管理職サクセッションプランに基づくサクセッション・マネジメント

管理職サクセッションプランに基づくサクセッション・マネジメント

サクセッションプランとは

サクセッションプランとは

サクセッションプラン(Succession Plan)とは、組織の持続的な向上を見据え、要職の後継者を計画的に育成・配置するプロセスです。次世代の経営リーダーを確保し、組織が掲げる目標と価値を維持・拡張するうえで不可欠な取り組みと言えます。いま、経営層から「次のリーダーは誰か」と問われて即答できる組織は、それほど多くありません。サクセッションプランは、その問いに胸を張って答えるための“未来設計図”です。要職の後継者を計画的に見極め、磨き上げ、しかるべきタイミングで配置する――その一連の流れこそが、組織の持続的な向上を後押しします。

サクセッションプランニングの本質は二つあります。第一に、ハイポテンシャル人材を「点」ではなく「線」で捉えることです。アセスメント・360度評価など多面的なデータを重ね、候補者の行動様式や思考特性を立体的に可視化します。第二に、育成を単発の「研修イベント」で終わらせず、実践的なストレッチアサインメントへ落とし込むことです。戦略プロジェクトのリードやクロスボーダーM&Aへの随行など、挑戦的な環境が候補者の器量を一段押し上げます。

このプロセスは、組織文化・経営戦略・中長期目標と密接に連動します。経営陣は「なぜ今この人材なのか」を定量・定性の両面で説明し、従業員にはキャリアビジョンの選択肢を示します。こうした双方向コミュニケーションが透明性とエンゲージメントを同時に高め、変動の激しい市場環境下でもリーダーシップの継続性を確保します。

適切に設計されたサクセッションプランは、ステークホルダーや投資家へのメッセージ力も強めます。「後継者リスクをコントロールできている企業」は、市場から長期視点の信頼を得やすいからです。人事部門としては、制度運用にとどまらず、経営と同じ視座でタレントポートフォリオを描き切ることが要となります。

次のリーダーが「偶然の出会い」ではなく「必然の選択」となるよう、サクセッションプランをアップデートし続けましょう。

管理職サクセッションプラン構築の課題・悩み

サクセッションプランの構築は、将来を見据えた戦略的な人材育成に求められる重要なプロセスであり、多くの組織で課題やお悩みを抱えています。ここでは、階層別において代表的なものを3つ紹介します。

管理職候補者の不足

管理職候補者の不足は、組織の持続的な成長と競争力の維持において、重大な課題といえます。この問題の背景には、多様な要因が絡み合っています。まず、組織内の人材開発プログラムの不備や欠如が、有能な管理職者候補の育成を阻害している場合があります。人材の育成・評価のシステムが不透明であるか、適切に機能していないことが、管理職者候補の特定や育成を難しくしているのです。さらに、組織のビジョンや戦略が明確でない、または変化している場合も、管理職候補者の適切な評価・育成は困難となります。

組織外の要因も考えられます。人材市場の競争は激化しており、優れた候補者を確保することは難しくなっています。また、世代交代や労働市場の変動により、組織内外で管理職者候補の流動性が高まっていることも、その確保をより厳しくしている一因といえます。

人材要件の定義の不明確

人材要件の定義が曖昧なままになってしまうと、企業が求める管理職像や将来のリーダー像を明確に描けず、後継者候補の選抜基準も散漫になりがちです。どの能力を伸ばすべきかが不透明なまま、個々の実績や上司の印象だけが評価を左右するケースは少なくありません。その結果、「誰を、いつ、どのように育成するのか」という指針が定まらず、研修プログラムの構築や教育投資の効果測定も滞りやすくなります。さらに、評価基準のばらつきが続けば、実は大きな可能性を秘めた人材を見落とすリスクも高まるでしょう。一度方向性を誤ると、後継者育成自体が組織の将来像と噛み合わなくなり、費やしたリソースが徒労に終わる恐れさえあります。この混乱を放置すれば、リーダーシップ開発の土台が揺らぎ、組織全体の潜在力が十分に引き出されないまま停滞しかねません。

管理職候補者の選抜の難しさ

サクセッションプランの策定および管理職への移行プロセスは、組織の持続的発展と成功の鍵でありながら、多くの困難さを内包しています。その背景には、いくつかの原因があります。第一に、管理職候補者の適切な選抜が挙げられます。適性と能力を的確に評価し、将来のリーダーとしてのポテンシャルを見極めることは、非常にデリケートかつ複雑なプロセスであり、多くの専門知識と経験を必要とします。また、組織のビジョンと戦略に沿ったサクセッションプランを策定し実行することも、一層の困難を伴います。組織の目標と個人のキャリア目標を調和させる巧妙なバランスが求められるからです。

