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リーダーを定着させるための7つのベストプラクティス

離職率の変動は組織への警鐘

組織が成長していくうえで、従業員の退職はよくあることです。しかし、離職率、特にリーダーの離職率の高さは、チームや生産性に大きな混乱をもたらす可能性があります。MSC/DDIの「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023」によると、54%の組織が、2022年に離職率の上昇を経験しています。離職率の変動は組織への警鐘となっており、離職率とその悪影響を最小限に抑えるためのリテンション戦略の重要性が強調されています。問題は、多くの人事担当者やリーダーが、何から始めればいいのかわからないということです。本コラムでは、リーダーの定着に必要なベストプラクティスを深掘りしていきます。

なぜリーダーを失うとその代償が大きいのか

リーダーの離職率が高いことは、組織にとって費用がかかるだけでなく、生産性も低下します。また、退職者の後任を迅速に探さなければならないというプレッシャーが人事部門にかかることになります。世界の1,556の組織で13,695人のリーダーを対象に実施した最新の調査「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023」において、CEOを悩ませる課題の上位3項目は、人材に関する問題であることが明らかになりました。

  1. 優秀な人材の獲得と定着
  2. 次世代のリーダーの育成
  3. エンゲージメントの高い従業員の維持

しかし、こうした問題は解決することができます。人材のトレンドを先取りし、従業員のリテンション目標を定め、リーダーシップのベストプラクティスを学ぶことが、その解決策として役立ちます。これらにより、人事担当者は将来のリーダーの人員計画を立てる機会を見出せるようになります。

多様なリーダーを定着させることの重要性

組織は、様々な背景をもつリーダーのパイプラインの構築を重要視しています。その理由は、多様性をもつことで、視点やアイデアの幅が広がるからです。多彩なリーダーを有することには明確なメリットがあります。MSC/DDIの「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンレポート2023」によると、業績が同業他社を上回る組織は、リーダーの多様性が高いことが示されています。また、異なる背景をもつリーダーを有する組織は、「世界で最も賞賛される企業」に選ばれる確率が高く、多様性によって、人材を惹きつけやすくなる可能性もあります。リーダーシップに幅をもたせることには多くの利点がありますが、組織は多様なリーダーの確保という課題に直面しています。私たちの調査では、どの階層においても、女性リーダーと人種・文化的マイノリティのリーダーは、昇進のために転職する必要性を感じている確率が顕著に高いことが判明しました。

多様なリーダーが退職すると、組織は彼らの経験、組織の知識、多面的な視点を失うことになります。また、退職するリーダーの負の波及効果として、他のリーダーも同様に退職を考えるようになるかもしれないということがあります。 組織は、多様な人材を採用することと、多様な人材を確保することの両方に注意を払うべきなのです。

リーダーの定着率向上における人事の役割とは?

人事担当者がリーダーの定着率向上について考えていない場合、気がつかないうちにパフォーマンスの高いリーダーを失っている可能性があります。しかし、人事部門は、リーダー人材に対する確固たる戦略を策定することで、リーダーの定着率を高めることができます。この戦略には、優れたリーダー人材を社外から惹きつけるための明確な計画も含める必要があります。また、優れたリーダーシップ・パイプラインを特定するサクセッション・プランニング・プロセスも含めなければなりません。さらにこの戦略は、リーダーの役割を担う人材プールで、女性やマイノリティ、これまで機会が与えられなかった目立たない地域や部門などのあらゆる人が均等に機会を提供されるように、定期的に見直す必要があります。また、リーダーの後継者育成のためのプロセスも盛り込み、将来の職務で成功する機会を均等に与えることも必要です。 そして、その戦略ではハイポテンシャル人材についても考慮しなければなりません。性別や人種・文化的背景にかかわらず、すべてのハイポテンシャル人材が同じプログラムを利用できるようにすべきです。誰もが平等に次の昇進に備える機会を得られるようにすることが、成功への鍵なのです。

リーダーの定着率向上のための7つのベストプラクティス

優れたリーダーを定着させるのは難しいことではありますが、リーダーを定着させるためのベストプラクティスがあります。以下の7つのベストプラクティスは、リーダーが組織にとどまるか否かに直接影響を与えることが明らかになっています。

