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2025年の4つの重要なリーダーシップ・トレンド ~人と人とのつながりが将来の成功をもたらす~

本コラムでは、2025年に重要な4つのリーダーシップ・トレンドをご紹介し

2025年以降に成功を収めるリーダーとは

AIや自動化、デジタル変革によって形成される未来へと進む中、リーダーシップを発揮するためにはテクノロジーを駆使する能力が不可欠だと考えがちです。しかし、2025年のリーダーシップ・トレンドを見てみると、意外な真実が浮かび上がります。それは、最も重要なのはテクニカルスキルではなく、「人とのつながりを築く能力」であるという点です。現在、組織はAIの導入やハイブリッド型勤務に関する課題への対応、多様なスキルをもつ人材の必要性、そして差し迫るリーダーシップ・パイプラインの危機に直面しています。こうした課題を乗り越えるうえで最も強力な手段が「人とのつながり」であることは明らかです。

2025年以降に成功を収めるリーダーは、信頼関係を築き、真のつながりを育むことで、柔軟で革新的なチームを鼓舞できる人です。本コラムでは、2025年のリーダーシップ・トレンドを掘り下げ、人とのつながりが単なる付加価値ではなく、未来の組織成功の鍵となる理由を探ります。

2025年のリーダーシップ・トレンド

トレンド1:AIとイノベーションのパラドックス ― テクノロジーとヒューマンタッチのバランス

AIが進化する環境において、職場での成功を牽引するリーダーの役割はこれまで以上に重要になっています。

MSC/DDIのグローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2025調査では、リーダーの声に耳を傾け、職場でのAI活用に関する彼らの経験を詳しく調べました。その結果、テクノロジー、営業、マーケティング、財務など、あらゆる業界や職種において、リーダーはAI導入に伴う倫理的課題に直面していることが明らかになりました。従業員の間では、雇用の安定性やAIによる職場の監視に対する懸念が広がり、大きな課題として注目されています。AIは効率性とイノベーションを促進する可能性を秘めていますが、その技術が従業員の生活や働き方に及ぼす影響については慎重に考慮する必要があります。

ここ1年で、職場におけるAIの活用は、初期の興奮や試行錯誤の段階から、より実用的で倫理的な応用段階へと成熟してきました。この変化はチームに大きな影響を与える可能性があり、従来の働き方を好む人々を不安にさせる場合もあります。リーダーは、AIがもつ莫大な経済的可能性と、職場での人間的側面を重視する姿勢とのバランスを取るうえで、極めて重要な役割を果たします。AIを活用して真の成功を収めるには、リーダー自身がAIは人と人とのつながりを補強するものであり、決して代替するものではないということを認識する必要があります。対人関係スキルはこれまで以上に重要となります。成功する組織とは、AIを活用して従業員に力を与え、コラボレーションやイノベーション、そして信頼を促進できる組織です。

“テクノロジー、営業、マーケティング、財務など、あらゆる業界や職種において、リーダーはAI導入に伴う倫理的課題に直面している。”

トレンド2:物理的な職場を超えてハイブリッドな世界でつながりと信頼を築く

職場環境がオフィス勤務からハイブリッド型勤務やリモートワークへ移行したことで、チームの連携やコラボレーションの方法が大きく変わりました。従業員がさまざまな場所やタイムゾーンに分散している多くの組織では、従来のように親密な関係を築き、公平な経験を育む方法は時代遅れになりつつあります。当初、リーダーがハイブリッド型勤務やリモートワークの環境において、強いつながりやコラボレーションを維持できるのか疑問視されていましたが、リモートやハイブリッドで働くリーダーは、オフィス勤務のリーダーよりも高い成果を上げていることが明らかになっています。

MSC/DDIのグローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2025によると、ハイブリッド型勤務やリモートワークのチームを管理するリーダーは、従業員とのつながりや多様性を受容する環境を醸成する確率が2.5倍高いことが示されています。この調査結果は、コラボレーションが対面での交流に依存しているという従来の考え方を覆すものです。では、これらのリーダーはどこが違うのでしょうか?

ハイブリッド型勤務やリモートワークのリーダーは次の2つの重要な分野で優れていることが判明しています。それは、従業員のウェルビーイングを定期的に確認することと、信頼を維持することです。これらの行動は、リーダーがチームメンバーと良好な関係を育み、信頼と忠誠心を高めるのに役立ちます。強いつながりは、リーダー自身にも恩恵をもたらします。調査では、リモートチームやハイブリッドチームで働くリーダーは、オフィスで働くリーダーに比べてエンゲージメントが高い確率が3倍、1年以内に退職する意向のある確率が半分以下であることが示されています。これは、リーダーとチームメンバーとのつながりがコラボレーションとポジティブな従業員体験をいかに促進するかを表しています。重要なのは、「どこで働くか」ではなく、「何をするか」なのです。