さらに、管理職の候補者育成および選抜のプロセスは、時に組織の文化や既存の慣行に対する挑戦となり、変化への抵抗や内部の摩擦を生む可能性があります。この選抜・育成のプロセスには、組織内の明確な評価基準と効果的なコミュニケーションが不可欠です。不明確な評価基準とコミュニケーションの欠如は誤解や不信感を生み出し、管理職候補の選抜・育成および移行のプロセスを危うくします。このような状況には、人事と経営層が連携し、戦略的かつ綿密なサクセッションプランニングを通じて対応することが求められます。

以上のような課題とお悩みは、管理職サクセッションプラン構築の過程で避けては通れないものです。しかし、これらの課題に解決し、効果的なサクセッションプランを構築することで、組織の未来を確固たるものにできるでしょう。

長期的視点と継続的運用の難しさ

サクセッションプランは、企業の将来を担う管理職やリーダーを長期的に見極め、継続的に育成していくための取り組みです。短期的な対策だけでは十分な効果が得られず、経営環境の変化や人材の異動に合わせて計画を常に見直していく視点が欠かせません。しかし、経営トップの交代や組織再編といった大きな変化が生じると、構築したプランを十分に検証しないまま形骸化させてしまうケースが珍しくないのも事実です。本来であれば、こうした転機こそプランの方向性を再評価し、状況に応じて修正を加える絶好の機会といえます。それにもかかわらず、時間やリソースの不足によって社内の優先度が下がり、せっかくの施策が形だけに終わってしまうリスクは否定できません。長期的な視点を貫き、変化に合わせて柔軟に更新し続けなければ、サクセッションプランは実質的に機能しないまま表面的な存在にとどまる恐れが高まります。

サクセッション・マネジメントのポイント

サクセッション・マネジメント(Succession Management)は、組織が将来のリーダーシップの変更や重要な役職の空きポジションに備えて人材を効果的に管理し、対処するための戦略的なプロセスです。このプロセスでは、適切な候補者を早期に識別して育成し、配置することに重点を置いています。サクセッション・マネジメントは、組織の持続可能な成長と成功を確保し、リーダーシップの連続性を保ち、知識と経験を継承する目的で実施されます。

事業戦略と人事戦略を連携させる

サクセッション・マネジメントでは、ビジネス戦略と結びついたリーダーの成功要因を定義することが重要です。MSC/DDIでは事業戦略の方向性を整理し、リーダーの成功要因へ転換する際、「サクセス・プロフィール」のフレームを活用し、主要なコンピテンシーを選出します。

▶【ソリューション】事業戦略と人材戦略を整合させるコンサルテーション ~ビジネス・ドライバー

「サクセス・プロフィール」とは、リーダーのパフォーマンスを包括的に定義し、優れたリーダー像を描くためのフレームです。

人材アセスメントで求めるリーダー像を把握する

人材アセスメントにより、理想的なリーダー像を把握することは、企業の存続に欠かせない要素です。そのためには、リーダーシップスタイル、問題解決能力、影響力、そして人間関係の構築能力など、幅広いスキルや特性を評価する必要があります。アセスメントを通じて、最適なリーダー候補を見極め、組織の進化に寄与することができます。

▶【コラム】準備度を把握する3つの人材アセスメント手法とは

アクセラレーション・プール(AP)方式によるサクセッションプランの構築

将来の経営幹部となる人材を育成するために、MSC/DDIでは「アクセラレーション・プール(AP)」方式を提案しています。これは、短期育成グループ方式とも呼ばれ、対象となる経営管理階層(例:経営幹部、上級管理職)の後継者を準備するために、リーダーとしての将来性が見込まれる人材を特定して育成する体系的な仕組みです。

AP方式では、経営幹部それぞれが自身の後任予定者1~2名を指名するのではなく、経営幹部のポジション全般に対して複数の後継者候補を選び、候補者集団として育成します。

その名が示すように、APのメンバーはさまざまな能力開発機会により、短期間で速やかに育成されます。現有能力レベルを超える難しい仕事やタスクフォースへの任命などから最大限の学習ができ、社内で最も注目されるような場も与えられます。また、専任のメンターがつき、多様な研修、大学の経営者育成コース、社内のアクション・ラーニングなどの特別な学習機会も提供されます。