1. 各役割における優れたパフォーマンスを定義する
成功の定義が明確でない場合、リーダーは自分がどのような結果を出しているのかがわからず、期待に応えられるかどうかを疑問に思うかもしれません。また、特にパフォーマンスの高いリーダーにとっては、成功が定義されていない場合、自分の役割に達成感や充実感を得ることができず、苦労することがあります。

2. 明確なキャリアパスを形成する
自分のキャリアパスをしっかりと理解しているリーダーは、組織にとどまる確率が高くなっています。長期的な目標を定めることで、リーダーのモチベーションを向上させ、何を目指しているのかを明確にすることができます。

3. 共感を示すリーダーを育成する
自身のウェルビーイングに対して直属の上司が真剣に配慮してくれていると感じているリーダーは、組織にとどまる確率が高くなります。彼らは、将来の機会のために上司が自分を成長させようと尽力してくれていると感じ、昇進が決まる際には自分にとって最善のメリットが考慮されていると信頼するかもしれません。

4. 能力開発を優先させる
業務との関連性がある質の高い能力開発計画を作成しているリーダーは、組織にとどまる確率が高くなっています。彼らは、組織が自分の将来に投資していると感じ、将来の機会に備えてさらに成長することにメリットを感じています。また、能力開発計画を策定することは、リーダー職への昇進に向けた準備にも役立ちます。従業員がキャリア開発計画を文書化し、従業員と上司が継続的かつ容易に参照できるようにしましょう。

5. 効果的なコーチングを促進する
リーダーが直属の上司から効果的なコーチングを受けていると、組織にとどまる確率が高くなります。コーチングを受けることで、彼らは評価されていると実感し、自分のスキルについて上司と対話を深めることができます。このようなリーダーは、より綿密なフィードバックとアドバイスの機会を得ているため、チャンスが訪れたときに、より準備ができていると感じるようになります。コーチングスキルが自然に身につく人もいるかもしれませんが、開発しなければならない人もいます。そのため、リーダー自身がコーチングを行えるよう、他者を成長させるための一貫したトレーニングの機会を提供することも重要です。そうすることで、次期リーダーは必要なときにコーチングを受けられるようになります。

6. 定期的にフィードバックを提供する
自分のスキルについてフィードバックを受けている人は、組織でより長く働き続ける確率が高くなります。その理由は、将来、より効果的に成長するための貴重な洞察を得ていることを理解しているからです。

7. リーダーが確実に良いスタートを切れるようにする
業務を進めるために必要なツールや情報をもっているリーダーは、組織に定着する確率が高くなります。これはオンボーディングのプロセスから始まります。早い段階で業務に必要なツールや情報を備えておくことで、リーダーは自分の役割に速やかに適応し、良いスタートを切ることができるようになります。 リーダーが効果的に業務を行うために必要な情報やツールがそろっているかを定期的に確認するフレームワークを使用すれば、必要に応じて継続的にニーズを把握しやすくなります。リーダーが活躍するためにさらに必要なものがあれば、人事部門は他部門と提携して提供することができます。

前兆に気をつける

退職するリスクが高い人は、以下のような兆候を示すことがあります。

1. リーダーの燃え尽き
リーダーが疲れ切っているように見えたり、仕事への活力が低下しているように見えたりする場合、燃え尽き症候群となる危険性があります。燃え尽き症候群はより大きなストレスを引き起こし、ワークライフバランスとエンゲージメントを阻害します。燃え尽き症候群を経験したリーダーは、1年以内に退職するリスクが非常に高くなります。

グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023」調査において、35歳以下のリーダーの70%が、1日の終わりに気力を使い果たしたと感じると回答しており、女性やマイノリティグループではその割合がさらに高いことが判明しています。燃え尽き症候群は従業員の離職につながりますが、共感を示すことでその影響は軽減することも明らかになっています。1日の終わりに気力を使い果たしたと感じるとき、共感的なリーダーがいれば、従業員が退職する確率が低くなるのです。その理由は、共感的なリーダーは、直属の部下が経験していることを理解しようとするからです。彼らはチームメンバーの問題に耳を傾け、部下のウェルビーイングに真剣に配慮していることを示します。これとは対照的に、上司が対人関係スキル(例えば、共感的に聴き反応するなど)を効果的に使っていない場合、直属の部下が1日の終わりに気力を使い果たしたと感じる確率が1.8倍高くなります。

