.pdf
https://unistyleinc.com/techniques/1599
https://www.cloud-for-all.com/dx/blog/what-is-the-pharmaceutical-industry
https://rolandberger.tokyo/journal/2899/
https://toyokeizai.net/articles/-/212782

医薬品業界のミドルマネジャーが対処すべき3つの課題

ここまで述べてきたように、医薬品業界では、従来のビジネスモデルからの変革が求められており、転換期にあるといえるでしょう。医薬品の国際競争は激化しており、新薬開発の成功確率や製品化までのスピードを上げることが期待されています。そのため、新技術の導入や他企業との協業により、創薬プロセスの変革が進んでいます。さらに、高い専門知識を持つ人材を採用し、持続可能な人材戦略を策定していくことも欠かせません。新薬開発の期間・コストの低減、DX推進、新たなマーケティング手法や営業活動の確立、ビジネスモデルの再構築、医療費抑制への対応など、多岐にわたる変革の実現に向けて、現場の活動を率いるミドルマネジャーの役割はさらに重要性が増すものと考えられます。

生産性や効率性の向上

現在、研究開発から販売に至るまで、全てのバリューチェーンにおいて効率化を図る取り組みが進んでおり、従来の業務プロセスや仕組みを見直すことが必要とされています。長期的な視野で目的や目標を明確に設定し、業務の流れを可視化しながらオペレーションを再構築することが重要です。

イノベーションの推進

新薬開発の難易度が上がり、製薬会社単独で研究を進めるよりも、社外に目を向けるオープンイノベーションにシフトチェンジする必要に迫られています。また、国内のMR数は減少傾向にあり、マーケティングや営業活動も変化しつつあります。従来の考え方から脱却し、新たな手法の試行を奨励する組織風土を醸成することが、管理職に期待されます。

専門性の高い人材の採用・育成

医薬品業界では、医薬品の品質、有効性および安全性に関する専門知識や、新たな知見・技術を継続的に学習できる人材が必要です。そのため、人材を採用する際の戦略や、長期的視野でビジネスを展開していくための人材育成も重要な課題となります。社員一人ひとりの能力ややる気を引き出し、成長とキャリアを後押しするには、継続的な支援が必要です。

医薬品業界の管理職のコンピテンシー傾向および得られた示唆

医薬品業界のミドルマネジャーを対象に、MSC/DDIが実施したオンライン・アセスメントでは、全体傾向として以下のような結果が得られています。

MSCでは、設定された「サクセス・プロフィール」に基づき、階層ごとにコンピテンシーと個人特性をアセスメントできるように設計されています。また、人材の選抜だけでなく、アセスメントのレポートを基に素早く能力開発計画が立てられるよう、114にわたるコンピテンシー開発ガイドとオンラインの学習ツールを併用することで、リーダーシップ層の最大化に取り組めます。

●グローバル水準と比較して優位のコンピテンシー
「計画と組織化」「権限委譲/エンパワメント」

●グローバル水準と比較して劣位のコンピテンシー
「効果的な話し合い」「コーチング」

このような結果となった背景には、様々な要因があると推察されます。新薬の開発には、創薬研究から承認に至るまで多くのプロセスがあり、法律やルールを遵守して実施されています。また、製造販売においては、医薬品の品質や有効性および安全性を確保するための規制、販売促進に関わる規約等があります。そのため、管理職が中心となって自組織の業務を効率的に設計し、メンバーに責任や権限を付与しながら実行していくスキルが強化されていると考えられます。一方、職種や領域によって業務内容が大きく異なる医薬品業界では、組織の縦割り文化が浸透している企業が多くあります。また、大きな責任を担う現場の管理職が率先的に指揮を執り、チーム活動を推進しています。このように、同質性の高い環境で業務を推進している背景もあり、他者との生産的な対話や、スキル・知識習得に必要な行動計画にメンバーを巻き込むスキルはやや低い傾向が窺えます。「効果的な話し合い」は、対人関係スキルの基盤であり、「コーチング」は、特定の的に焦点を絞って人材育成を行ううえで必要なスキルとなります。

医薬品業界は転換期にあり、環境変化のスピードに応えつつ、今後の革新的な取り組みを加速していくためには、新たな価値の創出やビジネスモデルの構築に挑戦する組織風土を醸成することも期待されます。また、このような取り組みを推進していくうえで、現場の活動全体を統括するミドルマネジャーに求められる能力が従来と異なることも想定されます。そのため、ミドルマネジャーが自身の保有する能力を客観的に認識し、主体的に能力開発に取り組めるようなサポート体制を構築していくことも期待されます。


MSC/DDIのオンライン・アセスメントにおけるコンピテンシー一覧
カテゴリー コンピテンシー
対人関係スキル
  • 人間関係の構築
  • 効果的な話し合い
リーダーシップ・スキル
  • コーチング
  • 影響力
  • 権限委譲/エンパワメント
  • 変革の推進
  • イノベーションの推進
意思決定/計画スキル
  • 計画と組織化
  • 意思決定
  • 顧客重視

執筆者

コンサルタント 田上 あやの 氏

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