さらに、フィードバックやコーチングを受ける機会も増えます。そして、経営幹部は人事/人材開発部門の協力を得ながら、APメンバーの能力開発の進み具合や昇格への準備度を積極的にチェックしていきます。一般に、AP方式では、大勢の候補者を広く育成する従来のハイポテンシャル・リストと比較して、より少数の候補者を集中的に育成することができます。

AP方式では、経営トップのポジションを除き、経営幹部が誰をどのポジションの後任にするかを決める必要はありません。後任者計画関連の文書を毎年のように作成して提出するという煩わしい作業から解放され、候補者のスキルと知識の強化という、まさに「将来のリーダーの育成」に、より多くの時間をあてることができるようになります。

▶【コラム】AP方式による次世代リーダーの発掘と集中的育成~後継者計画(サクセッションプラン)

コンピテンシー強化による昇進・昇格

昇進・昇格は職場における重要なキャリアのステップであり、これには個人の「コンピテンシー」、つまり職務に対する能力が深く関わっています。昇進・昇格は、従業員が現在の職位からより高い責任や地位、時には報酬が伴う新しい役職へと進むことを指します。昇進・昇格に必要な職務遂行能力、技術的なスキル、専門知識が評価されます。これには、新しい役割で新しいコンピテンシーの強化が求められます。

コンピテンシーには、技術的なスキルだけでなく、コミュニケーション、リーダーシップ、問題解決能力などのソフトスキルも含まれます。これらは、職場での成功を測る基準となり、昇進・昇格のプロセスで重要なファクターとなります。高いコンピテンシーを持っている従業員は、より責任のあるポジションに適していると判断されるでしょう。

昇進・昇格の過程では、従業員の過去の業績と将来の潜在能力が、そのコンピテンシーに基づいて評価されます。このため、昇進・昇格を目指す従業員は、自らの能力を継続的に向上させ、それをはっきりとパフォーマンスすることが重要です。さらに、昇進・昇格の可能性を高めるためには、求められるコンピテンシーの強化に注力することが必要です。

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MSC/DDIが提唱するサクセッション・マネジメントにおいて、適性評価は経営人材のプール作成に不可欠な要素です。適性評価を通じて、個々の能力、適性、およびリーダーシップ資質を詳細に分析し、組織の将来的なリーダーシップポジションに最適な候補者を特定します。これにより、多様なバックグラウンドと能力を持つ候補者群が維持されます。組織はリーダーシップの連続性を保ち、変化するビジネス環境に適応できるようになります。適性評価と経営人材のプールは、サクセッション・マネジメントの成功を保証するために相互に関連し、補完し合っています。

管理職サクセッション・マネジメントと人材アセスメント活用の重要性

管理職のサクセッション・マネジメントは、企業が継続的に成果を高め、競争力を保つうえで重要な戦略の一つです。特に、経営環境の変化が激しく、限られた優秀人材の獲得競争が激化している今日においては、予測可能な将来だけでなく、不測の事態にも速やかに対応できるリーダーの確保が重要性を増しています。人事部門やCHRO、さらには経営幹部が一丸となって体系的なアプローチを取ることで、いかに優秀な人材を見極め育成し、組織のリーダーシップ層の質を高めるかが、企業がさらに飛躍するためのカギとなるでしょう。

サクセッション・マネジメントを効果的に運用するためには、客観的な人材アセスメントの活用が必要です。管理職候補やハイポテンシャル人材を選抜する際には、単に業績評価や上司の印象だけで判断するのではなく、能力・行動特性・ポテンシャルといった多角的な視点から評価を行うことが求められます。心理学的手法やアセスメントセンター方式、360度評価などを活用し、候補者の強みや弱み、将来的な伸びしろを明確化することで、一人ひとりに適した育成施策やキャリアプランを提示できるようになります。これによって各候補者のモチベーションが高まり、組織全体としての人材力やリーダーシップ能力が底上げされる効果が期待できます。

また、人材アセスメントのデータを長期的に蓄積・分析することで、組織が必要とするスキルやリーダーシップ像を定量的に把握し、人材選抜や配置転換にも生かせるようになります。こうした客観的かつ戦略的な人事データは、経営陣やCHROが迅速な意思決定を行うための力強い土台ともなるでしょう。サクセッションプランの円滑な実施は、企業の未来を左右する重大人事施策であり、それを支えるのが高度な人材アセスメントの活用です。したがって、人事部門は効果測定とフィードバックの仕組みを整備し、継続的な改善と組織能力の向上に取り組む必要があります。さらに、経営人材プールが適切に管理されていれば、組織の透明性と信頼性が向上し、内外のステークホルダーに対して組織の健全性とリーダーシップの資質を示す重要な指標にもなります。

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