2. 仕事に取り組む意欲をもとうとしない、あるいは意欲がない
従業員のエンゲージメントと定着率の関係はよく知られています。リーダーが自分の役割に従事しなくなった場合、退職する確率が高くなります。以前ほど仕事にやりがいを感じられなくなっている可能性もあります。
私たちの調査においても同様の結果が得られています。具体的には、従業員の定着とエンゲージメントの要因には重複するところが見られました。“最新の能力開発計画”、“明確なキャリアパス”、“ウェルビーイングに配慮する上司の存在”は、すべてエンゲージメントと定着の両方に影響を与えています。リーダーが自分の役割に積極的に従事しているとき、彼らは仕事に没頭しています。仕事について語り、物事を成し遂げます。一方で、意欲を失っているときは、このようなことはせず、仕事から遠ざかったり最低限のことしかしなくなったりします。定期的に状況を確認することで、人事部門もリーダーも同様に、リーダーのエンゲージメントを維持する機会を特定することができ、ひいてはリーダー人材の流出を最小限に抑えることにもつながります。

3. 質の低い対話
離職リスクの高いリーダーは、他者と質の高い対話ができていない可能性があります。ペースの速い職場環境では、じっくり対話をする時間を確保することは難しくなります。リーダーはチームメンバーと定期的な接点をもてず、業績評価、コーチング、キャリアに関する話し合いなどで、有効な時間を過ごせていないと感じているかもしれません。リーダーはしばしば、重要な仕事を確実に遂行するためには日々の管理業務に多大な時間を費やす必要があると考えています。この日々の管理業務によって、チームメンバーとの対話の時間を犠牲にしている可能性があります。定期的に活発な対話をしなければ、リーダーが共感を示したりコーチングを提供したりして人間関係を構築することは難しくなります。

私たちの調査において、日々の管理業務に多くの時間を費やすリーダーは、チームとの対話に多くの時間を費やすリーダーに比べ、退職を考える確率が2倍高いことが判明しています。人事部門は、対話の頻度と質を向上させることができます。人事部門がリーダーシップという人間的な努力を重視する組織文化を奨励すれば、リーダーはより多くの時間を質の高い対話に費やすことができるようになります。 また、人事部門は、リーダーが時間管理、権限委譲、優先順位づけといった重要なスキルを身につけ、メンバーとの対話に多くの時間を割けるようにするための研修プログラムを実施することもできます。

4. パフォーマンスの曖昧さ
もうひとつの前兆は、期待されるパフォーマンス(成果)の理解と関係があります。リーダーが自分の役割において、期待されるパフォーマンスとはどのようなものかを理解していないようであれば、自分がうまくいっているのかどうかがわからなくなってしまうかもしれません。何をもって優れたパフォーマンスとするかが不明確な場合、リーダーは自分のパフォーマンスがチームの成功に不可欠であると感じることができないかもしれません。また、成功の基準が不明確であれば、どのようにすればハイパフォーマーになれるのかを疑問に思うかもしれません。自分自身が期待されるパフォーマンスを理解していなければ、チームメンバーにコーチングやガイダンスを提供することも難しくなります。また、他者を誤った方向に導くことを恐れるかもしれません。パフォーマンスの曖昧さによる兆候は見えにくい可能性がありますが、曖昧さを経験しているリーダーは、自分が期待に応えられているかどうかを頻繁に尋ねるかもしれません。あるいは、役割の明確化に関するガイダンスを求めるかもしれません。人事部門は、職務記述書が文書化され、各リーダー職の主な業務とコンピテンシーの概要が明記されていることを確認する必要があります。 さらに、パフォーマンスや能力開発についてリーダーと頻繁に話し合うことで、曖昧さを最小限に抑えることができます。人事部門は、リーダーを支援し、質の高いパフォーマンスに関する話し合いを定期的に行いやすくするための措置を講じることができます。

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従業員エンゲージメントと定着のための実践ガイド

執筆者: DDI社 行動研究分析センター(CABER) シニリサーチマネジャー ロージー・ライン

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