これらの調査結果は、オフィス勤務への復帰をめぐる議論にも新たな視点をもたらします。経営陣はこれまで、オフィス勤務に戻すことで人材プールを狭めるか、リモートワークを受け入れてより多くの人材を惹きつける一方で、チームの一体感を損なうリスクを負うか、といった難しい選択を迫られていると感じていました。しかし、実際には、どちらか一方を選ぶ必要はありません。最も成功しているリーダーは、従業員の柔軟な勤務形態を尊重しながら、人とのつながりやコラボレーションを促進するバランスの取れたアプローチを採用しています。これにより、場所に縛られることなくどこでも活躍できる、機敏で革新的なチームをつくることが可能になるのです。

トレンド3:未来志向のマインドセットの力 ― 多才な人材の育成

ビジネス環境は劇的なスピードで変化しており、リーダーはかつてない複雑さと高まり続ける顧客の期待に直面しています。顧客は、より個別化された、シームレスで影響力のある体験を求めているため、単に現状を維持するだけでは不十分です。さらに、消費抑制傾向が課題を複雑にしています。消費者は支出を抑え、より慎重に選択を行うようになっています。そのため、組織が顧客の関心を惹きつけ、維持するには、これまで以上に努力しなければなりません。ブランド・ロイヤルティを築くためには、質の高い製品やサービスだけでなく、すべての接点で価値と関連性を提供することが求められます。激しい競争の中で組織が優位性を維持するためには、迅速に変化し、戦略、価値提供、そして組織文化を進化させる必要があります。

この変化の最前線に立つのがリーダーです。彼らは常に俊敏さを保ち、継続的に新しいスキルを学び、変化する課題に対処する能力を身につけなければなりません。そして、アジリティと適応力を重要な強みとして受け入れるようチームを促し、つながりとコラボレーションを大切にする文化を育む必要があります。このように協力的な文化を醸成することで、リーダーは共通の目的意識によってチームを結束させ、市場の変化に速やかに対応し、イノベーションの限界を広げ、進化する顧客ニーズに正面から応えることが可能になります。

チーム内の強固な人間関係は、こうした迅速な対応力を引き出す鍵となります。メンバーがつながりを感じ、一致団結することで、日々の業務に創造性や洞察力、柔軟性がもたらされます。このような社会的ダイナミクスを理解するリーダーは、チームを適応力に富んだ強力な集団へと変え、現代のビジネス環境における複雑さに俊敏かつ粘り強く対応できるようになります。

最終的に未来を切り開くのは、人と人とのつながりを活用して適応力とイノベーションを推進できるリーダーです。変化が常態化する現代においては、こうしたつながりや成長の機会を優先するリーダーが、不確実性の中で組織を成功へと導きます。彼らは業界の先駆者となり、長期的に顧客のロイヤルティを獲得していくことでしょう。

“激しい競争の中で組織が優位性を維持するためには、迅速に変化し、戦略、価値提供、そして組織文化を進化させる必要がある。”

トレンド4:リーダーシップ・パイプラインの危機 ― 燃え尽き症候群と敬遠されるリーダー職への対応

今日のリーダーを取り巻く厳しい環境は、リーダーシップ・パイプラインの脆弱化という危機に直面しています。多くの組織が、次代を担うリーダーを見出しリーダー職を安定的に充足することに苦労しており、チームの結束やパフォーマンスが低下するリスクが高まっています。

リーダー職のストレスや孤立感が増すと、リーダー自身が燃え尽き症候群やエンゲージメントの低下に陥る確率が高くなります。この状態はチーム全体にも悪影響を及ぼし、士気や生産性の低下を招くだけでなく、チームを支える信頼関係にもひびが入るおそれがあります。その結果、組織全体で負のスパイラルが生じます。さらに、リーダー職の過重な負担を目の当たりにしたチームメンバーが、その役職を目指すことをためらうケースも増えています。この現象は、「Conscious Unbossing(あえて管理職にならない)」と呼ばれ、特にZ世代を中心とした若い世代には、従来の管理職ではなく、起業家や専門職といった別のキャリアを選ぶ傾向が見られます。これは一時的な傾向ではなく、組織の安定性に対する長期的なリスクを示唆しています。意欲的で十分に準備の整ったリーダーが不足すれば、燃え尽き症候群やエンゲージメントの低下が組織全体に波及し、結果として、従業員の定着率や顧客満足度、ひいては組織の収益にまで影響が及ぶ可能性が高くなります。

この傾向は深刻ですが、克服できないものではありません。組織は今こそ、リーダーの育成と支援の方法を再考すべきです。持続可能なリーダーシップ・パイプラインを構築するには、リーダーのウェルビーイング、レジリエンス(回復力)、そしてつながりを重視する仕組みや文化を醸成するための投資が不可欠です。今から積極的な取り組みを行うことで、より健全で結束力の強いチームと、将来に向けた強固な基盤を築くことができます。

“リーダー職のストレスや孤立感が増すと、リーダー自身も燃え尽き症候群やエンゲージメントの低下に陥る確率が高くなる。”

2025年のリーダーに求められる「つながり」を築くための行動

これからの1年、チームの絆を深め、より強靭でつながりのある組織を築くために、リーダーには次の5つの取り組みが求められます。

1. 柔軟性、共感、透明性のあるコミュニケーションを通じて信頼を築く

信頼は人とのつながりの基盤であり、柔軟な姿勢、相互理解、そしてオープンなコミュニケーションによって育まれます。最も効果的なリーダーは、EQ(感情知性)の高い人です。自らの課題や学びの経験を共有することにより、オープンで信頼できる文化を醸成します。率直なコミュニケーションを取り、共感的で、チームメンバーが「話を聞いてもらい、理解され、尊重されている」と感じられる支援的な環境をつくります。

2. テクノロジーは、チームの関係を希薄にするのではなく、強化するために使う

リモートワークでもハイブリッド型勤務でも、テクノロジーは障壁ではなくつながりを深めるための架け橋として活用するべきです。コラボレーションを促進する包括的なツールが鍵となります。また、AIも慎重に活用すれば、チームのつながりをさらに強化することができます。

3. 定期的なフィードバック、タフアサインメント、共同学習の機会を提供する

チームの適応力を上げるには、リーダーが一貫性のあるフィードバックを提供し、難しいプロジェクトや学習の場を設けることが重要です。このアプローチにより、AIなどの進化するテクノロジーと共にチームが成長する環境を整えられます。さらに、メンターシップも重要な役割を果たします。特に、リーダーが熱意をもちつつ健全な境界線を示すことで、新たな人材がリーダー職を目指す意欲を高めることができます。

4. コラボレーションと心理的安全性を促進し、アジャイルなチームを構築する

メンバーが安心してアイデアを出し、計算されたリスクを取ることや失敗から学ぶことを恐れずに行える環境をリーダーが提供すれば、チーム全体の知性と創造性が向上します。心理的安全性とコラボレーションを高めることで、チームは市場の変化に迅速に適応し、イノベーションを生み出し、組織が成功するための基盤を築くことができます。

5. ウェルビーイングとワークライフバランスを模範として示す

リーダー自身が健全なワークライフバウンダリー(仕事と生活の境界を個人がマネジメントすること)を実践すれば、信頼と相互尊重の文化を育む模範となります。たとえば、就業時間外にメールを送ることを控えたり、休暇を適切に取ったりすることが挙げられます。リーダーが自らのウェルビーイングを優先する姿を示すと、心理的に安全な環境が生まれ、チームメンバーも同様の行動を取れるようになります。これにより、チーム内のつながりが強まります。さらに、リーダーの不在時には、チームメンバーが新たな責任を引き受け、スキルを伸ばす機会にもなります。

これら5つの取り組みを成功させるには、リーダー自身が自己認識を高め、成長にコミットすることが不可欠です。リーダーには、自身の強みや改善点に関するフィードバックや洞察が必要です。特にバルネラビリティを受け入れる姿勢が、真の成長を促します。リーダーがこれらを実践し、自身の成長を追求することで、チームメンバーは意欲をもち、力を発揮できるようになります。その結果、未来の課題に共に取り組む準備が整っていると感じられるような、つながりのある、協力的な文化が醸成されるでしょう。

2025年にリーダーが組織に求めることとは?

2025年を見据え、組織はリーダーシップ開発へのアプローチを進化させ、従来のトレーニングにとどまらず、包括的なサポート体制を構築する必要があります。複雑化するビジネス環境でリーダーが成果を上げるためには、次のような要素が重要となります。

  • リーダーには自身のスキルに関する継続的な洞察が必要である:アセスメントを実施することで、リーダーの強みと能力開発領域について、客観的かつ継続的な洞察を即座に得ることができます。このようなフィードバックは、リーダーが重点的に取り組むべき分野を把握し、個別の成長計画を作成するための基盤となります。
  • リーダーには成長のための強力なサポート体制とリソースが必要である:リーダーが成長し、活躍するには、スキルのギャップを埋めるための個別の能力開発計画と、日々直面する多様な課題に対処するためのメンターシップが必要です。
  • リーダーは、自身の存在意義と役割の重要性を感じる必要がある:組織は、つながりや信頼を重視するリーダーを認め、報酬を与える必要があります。これにより、リーダーがチームに積極的に貢献する意欲を高める文化が生まれます。
  • 次世代人材を惹きつけ、定着させるためには、リーダー職を持続可能なキャリアパスにする必要がある:リーダー職をバランスの取れた持続可能なキャリアパスとして確立することで、次世代の優秀な人材を惹きつけ、長期的に定着させることができます。

組織がリーダーに投資することは、単なる個人の成長支援にとどまらず、イノベーションを推進し、組織全体のつながりを強化するレジリエントなチームの構築につながります。このようなリーダーシップへの投資は、今日の課題を解決すると同時に、未来の変化をうまく乗り切るための基盤を築くのです。

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執筆者:DDI社 行動研究分析センター(CABER) ディレクター ステファニー・ニール

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